第9話 夜・料理評論家、二郎系を食らう
丼には、山と盛られたモヤシとキャベツ。
見た目はそれだが、丼の中には麺とスープもちゃんと入っているはずだ。
湯気と共に、ニンニクの臭いがすごい。
それが、テーブルに二つ、ドンと乗っていた。
藤原雄輔の向かいには、桜井みさき。
高校時代のクラスメイトだが、まさか社会人になってから、ある意味同業者として再会するとは思わなかった。
藤原雄輔は料理評論家、桜井みさきはグルメブロガー。
二人は、とあるホテルにあるレストランの試食会の帰りであった。
いやまあそれはともかく。
「いただきます」
雄輔は手を合わせた。
飯の前である。
食べなければ。
「い、いただきます。藤原君も、こういうの食べるんだね」
髪をゴムバンドで縛り、自前の紙ナプキン(店には了承済み。さすがだ)を着けたみさきも手を合わせ、箸に手を伸ばした。
雄輔は丼に箸を突っ込み、麺を引きずり出す。
太い。
もっちりだ。
醤油ベースのスープも濃い。
「ん。特に上品な食事の後にね。まあ、反動だろ。ああいう場の飯は、堅っ苦しくてどうも」
「反動がよりもによって二郎系とは……」
キャベツ、モヤシ、そして豚肉。
どれを食べても、脂だ。
野菜は比較的サッパリしているが、それでも脂。
豚肉?
脂以外の何がある。
「美味いでしょ、二郎系」
麺。
スープも飲む。
時間を置くと、麺がスープを吸ってしまう。
バランス良く食べることが肝要だが、それよりもこの野菜の山を崩す。
とにかく食う。
「それは否定しないし、でなきゃ付き合わないよ」
みさきの丼の中身も、着実に減っている。
そういえば、と食べながら雄輔は思い出した。
「ちょっと聞きたいんだけどさ、グルメブロガー」
「何よ、評論家」
「前に大食い系とコラボしてただろ?」
「わたしのチャンネルも、チェックしてくれてたの? あれ、わたしはあくまで観戦だったけど。それで?」
「いや、大食い系挑戦したくて」
雄輔の答えに、みさきが噎せた。
「げふっ……! マジで?」
「マジで」
ちなみに雄輔は、結構食べる。
結構というのも控えめなレベルである。
かなり、いや、すごく食べる。
挑戦してみたいのだ、大食いに。
知り合いにテレビの関係者もいるにはいるが、せっかくの縁である。
高校時代の友人に頼ってみるとしよう。
「連絡取ってみるわ」
「おう、頼む」
丼の中は、残り二割と言ったところか。
雄輔は丼を持ち上げ、野菜と豚と麺とスープを掻っ込み始めた。
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