星屑の夜

じゅんとく

第1話 別れ

 6月初旬の日曜日……


 その日は朝から雨が降り続いていた。風間聡はベッドの上から止む事の無い雨粒の音を聞きながら目を覚ました。今年小6の彼は何時もと変わらない朝を迎えたが気持ちは何処か晴れず……このまま何もかも忘れてしまいたい気分でいっぱいだった……。


 全ては、昨夜起きた出来事によって彼の人生は大きく変わってしまった。


 昨夜…夜10時過ぎ、家の固定電話に突然学校からの連絡号で母親が電話に出た。母親は、電話先の相手に何度も礼を言って電話を切る。そして…少し戸惑いながら聡と妹の芽衣に向かって震える様子で話し掛ける。


 「聡……あなたの友達だった村木裕太君が亡くなったわ……」


 聡にとっては大きなショックだった。


 村木裕太は聡にとって野球仲間であり、昨日夕方まで野球の練習をして、途中まで一緒に帰ったのだった。


 聡と別れたあとに裕太は事故に遭い、病院に運ばれたが……打ち所が悪く、懸命の処置を施したが助からず、そのまま帰らぬ人となったらしい…。


 聡は信じたくは無かった……、彼とは今度の日曜日の試合で強豪相手のチームと試合する為の準備をしていたのだから。


 (何で事故なんかに遭うんだよ……お前の居ないチームなんて面白くなじゃないか⁉︎)


 聡は亡くなった友人に言いたかった。


 朝、母親が起こしに来て、聡は2段ベッドの上から降りる。


 全てが夢であって欲しいと何度も願った。しかし……現実は全てを聡に見せ付ける。


 昨日の出来事は朝刊の記事にもなり、裕太の顔写真も新聞に掲載されていた。


 学校の生徒達は裕太の告別式に全員出席となり、学校中の子供達が裕太の家に集まった。


 聡は不思議に思った。この生徒達の中で裕太を知っている生徒が何人居るのだ?少なくても同じ学年位なら分かるのに、どうして皆泣いているの?そんなに親密な関係な程、アイツとは面識あったの?


 彼等が泣いている中、聡は涙を流して居なかった……彼とは幼馴染で常にお互いライバル視をしていた。聡は何故か……ここぞと言う場面では、あと一歩裕太には敵わない。


 (次は絶対にお前に勝つ⁉︎)


 聡は何時も裕太にそう言っていた。


 だから告別式を信じたくは無かった。聡は思った……。これは裕太が仕掛けた冗談だと……。自分が悲しそうに振る舞っていたら「ザマァ見ろ!」と、脅かそうとしているに違いない……と思っていた。


 しかし、告別式は雨の中、静かに行なわれ聡は黒服を着た人達の中、静かに彼の家を去って行く。


 学校で臨時の生徒集会が行なわれ、全員が体育館に集まって校長達が生徒達に裕太が亡くなった事を全校生徒に告げる。


 来月夏休みになる、皆誰もが楽しみに期待を膨らませていた、そんな夏休みの前起きた出来事は、学校中に深い悲しみを与える。


 教室に戻ると、彼の使っていた机には、誰が置いたかは不明だが…花瓶が乗せられていた……。


 7月中旬…


 聡は、スポーツクラブの野球に滅多に顔を出さなくなり始めた。


 友人が居なくなったショックで、野球に対する意欲が失われたからであった。


 学校でも呆然と時間を過ごす日々が続いていた。そんな中、彼に声を掛ける人物が居た。


 「オイ聡!」


 同じクラスの男子、森岡一雄と言う生徒だった。


 「もう直ぐ夏休みだけど……自由研究の課題は考えているか?」


 「全然……何も思い付かない、そもそも夏休みって言う事自体、僕にはどうでも良い事だよ」


 「そう言えば……お前最近、野球行って無いんだって?」


 「やる気が出ないんだ……何て言うかさ、もう……どうでも良くなって」


 聡の友人を失った喪失感に一雄は、相当なショックを感じている様に思えた。


 学校から帰ると聡は玄関前で座り込み、そのまま呆然としていた。


 しばらくして、2つ年下の妹…芽衣が家に帰って来ると玄関前に兄が座り込んで居るのに驚いた。


 「ちょっとサト兄、そんな所で座って無いでよ、ビックリするじゃない!」


 「ああ、ワルイ……」


 妹は玄関を上がって部屋へと向かう。しばらくして、まだ玄関前に座り込んでいる兄を見て妹は兄を蹴飛ばした。


 「イテッ!何をするんだよ」


 「情け無い、友達が居なくなったからって、ずっとボンヤリしてサ、今のサト兄はカッコ悪過ぎ!ボンヤリするんだったら家の外でしてよね!」


 「テメェ、兄に向かって何だ、その態度は⁉︎」


 「何よ、文句ある訳?私ね……今のサト兄なんか大嫌いだよ!クラスの友達皆、サト兄のファンなのに……野球行かなくなって、私は恥ずかしいんだよ!」


 芽衣は涙を溜めて言うと、妹は階段を掛け上げって行った。


 「クソ……」


 聡は芽衣の悲しむ態度を見て感じた…辛い想いをして居るのは自分だけでは無かったのだ……と、情けない姿を晒している自分に聡は気付かされる。


 聡は、その夜宿題をしている時に机の上に置いてある辞書を取り出した時に、ある写真が一枚落ちて来るのに気付いた。


 写真は裕太が昨年、近くのキャンプ場で撮った写真であった。


 それを見て聡は思い出す。


 裕太はキャンプ場の近くにある湖で、昨年……家族とキャンプに出掛けた時に湖の近くで真夜中UFOを見たと言っていた……彼は記念にその湖を写真に撮って聡に譲ってくれた……その一枚の写真だった。


 聡は写真をジッと眺めていた、しばらくしてある事が彼の脳裏を横切った。


 「これだ!」


 聡は何か閃いた様子で立ち上がった。


 勢い良く立ち上がった少年は、ついうっかり右足の小指を机の角にコツンと当ててしまう。


 「痛ッ……」


 少年は、足の指の痛みで蹲ってしまった。

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