49話 何かを守るためならば迷わず、引き金を引ける

千理が起きたのは夕方だった。私がナツキに拉致られている間ずっと起きていたこともあり疲れがたまったのだろう。


「おはよー葵ちゃん。今何時?」

「今は夕方だ。どんな夢を見たか知らないがそのだらしない顔は何とかした方がいいと思う。」


私は顔によだれがついてることを茶化すように言った


「そんな時間たってたんだ、起こしてくれてもよかったのに」

「笑顔で寝ているところを叩き起こすほど私は無粋じゃない。それに私も私で考え事をしてたんだ。じゃあ早く着替えな」


千理の着替えを待つ間私はドアの前で待っていた。


「こんな時間から、二人でどこ行くんだい?」


幽香は通り掛けの私に声をかけてきた


「下に行くだけだ。別に遊びに行くわけじゃない」

「ふぅん。なら、私も同行させてもらおうかな。人間の構造を知り尽くしてる人間がいたほうが、何かと心強いだろう?」


これから訓練を彼女にすることを知っていたような反応だった


「葵ちゃん、お待たせ!」


着替えを終えた千理が戻ってくると、幽香の姿に気づき、思わず目を丸くする。


「やあ千理君、私も一緒に行くよ。少しばかり、観察も兼ねてね」



訓練場に降りると、照明が自動で天井を照らし、薄暗い空間が白く浮かび上がった。

私は、壁にかかった訓練用の拳銃を手に取り、千理に手渡す。


「基本は私が手解きしよう」


意気揚々と幽香は千理に基本を教えていく。


「構え方から教える。まずは姿勢。両手でしっかり握って、肩の力を抜け。トリガーは焦らず、呼吸と合わせて引く」

「こ、こう?」


ぎこちない構えに、すぐ後ろから幽香がぴたりと密着するように寄った。


「肘が甘い。こっちだよ」

「わっ、ちょっと近っ!」

「気にするな。それよりも、力の配分。足は肩幅、腰は落として、腕はこう」


幽香は冷静に、的確に指導を重ねていく。


「さすが変態女医。いや、万能医師か」

「それ、誉め言葉と受け取っておこう」


基本を叩きこまれた千理は射撃をするが全弾外す。私はそのマガジンを取り換え流れ

フォローを入れる


「全弾外すのはまぁよくあることだ気にすることはない」

「葵ちゃんはどうだったの?」

「初めてでも全弾命中。でもそれはもう機械が入っているからな。気にするな。」

「気にするよー」

「じゃあこうしようか」


私は後ろから千理の耳元に顔を近づけ小声で囁いた。


「今お前の手元に拳銃が握られている。あれは奏を殺したやつ。さぁどうする」


千理は息を一度深く吸い込むと、拳銃を両手で構え直した。引き金に指をかけたその手には、先ほどまでのぎこちなさがまるでなかった。荒ぶっていた呼吸も、今はまるで機械のように整っている。


「……」


狙いを定め、撃った。


乾いた音が訓練場に響く。続けて二発、三発。撃つたびに、標的の頭部に正確に弾丸がめり込んでいく。全弾、命中。


一瞬の沈黙が落ちた。幽香がわずかに目を見張り、私も無言でその腕を見つめた。


「……」


千理は銃を下ろし、振り返る。


「ふふ、どうだ!」


先ほどとは打って変わって、満面の笑顔。


「やれやれ。さっきの全弾ミスは何だったんだ」


「さっきは練習だったけど、今のは“本番”だからね!」


幽香がため息混じりに言った。


「スイッチの入れ替わりが激しい娘は扱いずらいかい?葵君」

「言いたいことはわかるがお前は凹むことはない」


私は軽く頭を掻いた。


 とはいえ。

この子は本当に、何かを守るためならば迷わず、引き金を引ける。


それは、たとえ皮肉でも、才能と呼ぶべきものかもしれない。

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