イオンよりアピタが好き

小説描光

君を追いかけて

あっ...と一瞬振り向く。目的の人はいない。

髪型が似ていたからってあの人と勘違いしてしまったようだ。

あの人はここにいないのに...


まだぬとねのひらがなの違いが分からない頃に遊んでくれていた、

おばあちゃんちの近くに住んでいたあのお姉ちゃん。

僕がおばあちゃんちに遊びに行くときはよく一緒に遊んでくれて、帰るまでずっと一緒にいてくれた。

その時には、よく綺麗な桜が見れる丘まで連れて行ってくれた。

その時は、彼女のニット帽とおそろいにしたくて、鍋を被って出かけていた。

そんなお姉ちゃんとは、おばあちゃんが亡くなってからは遊ぶことがなくなってしまった。

当時は気恥ずかしかったから、あんまり寂しいとも思わなかった。そのまま忘れると思ってた。


そんな僕ももう大学生。あの人のことは薄っすらと記憶の奥にいるだけで、僕の普段の生活には影も見えなかった。

今あってしまっても、今部屋にいる彼女の事をいじられて恥ずかしい思いをするだけだろう。


『ねえ~、こっちきて~』


彼女が呼んでいる。いたずら好きな彼女のことだ。また何かいたずらでもしたのだろう。今行くよ。と返事をする。


キッチンに行ったところ、鍋を被った彼女がこちらに来る

『見てっ!可愛いでしょ~』


一瞬あの人の姿が見えた


あれ..なんで...目を擦る。そこには鍋を被ってニコニコしてる彼女しか見えない。


『このかわいい~かのじょさんに何もなしですかー?かえりまーす。ふんっ』


あの人がみえたことに戸惑っていたら、感想を言いそびれてしまった。

不満だった彼女は部屋に戻ってしまった...あとで謝りに行かないと...


でもなぜ急にあの人のことを思い出したのだろう...

そういえばあのお姉さんも可愛いあの鍋の様なニット帽子を被っていたな...

そんなことを考えてると今まで会っていなかった反動が来るように

『あのお姉さんに会いたい』

それだけを考える様になってしまった。




おばあちゃんちに久しぶりに行ったが、おばあちゃん家は跡形もなく消えていた。取り壊したのだろう。とりあえず近くのお姉さんの家のところに行くことにする。


お姉さんの家も無くなっていた。

困った...連絡先も知らないし、お母さんも知らないらしいし、伝手が無いぞ...どうしよう…

必死に昔の記憶を掘り起こす。


「そうだあの丘に行こう。」


最後の希望だ。縋りつく思いでその場所に足を進める。


ふう...ふう...体力がギリギリのところでなんとかついた。昔の自分に負けたようで悔しい。

景色は昔と変わらずあの綺麗な桜が咲いていた。

でもあのお姉ちゃんはいない。

やっぱりそう簡単には会えないな...アニメのようにはいかないか...

近くのベンチに腰をかける。スマホには彼女からの別れのメッセージが届いていた。

普段ならショックで寝込むが、今はもう全てお姉ちゃんのこと一緒に洗い流そうと思った。そんな時、後ろからあの時の声が聞こえた


『わっ!久しぶり!大きくなったね!』


驚いて後ろに振り向く。彼女は変わらずあのニット帽を被ったあの時のままのお姉ちゃんだった。突然のことで返事が出来ずにいると、お姉ちゃんが続けて


『まさかこんな所で会えると思ってなかったよ!どうしてここに?』


理由をそのまま話すのはなんか恥ずかしいがここを逃すとチャンスはないだろう...


『..お姉ちゃんに会いに来たんだよ.』

『そっか、私に会いに来てくれたんだね。ありがとう』


今までの分がずっと隠されて溜まってたのだろう。ここぞとばかりに溢れ出す


『...ずっとお姉ちゃんと会いたかった!!話したかった!!あの時のこともありがとうってずっと言いたかった!!』

『う、うんそうなんだ...』


暴走は止まらない。子供に戻ったみたいだ。


『あの時からずっと好きだった!!ずっと一緒にいてほしい!!もう離れたくない!!』


全部言い切ったところで我に返る...お姉ちゃんの顔がみれない...


『....うん、うん、ありがとう...私もキミに会えてうれしい。お話も歓迎だよ。』

『でもね、ずっといっしょにいるのは無理かな...』


『私は一つの場所に留まるのは無理なの。ごめんね』


『じゃ、じゃあ一緒についていくから!置いてかないで!』


『そうだね、じゃあ私についてこれたらいいよ。』


勢いよく彼女が飛び出す。置いて行かれないように力を振り絞る。

しかし、ここに来るまでで体力を使い果たしてしまったようで、転んでしまった...

追いつかないといけないのに...


『君に久しぶりに会えてうれしかった。君が私と同じところに来るまで待ってるよ。』










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