魔法優位のダンジョンで、剣を極めし少年は最強の配信者となる〜人気美少女配信者とタッグを組むことになったせいで炎上の嵐なんですが?〜

広河恵

第一章:ダンジョンストリーマー・タクミの始まり

第1話「紅月夜のダンジョンにきらめく剣」

 紅色の月に照らされた、高い高いビルの森を縫って飛翔する、一匹のモンスター。


「コカアァァァァァ!!!」


 鳥類の頭に、四つ脚のついた胴体、背中にある巨大な翼を広げたそのモンスターが、雄叫びを上げる。


 あのモンスターがスパイラルグリフォンと名付けられた由来たる、螺旋状に練り上げられた暴風が無数に生み出さる。


 雨のように降り注ぐ魔法の標的は、地上にいる人間たち。


「スネークブレイズ!」


「ウィンドストライク!」


 彼らは攻撃をかわしながら、対抗して現代社会で生きる人間が使うには似つかわしくない力──魔法を放つ。


 こうして目の前で繰り広げられる戦いは、漫画やアニメのようなファンタジーそのもの。


 なのに強烈な違和感を覚えるのは、この場所が現代社会のビル群のど真ん中だからだろう。


 ただしここは、俺たちが普段生活する世界ではなく、現代社会の姿形と瓜二つの異界。ダンジョンの中なのだけれど。


「おい、そっち行ったぞ!」


「くそっ、全然攻撃が効いてるように見えない!」


「そもそも当たってすらいないだろマヌケ!」


 空中にいるモンスターへの攻撃がうまくいかずに、苛立ちの声が聞こえてくる。


「……うーん、どうしたものかね」


 そんな苦戦の様子を、俺──三峰匠みつみねこうは後方で腕を組みながら眺めていた。


「っと」


「チッ、危ねぇなおい」


 スパイラルグリフォンを追いかけて走ってきた一人とぶつかってしまう。


「おいっ、そこの剣士! 邪魔だ!」


「雑魚を片付けたなら、役立たずはどこかに引っ込んでろ!」


「……はいはい」


 苦戦している彼らを手助けせずに、ただ眺めている理由。それは今みたいに、邪魔者扱いされているから。


 迫害される訳は明白で、俺が左腰に刀を携えた、剣士スタイルでここにいるからだ。


 ダンジョンにいるモンスターに対して、剣の刃や銃弾は効果を持たない。


 唯一モンスターに対して有効打となるのが、彼らが使っているような攻撃の魔法。


 そんな魔法を駆使して戦う戦術がすでに確立されているから、俺のように今更剣を携えてダンジョンに来るなんて、非常識と言っていい。


 つまり彼らにとって俺は員数外、足手纏いという認識なんだろう。


「だとしても、もう少し言い方ってものがあるだろ」


 とは思うけど。


 というわけで、今の俺は後方腕組み彼氏面をしてるというわけだ。


 あんな連中の彼氏なんて死んでもゴメンだが。


「それにしたって、今日の連中は連携がまるでなってないな」


 このダンジョン攻略に集まった臨時レイドのメンバーは、普段見かけない顔だった。おそらくは、経験が浅い初心者たちなのだろう。


 加えて、今日のレイドには普段からダンジョン攻略に参加しているベテランたちの姿もない。


 小規模なダンジョンだったし、たまにはそんな日もあるだろうけど、それゆえにレイドの統率力が欠けてしまっている。


 それなら、彼らよりは間違いなくダンジョン攻略の経験値を積んでいる俺が指揮するかと言われると。


『剣士がしゃしゃり出てくるんじゃねえ!』


 なんて言われるのがオチだ。


 だから俺にできるのは、雑魚敵を掃討して、隅の方で彼らの戦いを眺めていることだけ。


「ぐわぁ⁉︎」


 ……なのだが、また一人モンスターの攻撃を受け、戦闘不能に陥っていた。


「おいおい、今日の敵はスパイラルグリフォンだぞ……?」


 今相手しているスパイラルグリフォンは、ダンジョンが初めて発生した五年前から、高頻度で出現しているモンスターの一匹。


 新しく出現したダンジョンのボスモンスターが、過去に出現したボスモンスターと同じであることは往々にしてあること。


 それ故に、あのモンスターの攻略法はとっくに確立されているし、ちょっと勉強してからくれば、苦戦することなんてないはずなのに。


 あるいはそんなもの関係なしに、自分たちの力だけで倒そうとしているのか。


 実際彼らの戦いようは、セオリーから外れた、まるで目立つ事を目的としたような攻撃を繰り返すだけ。


 その結果、スパイラルグリフォンにいいようにされてしまっている。


「また範囲攻撃が来るぞ!」


「離れろ離れろ!」


 最初十人いたレイドメンバーも、今や戦闘を続けているメンバーは三人になってしまった。


 これではもう戦線崩壊、こんな状態じゃスパイラルグリフォンを倒すのは難しい。


「……流石にこれ以上は放っておけないか」


 このまま彼らが黙って全滅させられるのを見るのは、気分も悪いし。


「まずは奴を、空から引き摺り落とす」


 故に地面を蹴り上がって、周囲のビルの壁を駆け上る。


「はっ!」


 ちょうどいい高さまで登って、ガラス窓を踏みつけて一気にグリフォンに肉薄する。


 鞘にしまってある刀に手を伸ばして、魔力を込める。狙うは、奴の羽根の付け根。


「せいあッ!」


 刃を通じて、感触が確かに伝わってくる。狙い通りの箇所に刃を通した感触が。


 片翼を失ったグリフォンは、飛行を維持できずドンッと大きな音を立てて、地面へと落下した。


「……は?」


「な、ん……」


 さっきまで上空を見上げて、グリフォンに魔法を放っていた連中が、言葉を失っていた。


 そんな彼らの前に、ゆっくりと降り立つ。


「すぐに終わらせるぞ」


 攻略法がちゃんと確立されている今、スパイラルグリフォンはばどんな初心者ダンジョン攻略者でも、長くて十分もあれば倒せるモンスター。


 でも俺が奴を殺すのには、二分もかからない。


 なぜなら、あと三手もあれば、奴の首を刎ねることができるから。


「キーーーーーーーー‼︎」


 立ち上がったスパイラルグリフォンの瞳が、俺に狙いを定める。


「想定通りだ」


 再び刀を構えて、こちらも臨戦態勢をとる。


 一手目、羽根をもがれたグリフォンは、螺旋状の風を全身に纏って、突進してくる。


 二手目、その攻撃をギリギリのタイミングで躱す。


 当然俺に攻撃をかわされたグリフォンは急制動をかけて止まり、再度こちらに攻撃を仕掛けるべく振り返る。


 そこに、ほんの数秒の隙が生まれる。それを逃す手はない。


 三手目、グリフォンとの距離を一気に詰め。


「はあぁっ!」


 再び剣に魔力を込めて、今度はその首元目がけて、掬い上げるように剣を振るった。


 ゴトリと、グリフォンの首が落ちると同時に黒い煙となって、残った身体も一緒に消えていく。


「──討伐完了」


 敵の消失を確認して、刀を左腰の鞘に納めた。


 グリフォンが消えると同時に、空に大きなヒビが入って、ダンジョンの崩壊が始まる。


 紅の色が消え、点々と星々が光る青黒い夜空を見上げて、安堵の息を吐く。


 今回も無事に、元の世界に戻ってくることができた。


「大丈夫か?」


 グリフォンの突進から逃げ惑って、尻餅をついたのであろうレイドメンバーがそばいた。


「ほら、掴まれ」


 立ち上がれるように、手を差し出す。


「…………ふ」


「ふ?」


「ふざけるな!」


 いきなり怒号とともに、差し出した手が弾かれた。


「あれは俺たちの獲物だったんだ! でしゃばって横取りするんじゃねぇよ!」


「でしゃばったって……。いや、だとしてもあんな状況じゃ、お前たちだけでスパイラルグリフォンを倒せたか分からないだろ。だから助けようとして……」


「んなことは関係ねぇ! なんだ? 剣でモンスターを倒せるからって目立ちたかったのか? ふざけるなよ!」


 そんな罵詈雑言を並べ立てる。


「そうだそうだ! 剣士なんて大人しく後方で見物してりゃいいんだよ!」


「一人であのグリフォンを倒して天狗になってんじゃねぇ!」


 彼らの仲間らしいレイドメンバーたちもからも、大バッシング大ブーイングの嵐。


「はぁ……」


 予想可能回避不可能なこの事態に、ただただため息を吐くしかなかった。



     *



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