兄の元カノと弟の元カノから迫られています

田中又雄

第1話 兄が別れた日

 いつも通り家に帰ると、靴が2足並んでいる。


 一つは兄貴の靴であり、一つは彼女さんの靴である。


 俺は現在高校3年であり、兄貴は大学2年である。つまり兄貴とは2つ歳が離れているのだ。


 兄貴はここら辺では一番頭のいい超名門大学に通っていた。

昔から頭がよく、コミュニケーション能力も高く、カリスマ性があり、顔もイケメンであった。


 そのため、女の子にはモテまくり、高校生時代には取っ替え引っ替え彼女が変わっていたのだが、大学に入ってから付き合い出した今の彼女さんとはもう1年ほど付き合っていた。


 どうやら、兄貴も落ち着いたようで安心していた。


 ちなみに流石は兄貴の彼女というべきか、これがまたすごい美人さんであり、確かフランスと日本のハーフだとか...。

さらに所作の全てが流麗であり、気品の高さが窺える。



【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093084702912192


 まぁ、兄貴の彼女という接点さえ無ければ俺なんかが一生関わることのないタイプの女性であることは間違いないだろう。


 初めて見た時は本当にお人形さんかと思うくらい、完全無欠という言葉がぴったりな女性であった。


 更にその人は彼氏の弟である俺とも積極的に話してくれたりと、そういう面でも完璧であった。


 さて、そんな前提はさておき、今日もうちに来ているんだと思いながら、少し心を躍らせながらリビングに行くと、いつもの雰囲気ではないことをすぐに察する。


「...た、ただいま...」


大志たいしか...。おかえり」と、兄貴が返答する。


「...大志くん...お邪魔してます」と、彼女さんが丁寧に頭を下げる。


「...ども」と、こちらも頭を下げて俺は自室に入っていく。

何やら重苦しい雰囲気...もしかして兄貴が浮気でもしたのだろうか?などと、詮索をしようとしたが、流石にやめようと思い、荷物を部屋に置くと気を遣って外に出ることにした。


 そうして、ひっそりと部屋から出て、そのまま玄関に向かっていると「大志」と、声をかけられる。


「...ん?何?」


「...今、大志は彼女とかいる?」


「...え?いないけど...。てか、知ってるでしょ?俺彼女なんていたことないから...」


「...そっか」と、どこが残念そうに呟く。


 なんだその質問と思いながらも、特に気にせず家を出た。


 それからは適当に駅前をぶらついたり、本屋やCDショップなどを巡った。


 そうして、程よい時間になり家に帰ると、既に母さんを含めて俺以外の家族が全員揃っており、兄貴の彼女さんの姿はなかった。


 上手く仲直りできたのだろうか?と、思っていると、食事終わりに兄貴に部屋に呼ばれた。


「...?どうしたの兄貴。なんか彼女さんとあったの?言っておくけど、俺は恋愛相談とか無理だよ?」


「...それは知ってる。とりあえず結論から言うと、俺別れたんだ。シーラと」


 鈴野 シーラさんというのが兄貴の彼女の名前だった。


「...そうなんだ。それは...大変だね」


「...あぁ。振られたんだ。振られるのなんて初めての経験だったから...すごく驚いたし、傷ついた」


「...うん。でも兄貴なら...何とかなるよ」


 なぜそんなことを俺にいうのかは分からなかった。


「...それで、別れた理由なんだが...。実は好きな人ができたらしくてな」


「...ふーん。そうなんだ。それは仕方ないね」


「あぁ。気持ちが冷めちゃったなら仕方ないかなって俺も思う。それで...だ。その好きな人っていうのは...大志。お前のことらしいんだ」


 そう言われた瞬間、思考が停止する。

はい?何言ってんの?ドッキリ?


「...えっと...え?...いや、よく分からないんだけど」


「それはまぁ、俺も一緒なんだが。どうやらお前のことを好きになったらしくてな。それで...素直なお前の気持ちを知りたくてな」


「いやいやいや!いきなり過ぎるよ!てか、話したのなんて数回くらいだよ?兄貴がいない時に家に来た時、少し話したくらいで...」


「...それでもなんだと」


 なんだ?一体何が起きてる?!


 しかし、兄貴はドンドン話を続ける。

最初は戸惑ったが、今はシーラさんの気持ちを尊重し、応援したと思ってるとか。


「...いや...俺は...」


「分かってる。兄の元彼女であることに抵抗があることはわかる。けど、それでもちゃんと話してみて欲しいんだ。頼む」と言われてしまう。


 あまりの当然の出来事に驚きながらも、拒絶する理由が思い当たらず首を縦に振ってしまうのだった。

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