〇〇泥棒
篠崎 時博
依頼人は中学生
雑居ビルが立ち並ぶ「ささやか通り」
ささやかとは名ばかりに、通りのアーケードにはいつも人々が行き交い賑わいをみせている。
そんな通りの一角。
「悩み事、何でもお受けいたします」
そんな
「あーあ」
事務所の立ち上げ当初に買った黒い皮のソファーに横たわり、天井をぼんやりと見つめる。
案の定、悲嘆さを声に出してみても、事務所の電話が鳴ることも、誰かが扉を叩くこともない。
「
彼女の助手であり、また相棒もである
「せっかくインスタもXもアカウント作ったのに、依頼が全然来ない……」
「やっぱり、あのアイコンがダメだったんですかね……」
「えー?
「虎の被り物をした魚って、なんかちょっと微妙じゃないですか……。あとちなみに僕は三郎です」
魚沼はXのアプリを開く。
この事務所のXのフォロワー数は16。
フォロワーは魚沼と虎松の個人のアカウントの他に、よく頼む弁当屋や、ささやか通りにある数軒の店の公式アカウント、そして最近Xをやり始めたという虎松の祖母である。
「第三者にお金払って悩みを打ち明けるなんて、結構勇気がいることなんですよ」
「あなた探偵業10年近くもやっててそれ言う?」
「す、すいませんでした……」
この探偵事務所でいう「仕事」とは「人探し」や「浮気調査」が主だ。けれど、それらの仕事の多くは今やもう大手が引き受けており、最近では「庭の雑草を取ってくれ」だの「買い物に付き合って欲しい」だの、しまいには「商品を確実に手に入れるために代わりに列に並んでくれ」だの地味でまあまあ体力の必要そうな依頼しか来ない。
「最近じゃあ探偵じゃなくて、ただの便利屋になってるじゃない」
「まぁ一応、お金もらってるからいいじゃないですか」
「良くないわよ。ここは便利屋じゃなくて探偵事務所なのよ!」
「ハイハイ」とあしらうように虎松が返事をしたそのときだった。小さいながらも扉を叩く音が聞こえた。
「ハッ!なんてタイミング!!やはり天は私を見捨てなかった……!」
「そんな都合よくいい仕事が来ますかね」
「はい、どうぞ」
虎松が扉を開けると、そこにいたのは紺色の学生服を来た少女だった。
「扉を叩いたのは――、君?」
虎松がそう尋ねると、少女はぎこちなく頷いた。
「え、君一人……?」
虎松は思わず、廊下を見る。未成年がこのような探偵事務所に依頼に来ることは、まずない。
「……はい、一人です」
「えっと親御さんから何か――」
「私一人で来ました」
小さいが、しかしキッパリとした声で少女は言った。
虎松は少女が着ている制服に身に覚えがあった。この事務所の近くにある中学校の制服だ。ここのささやか通りを通学路としている学生は多く、中学生だけでなく高校生もよく見かける。
「ねぇ、ちょっとー。突っ立ってないで中入ってもらえば〜?」
戸惑っていると、後ろから魚沼の声が聞こえた。その通りだ。十代の少女といえど依頼人。訳あってここにきたのだろう。虎松は少女を事務所内へと招き入れた。
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