刺繍のハンカチ

柳 一葉

六花の刺繍

 初めて貴方の口から私の名前が出た事に驚きを隠せなかった。

 若宮雪音わかみやゆきね。それが私の名前だ。

 小学、中学と私は順調に過ごしてきた。片思いも経験している。告白はしなかった。

 だってこっちに感情を向けられるのはまだ怖かったからだ。

 今は高校生になり、今日は入学式だ。今年は桜が丁度咲く頃気温であり体育館のドアから舞う桜を、散りゆく桜の姿に見とれていたら、着席の号令が分からずずっと立ってて恥ずかしかったが、私以外にも桜に気を取られてた多分隣のクラスの男の子。彼も私と同様やっと気づいて着席した。

 少し彼に興味を持った。

 私の列が2組なら、多分彼は4組かな?

 恥ずかしさと彼の事が気になり、いつの間にか入学式の挨拶も来賓祝辞になってもうすぐで終わる。

 4月だけど体育館は少し蒸し暑くてブラウスが少し濡れてるのを感じた。ハンカチで拭う、ポニーテールで拭いやすかった。

 ふとまた右側を見ると、気になってる彼は欠伸をしてて、より一層の気になった。

「知りたいな」

 入学式も終わり1組から順に体育館を抜けてく。アリの行列みたいだ。そして、2組の私も列を成してこの場を去る。

 クラスに戻るとレクレーションし早速もうグループが出来始めてる。中学の頃のクラスメイトがこの組にも数人いたが、皆それぞれにグループを作ってる。

 まあ、1人は慣れてる。だが、そんな私に1人の女の子が話し掛けてくれた。

「初めまして、私は橋本はしもとあかりって言うのよかったら話さない?」

 橋本明、彼女は切り揃えたショートカットがとても似合ってて、目もぱっちりしていて声もどこか柔らかくとても愛らしい女の子だ。

「明ちゃんね、私は若宮雪音ゆきねです。よろしくね。」

「雪音ちゃんね。こちらこそよろしく。」

 その後も趣味の話や、好きな本は何なのかと1日にして沢山話した。帰路も途中まで一緒みたいだったので今度から一緒に帰ろうと約束した。

 話が終わるともう教室には私達みたいに話してた数人しか残っていなかった。

 私は少し前からトイレに行きたくて我慢していた。教室から出たら直ぐにトイレは見つかった。事を済まし手を洗いポケットに入れてたハンカチで拭こうとしたら無い。

「嘘でしょ」

 私は焦った、あれは無くしてはいけない、何故なら去年の冬に亡くなった、母から誕生日プレゼントで作って貰った大切な六花の刺繍が縫われてるハンカチだから。

 いそいそと手をパッパと払い思い当たる節を考えたら、そういえばあの時だ。入学式の時に汗を拭った時だ。

 私は急ぎ足で体育館へと向かった。まだ施錠されていないみたいだ。式で使ってた椅子は跡形も無く全て片付けられていた。先程までいた場所だがどこか懐かしくも感じた。式の時に見ていた桜をもう一度見たくてドアを開けた。そしたら

「わぁ」

「え、」

 そこには、あの気になっていた彼が居た。

「あ、君がゆき、ね?さん」

「そうだけど、え、どうして分かるの?」

 桜の花びらの風が、私の髪を撫でるようにふわりと優しく包み込んだ。

「だってほら、ここに名前刻んでるし。」

 彼が握ってた物、それは私が探してた大切なハンカチだった。だが名前が刻まれてたのは初めて知った。

「ありがとうございます。私の大事な物なの、本当にありがとう。貴方の名前教えてくれる?」

「俺は橋本はしもとじゅん。雪音さんのクラスに俺の双子の妹居るからさ、仲良くしてくれると嬉しい。」

 橋本、、、

「明ちゃんの双子?」

「そう、明と俺は兄弟なんだ。まあ、二卵性双生児だから似てはいないけどね。」

 私は驚いた。、確かに顔は似てないけどでも、優しく笑う姿、雰囲気はとても似ていた。

「雪音さん、もう少し桜を眺めて見ない?咲頃だけど、まだ満開じゃいから今が頃合い時かもね」

 橋本さん(兄)いや名前で読んでも良いのか分からないが、ふとこちらを覗いて微笑みかけてくる。

 私はもう色々と困惑していた。気になってた彼の、しかも最初に話し掛けてくれた双子の妹の明ちゃん。

 そして、今ハンカチを受け取り、一緒に桜を見ないかと気になってた人に誘われて私は断れなくて、いや、断りたくなくて一緒に桜を目の前にして共に過ごしてる。

 


《ルビを入力…》「もう、お兄ちゃん何なの?」

「明に頼み事がある。今日クラス発表の表見てたらすごくタイプの子がいてさ。」

「で、何なの」

「分かってくれよ、、、多分明と同じクラスだったはずなんだよな。明より若干背高くてポニーテールだった」

「そんな、私はクラス分けの自分の名前しか見てませ〜ん。なので知らないで〜す。」

 

 

入学式、最初は真剣に聞いてたけどやはりまだ彼女の事が気になって明のクラスの方を偶に見ていた。すると

「え、まさか」

 彼女を見つけて俺は自分の足で立ってる感覚があやふやになって、頭もふわふわしてた。

 彼女がふと右側の暑くて開放されてたドアの方を眺めていた。俺もそっちに視線を向けると、桜が1枚、1枚と俺の方に舞い込んできた。

 とても綺麗だった。

 そして、その桜を見る彼女がとても優しく愛らしかった。

 また、桜に目をやった。朧気に聞こえた声が着席だった事に気づかず、しばらく棒立ちしてた。まあ式が終わり1組からこの体育館を抜けてく。明のクラスも次々と抜けてく。

 俺はまた彼女を眺めてた。その瞬間ふと彼女の足元に何かが落ちた。彼女は気づいてないみたいだった。とりあえず俺の組も退場して後で拾おう。

 クラスのレクレーションが終わり、俺は明にあの子ってここのクラスだったかと聞いた。

「そうだよ、さっき話しかけたよ〜。お兄ぃ何か私にご褒美くれたら色々と教えても良いけど」

「はぁ、お前って奴は。しゃーねーな。今日その子ポニーテールだったか?てか名前は?」

「お兄ぃ必死すぎなんだけど、そうだよポニーテールで名前は若宮雪音ちゃんって言うよ」

「ありがとう明、今日はダッツ奢る」

 明との会話を経て俺は体育館へと急ぐ。

 体育館のドアはまだ開いてた。俺は彼女の落とした物を探した、そしたら水色の雪の刺繍が入ってたハンカチが落ちてた。そのハンカチを握る。そして俺はまた数時間前に見た桜をどうしても見たくて俺はドアを開けてコンクリートの足場に座りそっと閉めた。

 かれこれ10分位見てたかな、そろそろ戻るかと思い立った瞬間ビビッと来た。

「わぁ」

「え」

 やっときた俺の、、、

「君が雪音さん?探してるのってこれかな?」

 彼女、雪音さんは少し涙ぐんで俺に感謝をしてくれた。少し俺らは会話をした。明の話もしたが少し顔が晴れたみたいだった俺は一安心した。無事にハンカチも届けられて、一緒にこうして桜を見ている。明ありがとな。

「あの、橋本くん。本当にハンカチ拾ってくれてありがとう。」

 勢い余りバランスが崩れて押し倒す形になった。ちょっ、これはやばい、、、

 不意に触れた手はとても熱かった。互いに顔までも赤くなりゆっくりと体制を戻す。

 雪音さんは崩れた前髪を整えてる。

「雪音さん、もし良ければ手を繋いでもう少し桜一緒に見ない?」

 彼女の返事に俺は照れた

「なんで君の名前知ってるかって?」

 それはこの桜見た後に言うよ

 

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刺繍のハンカチ 柳 一葉 @YanagiKazuha

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