プロローグ 4

「よし、祐也、まずはお手並み拝見と行こうか。この扉の先は安全か?」


 あっつううううううううううう。

 いや熱いな、死にかけたわ、いや死んだけども。

 俺の異能はかなり便利で死んだり死にかけたりすると自動で発動するのだ。


 多分死んだんだろうな、暑かったし。

 まあ死ぬのは慣れてるので問題なし、あとは試行回数で情報を稼ぐのみだ。

 

 「おい、大丈夫か?祐也?」


 考え込みすぎたらしい、的場君が心配そうにこちらを覗き込んでいる。

 危機感を煽るような表情を作ってから口を開く。


 「どうやらドラゴンは既に卵からかえっているようだ」

 「何??それは本当か?」

 「ああ、扉の向こうから濃厚な死の気配を感じる」


 いくらか緊張した面持ちの的場君が軽く震えた。

 武者震いだろうか?大丈夫?ここで引き返してくれてもいいんだよ?

 そっちのほうが楽なのだ。

 四人のひよっこを守りながらできる限り時間操作の異能を隠すように戦うのはなかなか骨が折れる。


 「な、ならどうすればいい?祐也、頼むお前の直感が頼りだ」

 「まずは扉を開けつつ、壁に張り付くのがいいだろう。警戒すべきはブレスだな」

 

 幸い、隠し部屋前の空間はかなり広いのでそこまで熱はこもらないだろう、多分。

 自信はない、なにせ『見てきた』わけではないのだから。


 「ふう、よし、行くか!!」


 扉がゆっくりと開かれるとともに全員が素早く扉近くの壁に張り付く。

 そして数舜、轟音がひびき、炎が放たれる。

 

 いやあっつ、あっつ、めっちゃ熱いんですけど。

 なんでみんな平気そうなの?身体強化の異能?そう……


 そうして炎はその余韻を残しながらゆっくりと収まっていった。


 「突入だ!!いくぞ!!」

 

 的場君の掛け声を合図に動き出す。

 そうして部屋の主と対面し、そして……

 彼らは絶望に出会った。


 圧倒的な圧と生物としての格の違い。

 それを敏感に感じ取ってしまったのだろう。

 的場君たちは腰を抜かして尻もちをついていた。

  

 終末竜、うん、前回見たのと一緒だな。

 生まれたばかりなのか『前の週』で見たよりかは弱そうだが……

 ていうかでかくね、これ卵もそうとうでかかっただろ。

 なぜ先生に報告しないのか……どうやら的場君たちはかなりの楽観主義者だったようだ。

 

 金色のドラゴンは動き出さずに、こちらを観察している。

 とりあえずこいつらを正気に戻さなければ……

 呆けたような面をして座り込んでいる面々に声をかける。


 「みんな、立って、死ぬよ!!」


 ……反応なし、知ってた。

 まあ死の恐怖はなかなか克服できるものではない、これもしかたがないだろう。

 言葉を選んでいくか……


 「ドラゴンスレイヤーになるんだろ?」


 的場君からの反応はなし、どうやら言葉選びを間違えたらしい。

 代わりにドラゴンが反応した、その巨大な爪をふりかざして。

 狙いは……俺かよ、仕方がないので軽く十秒ほど時間を巻き戻す。

 

 『時間遡行、開始』





 さて、戻ってきました十秒前。

 うーんどうすればいいのだろうか?

 かけるべき言葉がわからん、彼らと特別親しいわけでもないし……

 

 とりあえず時間を稼ぐとしようか、しばらくすれば正気を取り戻すだろう、多分。

 

 こうして始まった時間稼ぎ、正直いってクソだった。

 体感時間ではもう一時間以上は経っている。

 まあ細かく『時間遡行』をしているので実際は三十分程度だろうが。

 そうしてドラゴンの攻撃をのらりくらりとかわしてようやく彼らは正気を取り戻した。


 「悪い、祐也、ぼーっとしてた」

  

 背中から引き抜いた剣をかまえながら、的場君がかけよってくる。

 ほかの面々もゆっくりとだが動き出していく。

 これならいけるだろ、多分。

 

 「よし、いこう!!」


 声だけはたくましい的場君の踏み込みとともに状況が動きだした。

 これは思っていたよりも楽かもしれない。





 そう思っていた時期が俺にもありました。

 訳三千四百回の時間をのりこえてようやく俺たちはドラゴンを討伐した。

 的場君は千回は死んだしほかの面々もかなりの回数死んだ。

 それを覚えているのは俺だけなので彼らからすれば薄氷の上の勝利、その程度の認識だろうが……


 「祐也、お前の直感すごいんだな!!」


 的場君が何やら言っているが知らん。

 というか死にすぎである。

 彼らからすれば戦闘時間は一時間程度であろうが、俺はその数倍の時間を過ごしている。


 疲れた、疲れたんだ、もう。

 自分からブレスにつっこんでいく剣士も。

 前衛なのに一番後ろに突っ立っているタンクも。

 魔法使いなのに恐怖で詠唱を噛みまくる魔法使いも。

 戦闘中なのに茫然自失のヒーラーも。


 もう、疲れたんだ。


 「学園に連絡した後は戦勝会だ!!行こう!!」


 的場君は元気だ、元気すぎる。

 悪いが帰らせてもらおう。


 「俺はパスで、みんな、ありがとな」

 

 言い放って部屋を出る。

 しばらくはこんなことにはならないだろう。


 いえでゆっくり寝よう、そうしよう。

 俺はあくびを噛み殺しながら寮の自室へと戻った。

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