第9話 冒険者として

恐ろしい海女さん魅惑的なB地区の罠により、腹の中の物と財布の中身を文字通り放出する羽目となった私とキタン君であったのだが、3日目に私は回復したが、しかしキタン君はまだ本調子では無い上に、買い物と観光をしてから次の町などの情報を集めて出発する予定で宿を取った為に明日の朝にはチェックアウトをするか追加の宿代を納めなければイケない状況である。


私は相棒に、


「キタン君、ちょっと稼いで来るから休んでて」


というと、ベッドの中から軽く手のひらを持ち上げて、ソレを二回程横に振って、


「兄貴…いってら…」


とだけ答えるとキタン君の手はカクンと布団に沈んだのだった。


私は部屋の隅に置いてあるハンマー、槍、剣という3つの武器の中から、槍を選びトッケーの町の冒険者ギルドに向かった。


あっ、ハンマーは腹に力が入らないから今は振り回したくないのと、剣は使った事があまりなく、槍ならば杖代わりになるだろうという理由なだけで槍さばきに自信がある訳ではないとだけ言っておく。


まぁ、冒険者ギルドに登録はしているが、依頼を受けて働いた事は一度たりとも無く、ザザ村で薪集めのついでに倒した魔物素材やたまたま見つけて採取した薬草類を買い取ってもらい自分のお小遣いにしていただけなので、常設依頼である薬草等の買い取りと同時に依頼を受理した形で納品した魔物素材で入ったギルドポイント分しかカウントされていない。


なので、30歳を過ぎて未だにDランク冒険者という私は、Bランクで一人前、Cランクですら半人前という冒険者の世界でいうと駆け出しやヒヨッ子の扱いとなるのだ。


旅用の少し頑丈な『旅人の服』程度の装備に槍を握りしめたオークが一人で冒険者ギルドに入って来ると、この町で稼いでいる冒険者達が、


「おい、見てみろオーク族だぜ…」


とか


「装備なしって…いくら頑丈な種族だからって…」


と呟く仲間に小声で、


「バカ、声がデカイよ。多分あれは猛者だぜ…顔を見りゃ解る」


などとヒソヒソとやられる中、私は初めてクエストボードの前に立ち、


『えぇ~っと、Dランクでも出来る依頼は…』


と心の中で呟きながら、並んでいる依頼文を見るのだが、並んでいる依頼文は『A』だの『B』だの『パーティー推奨』に希に『C』が混じる程度である。


『ヤバイな…受けれる依頼が無い』


と焦るが、稼がなければ文無しで宿から叩き出されてしまう為に、私は受付カウンターに行って職員の女性に、


「スマナイ…依頼を受けたいのだが…」


と声をかけたのだが、冒険者ギルドの中は異様な空気に包まれて私の行動に注目しているのが肌で解る程である。


その職員の女性もその空気を感じたらしく緊張しながら、


「は、はい、ではギルドカードをお願いします」


というので私は言われるまま冒険者ギルドカードを提示すると、彼女は、


「へっ、Dランク!?」


と思わず声を上げると、一瞬「ザワッ」とした冒険者ギルドの中から変な緊張感が消え去り、


「けっ、見た目だけか…」


とか、私の事を「猛者」と言っていた奴は仲間に散々弄られていたのだが、私には関係ない事である為に職員の女性に、


「申し訳ない…たまたま倒した魔物の買い取り専門で依頼を受けた事すら無いので…」


と伝えると、彼女は、


「いえ、ワタシこそ大きな声でランクを発表してしまい…」


とペコペコと頭を下げているので、私は、


「いや、別に謝る事では無いから…それより悪いが私が受けれる依頼を頼みたい」


と伝えると、彼女は書類の束をめくりながら、


「え~っと、ヤジル様ですね…槍をお持ちならば昨日より海流の都合などで大量に港に入り込んだ雷クラゲの駆除作業などいかがでしょうか?」


と薦められた。


雷クラゲは単体ではあまり怖くないのだが大量に居る所に遭遇すると、直列に繋がった電池の様に強い電気を発生させて水中の魚魔物を感電させて補食する厄介者であるらしく、特に海女さんなど漁関係者から嫌われている魔物なのだそうだ。


一匹駆除でギルドから出る賞金が小銀貨一枚…約千円程度と大変お安い駆除代金であるが、体の中にある魔石が同じ程度の厄介さの魔物であるスライムと比べものにならないほど大きいので追加の収入が見込める上に、何しろ数が多いみたいなので頑張れば頑張る程稼げる様である。


私は、


「ではそれでお願いします」


と言って冒険者としての初の依頼を受けて、指定の場所へと向かったのだが、そこには例のトカゲ族の海女さん達が待ち構えていて、


「あら、オークのお兄さんじゃないの、これは頼もしいわぁ~」


と言ってクラゲのせいで仕事にならないのだと私に悩みを打ち明けていたのだが、私の中では、


『アレ、ワルイおっぱい、オデ、ダマサレナイ…』


と今回は無骨なオークの血のおかげで冷静にかつ強い気持ちで対応できて、海女の娘さん達を漁場の磯まで運ぶ為に船を漕ぐ担当である勇ましいフンドシ姿のトカゲ族の男性の船に乗せてもらい磯まで移動し、夕方近くまで数匹ずつ塊でいるクラゲを槍で突いて一匹ずつ船に上げて魔石をナイフで取り出しては海にほぼ粘液状態になるクラゲ本体を捨てる事を繰り返す。


持ち手が木製の槍なので感電せずにクラゲを突き刺して船に上げる事ができ、解体の時に初めて若干イタズラグッズのビリビリペンぐらいの電撃を食らってイライラする程度である。


まぁ、馴れてしまえばどうという事はなく感じるのは陰気な学生時代を過ごした前世の為に、この手のイタズラグッズを他人様より多めに受けるタイプの人生だった事と、今世で頑丈が売りのオーク族という事が大きく、心も体もほとんどダメージ…いや軽くハートにだけのダメージで済んだと思う。


雷クラゲの駆除はこのビリビリするのが苦手な者が多くて誰もすすんでやりたがらない作業らしく、真面目に作業する私にフンドシ姿のトカゲ族の男性も好感を持ってくれたのか、船の上で駆除作業をしながら男同士しか出来ない話をするまでの仲になれたのだった。


フンドシ姿の彼はトカゲ族の漁師の中でも顔役的な存在であるバルガさんという方で、初日に私にカキを売りつけたケシカランおっぱいの海女さんのパパさんらしく、


「何日か前に娘がイイ男って言っていたのがオークの兄さんか…」


などと言って、


「惜しいな…こんな気さくで真面目に作業する男ならすぐにでも跡取りとして婿に来てほしいが、トカゲ族じゃないからなぁ…」


と残念がるところを見ると、あのスケスケオッパイは満更ワルイおっぱいでは無いのかも知れないと思えてきたのだが、バルガさんは、


「あれだろ、ヤジルの兄さんも女達が胸を見せていたので興奮したくちだろ?」


などとイヤラシイ笑顔を向けてくるので私はクラゲを解体しながら、


「ば、馬鹿言っちゃ…はい、特に娘さんのにドキドキしてその日の水揚げを全て購入してしまいました」


と素直に白状すると、バルガさんはガハハと笑い、


「いや、娘に言ったら喜ぶだろうな、あれはトカゲ族にしてはあまり…その…美人では無いんだよ…俺に似たのかな?…本当にヤジルの兄さんがトカゲ族なら良かったのに…」


と益々残念そうにしていた。


『いや、私は娘さんがトカゲ族でも関係ない!』


と一瞬考えてしまった私だったのだが、バルガさんからトカゲ族と他種族との壁についての話を聞くと、美醜の感覚の違いなどは些細な事であり、子供が成せない事も二人の愛が有れば何とかなるかも知れないが、問題はその愛について他種族では長く続かない場合が多く、今では種族として他種族との恋愛は海の神様の祝福を受ける事が出来る次の世代が作れないという事はつまり罪なのだとタブーとなっているそうなのだが、その一番の問題の理由とは、


『トカゲ族の女性との夜の営みが他種族には厳しく、トカゲ族の女性も他種族の男性では満足出来ない』


という問題が有るらしいのだ。


『いや、あんなけしからん乳が付いているのなら満足する自信がある!

もしも、海の神様とやらが私を試す為に上半身が女性で下半身魚の人魚と、上半身が魚で下半身が女性の人魚のどちらかを妻にして良いと言えば例え卵しか産めず子孫を残せないにしても上半身女性のタイプを選ぶ自信だって私にはある!』


と思っているとバルガさんは、


「ヤジルの兄さんは、それでも娘を一人の女性として愛してくれそうだが、問題は多分、昔からトカゲ族の女性が他の種族の男性では満足出来ないという事なんだよ」


と言って彼は私にピースサインを見せながら、


「トカゲ族の男って2つ付いているんだよね…」


と告白してくれたのだが、私は何の話か全く解らずに、


「何が?」


とクラゲの解体の手を止めてバルガさんに聞くと、バルガさんはピースサインをフンドシ辺りに移動させて当たり前かの様に私に向かい、


「えっ、チ◯コだけど?」


と答える…


『何の話かと思えばの話か…確かこんな会話を少し前にもしたな…』


と、竿あり奥さまに続き、二本あり種族という若干この世界の股関事情に不安を感じる私だった。


そんな会話をしながら30匹ほどエチゼンクラゲほどの大型のクラゲを駆除して、魔石を討伐証明としてギルドに提出すると、魔石と討伐の賞金で大銀貨6枚、約六万円ほどの稼ぎとなった。


明日は早朝より仕上げの駆除をすれば漁場で安心して素潜り漁が再開出来そうだとバルガさんが言っていたので、明日もクラゲ駆除依頼を受ける為にカウンターで手続きをして宿に戻り宿屋の親父さんに延長分の宿泊料金を払い、キタン君には宿屋の近くで消化に良さそうな麦粥を屋台の店主に無理を言って皿を明日返す約束で購入して戻り、今日の話を相棒に、


「トカゲ族の男性はムスコが二本生えていているらしいし、トカゲ族の女性は胸を見られても何とも思わないけど、排泄も性行為も卵も産むお尻の穴だけは、他の種族の女性がお尻の穴を見せる何倍も恥ずかしいらしいよ。

あと他の種族の男性との性行為ではお互い緩くて百年の恋も冷めるという評判らしい…」


と伝えるとキタン君は粥を吹き出しながら、


「兄貴は今日、何処で何をしてきたの?」


と、不審者を見るような目で見られる羽目になってしまったのだった。


…確かに、インパクトの有ったトカゲ族の下半身の話題ばかりしていたな…


『スマン、ムッツリ童貞なんてこんなもんさ…』


と思いながら改めて相棒に、クラゲ駆除の話を順を追って話したのだった。


ついでに、トカゲ族の男性はもれなく尻派であり胸派の男は一人たりとも居ないという豆知識をキタン君に伝えると、


「兄貴は、本当に何処に行ってたんすか?」


と、しっかりと呆れられてしまったのだった。


まぁ、ツッコミを入れる事が出来るまで相棒が回復したのだから良かったとしよう…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る