性癖マッチングアプリ 〜おもらしで繋がる予想外の絆〜
七喜 ゆう
マッチングアプリで出会ったおしがま趣味のイケメンがお父さんだった話
私が十五歳のとき、お母さんが交通事故で死んでしまった。
遺体安置所に寝かされたお母さんの顔からはいつもの笑顔が消えていた。お母さんは明るくて、活発で、我が家の太陽だったのに。
お母さんがいなくなった我が家は真っ暗になった。お父さんは私を避けるようになり、私もお父さんと口を利かなくなった。今も一緒に住んではいるが、姿を見ないなんてことはしょっちゅうだ。
家庭がそんな状態なので、他人に愛想よくする気になれず、大学では孤立気味だ。そんな私にもたった一人、いわゆるギャル系の友達がいる。ある日、その子が私に怪しげなアプリを勧めてきた。
「『性癖マッチングアプリ』…… 何それ? 」
「『性癖マッチングアプリ』は『性癖マッチングアプリ』だよー」
「いやそういうことじゃなくてさ…… 」
友だちはケラケラ笑ってから、アプリの説明を始めた。
「ほら、マチアプって顔とか趣味とかでマッチングするじゃーん? これはそれの性癖バージョン。例えば、私、緊縛プレイするの大好きだから、縛られたい男子から沢山いいね来るの。
彼女の言う通り私の性癖は一般的なものではない。それに、ここで彼女の機嫌を損なったら、私は一人ぼっちになってしまう。私に選択肢はなかった。
「うん、まぁせっかく勧めてもらったし、ちょっとだけなら…… 」
「うん。やってみ、やってみ。きっと理想の相手が見つかるよー。それとー、たまには私以外の人とも話さないと、脳みそ腐っちゃうよ―」
「フッ、何それ…… 」
笑って誤魔化したけど、友だちには私のこと筒抜けみたい。すごい子。なんでもわかっちゃうんだ。
◆
『性癖マッチングアプリ』を始めてしばらく経った日曜日。私は”彼”に会うため最寄り駅に向かって走っていた。
数日前、私は念願かなって”彼”とのマッチングを果たした。名前は”ヨウ”。年は四十二歳。私とは倍以上、年の差がある。普通だったら会おうなんて思わない人だ。
彼と会う気になった理由は一つ。彼の性癖だ。『おしっこを我慢している子を眺めるのが好きです。おもらし、本番、強要しません』。『おもらししている女の子が大好き! 』や『おしっこ我慢させてS◯Xしたい! 』という欲望丸出しの性癖たちの中で彼の性癖はひときわ輝いていた。それにアプリのメッセージ機能でやり取りした”ヨウ”さんはとっても紳士的だった。この人になら騙されてもいい。そんな危ない考えが浮かぶくらい。彼は魅力的だった
今日はレストランでお茶をすることになっている。予定では夕方まで性癖談義をして…… サヨナラだ。ホントはおしっこを我慢する姿を見てほしかったけど、最初からプレイとはならなかった。そういうところが、紳士的だよね、”ヨウ”さん。
(さてっと、駅についたはいいけど、”ヨウ”さんは…… )
辺りをキョロキョロと見回す。それっぽい人は何人いるが、確信は持てない。
(おっと、着いたらメッセージを送る約束だったっけ)
彼に『駅前に着きました』とメッセージを送る。するとネイビーブルーのポロシャツの男性が動き出した。あの人が、”ヨウ”さん。すごい、四十代とは思えないくらい若々しい。あのイケメンがおしっこ我慢好きとか信じられない……
「あの、すみません…… 」
「あ、はい! な、なんでしょう? 」
「えっと、間違っていたら申し訳ないんですが、あなた、”アンナ”さん、ですよね? 」
「えっ、はい! じゃあやっぱりあなたが”ヨウ”さん? 」
「はい、そうです。今日はよろしくお願いします」
会ってすぐに簡単な自己紹介を交わす。"ヨウ"さんは振る舞いが落ち着いていて、ガツガツした大学の男どもとは全然違った。
「じゃあ、行きましょうか。席は予約してあるんで急がなくても大丈夫ですが」
「えっ! そんなことまでしてくれたんですか!? 」
ちょっとちょっとこんなにイケメンな上に気も効くの? 大丈夫? 好感度がずっと上がりっぱなしだよ?
「えぇ、初めて会うのに『満席でした』では格好がつかないと思って。それに周りに人が多い席だと話しづらいでしょう? 」
恥ずかしさで顔が熱くなった。そうだった。これから私たちは自分の性癖、おしっこ我慢について語り合うのだ。そんな話を人に聞かれたら、どんな顔をされるかわからない。
「今回予約した席はお店の端っこなので、誰にも聞かれないはずですよ。だから、気が済むまでお話聞かせてくださいね」
"ヨウ"さんはニコッと微笑んだ。笑顔もキレイだ。ますます好きになりそう……
◆
「そうなんです! 『出ちゃう出ちゃう〜』ってなって押さえたいんだけど、『見られちゃう』とも思って前が押さえられなくて、とりあえずスカートをギュッってしちゃうときの葛藤! おもらしとモジモジ、二つの羞恥の間くらいの瞬間が最高に気持ちいいんですよ〜! 」
私と"ヨウ"さんは軽く飲み物を飲みながら性癖談義をしていた。互いの性癖が目覚めたタイミングを語ったり、自分が一番好きな瞬間を語ったり、お店のはしっこでなかったら絶対にできないような話題だ。
"ヨウ"さんは大学時代の彼女がきっかけでおしっこ我慢にハマったらしい。その人の話をする"ヨウ"さんの目はどこか寂しげだった。きっとまだその人のことが好きなんだろうなぁ。
「なるほど、今日のその服装だったら今いった状況が映えそうですね」
「わかってくれますか! ミニスカの端をギュッも好きなんですが、ロングでギュッの方がなんかお気に入りで…… 」
"ヨウ"さんは聞き上手で、時折挟まれる合いの手は私の言いたいことをピタリと言い当てていた。
「うんうん、わかります。ロングを履いてる子の方が清楚で恥ずかしがり屋なイメージがあるので、仕草を隠しきれてないときは『本当に限界が近いんだろうな』って思えてなんか好きです」
「そうそう! 私もロング履いてるとなんか仕草出すのがいつもより恥ずかしくって! そっか服のイメージで恥ずかしくなってたのか〜、気づかなかったぁ」
うまく言葉に出来ていなかった感情を言語化してもらえたのが嬉しくて私ははしゃぐ。同時にいつもの地雷系の服装でなく清楚系の服装で着た自分を褒めてあげたくなった。
化粧も薄めでカラコンを外して度なしの丸メガネをかけ、いつもエクステを付けているボブの茶髪はクシでまっすぐにした以外は何もしていない。"ヨウ"さんのリアクションからしてやっぱり世の男子は清楚系が好きみたいだ。高まったテンションのまま私は話し続ける。
「いや〜でも"ヨウ"さん、ホント感情を言葉にするのうまいですよね! 私なんてもうヤバいしか言えなくって……」
ブルッ
永遠に続くと思っていた言葉が止まった。それと一緒に体が勝手に震えた。
(あ、ヤバッ。おしっこ、結構たまってる)
原因は強い尿意だ。思い返せばトイレに行ったのは朝起きたときだけ。家を出る前にトイレに行こうと思っていたが、遅刻しそうだったので行けなかった。加えてさっきから何杯もコーヒーを飲んでいる。カフェインの利尿作用と多量の水分摂取。おしっこがたまる条件は完璧にそろっていた。
「? どうされました? 」
"ヨウ"さんが眉をひそめた。私はおしっこを我慢していることがばれないよう適当な言い訳を述べる。いくら性癖がマッチしているといっても、初対面の男性におしっこを我慢していると知られるのは恥ずかしい。それにバレちゃってるかどうかわからないときのほうが、なんか色々想像できて興奮するし……
「……いえ、なんでもありません。ちょっと噛んじゃって」
"ヨウ"さんはまだ怪訝そうな表情をしている。さすがにちょっと恥ずかしくて、私は目線をそらした。
「"アンナ"さん、もしかしてお手洗いに行きたいんですか? 」
「うえっ!」
(イヤ、ウソ…… どうしよう、おしっこ我慢してるの、バレちゃった…… 恥ずかしい、けど、なんかいい…… )
「まぁ、あれだけコーヒーを飲んでいたらトイレに行きたくもなりますよね。で、どうします? トイレに行きますか? 」
"ヨウ"さんはちょっとイジワルな顔をしている。普通なら「トイレ行ってきます」で話はおしまいだけど、私の性癖上ここでトイレに立つのはちょっと、もったいない。
「…… えっと、あの、まだ、トイレには行きません。もうちょっと、私とお話してください…… 」
モジモジしながら"ヨウ"さんの質問に答えた。おしっこ我慢がバレたあともトイレに行かなくていいなんてこと滅多にない。存分に見られて、いっぱいモジモジして、お腹がキュンキュンする感覚を存分に感じて…… トイレに行くのはそれからでもいいもん。
「そうですか。でも、ここは出ましょうか」
"ヨウ"さんは伝票片手に立ち上がる。てっきりお話が続くと思っていた私は間抜けな声を上げてしまう。
「ほえっ、なんで? 」
「ここで間に合わなかったら後始末が大変でしょう?なので失敗しても大丈夫なところに移動します」
"ヨウ"さんのいうことは最もだ。私が限界を見誤り、この場でお漏らししてしまったら…… 想像したくないな。仮に余裕を持ってトイレに向かったとしても、このお店は男女一つずつしか個室がない。もし女子トイレが使われていたら、…… やっぱり想像したくない。
(でも、失敗しても大丈夫なところってどこだろう? )
疑問に思いつつも、とりあえず私は席を立つ。席を立つとき、お腹にズンッと重量を感じた。お腹に手をやるとかなり膨らんでいることがわかり、私はお腹をかばいながら、"ヨウ"さんについて行く。"ヨウ"さんは私の分の会計も済ませてくれたらしく、特に店員さんから声をかけられることもなく、私はお店を出た。
「あの…… どこに行くんですか? 」
お店を出てすぐに私はさっきの疑問を"ヨウ"さんにぶつけた。"ヨウ"さんはちょっと答えづらそうに頬をかいてから答えた。
「そのですね…… 誤魔化さずにいえばホテルです。ただ服を脱がせたり、行為をせまることは絶対にしません。なので、どうか一緒に来てくれませんか? 」
(えっ、ホテルって、普通のじゃなくてそういう…… )
たしかに普通じゃないホテルなら後始末は簡単そうだ。けど、初対面の人となんてありえない。それは”ヨウ”さんもわかっているみたいだ。
「もしダメだというならば無理にとはいいません。"アンナ"さんが絶対に失敗しないタイミングでトイレに行ってください。」
軽く頭を下げる”ヨウ”さんを前に私は困惑していた。
(どうしよう…… "ヨウ"さんは絶対いい人。だから襲われるなんてことはない、よね? それに私はそんなに可愛くないし、襲いたいなんて思わない、はず…… )
信じたい気持ちと疑っちゃう気持ち。二つの感情が私の中をグルグル回る。一人ではきっと答えを出せなかった。私を後押ししてくれたのは自分の内から湧き上がる欲求だった。
(…… 見てほしい。この人に、私がモジモジしてるとこ、見てほしい)
一呼吸おいてから言葉を紡ぐ。
「いえ、行きます…… 私、"ヨウ"さんを信じます」
冷静だったら絶対にしない選択。でも”ヨウ”さんと友だち。二人を信じることにした。”ヨウ”さんはニコッと笑って答える。
「そうですか、ありがとうございます。では、こちらへ。あっ、途中で限界が来たら遠慮なく言ってくださいね」
そういって"ヨウ"さんはスタスタと歩き出す。私は少し遅れて後に続いた。自分がどれだけ愚かな選択をしたのかこのときはわからなかった。
◆
「うっ…… クッ…… はぁ」
お店を出てから三十分。私はホテルのユニットバスで体をくねらせていた。一緒に来た"ヨウ"さんは腕を組んで私をじっと見ている。その視線が私の羞恥心を刺激した。
(あぁ、おしっこ…… 出ちゃう…… でも、押さえるの恥ずかしい…… )
ずっと握っているグレーのロングスカートにはシワが寄っている。その奥の下着はおちびりのせいでビショビショだ。
(はぁ、もう、限界…… おしっこ…… トイレに行くって言わなきゃ。でも…… )
もうこれ以上おしっこをためておけない。そのことは感覚的にわかる。でも、私はトイレに行きたいと言い出せなかった。
"ヨウ"さんに見られながらおしっこを我慢する。これが想像以上に気持ちよかった。目があったときなんかは恥ずかしさと気持ちよさが一緒になって頭が真っ白になった。
(もうちょっとくらい…… 我慢できるよね? 本気になれば前だって押さえられるし、もっと仕草出せるし、まだ、もう少し、このままで…… )
もうちょっと、もうちょっとと快感を追い求め、私はドンドン深みにハマる。
ジョバッ
「……ッ、くぅ」
大量のおしっこが下着からこぼれた。今までのおちびりとは比べものにならない。押さえないと、決壊する。直感した私は、"ヨウ"さんが見ているのも構わず、前を押さえた。
「仕草が出たということは本当に限界みたいですね。今日はここまでにしましょう。さぁ、早くトイレを使ってください」
私の仕草を見た"ヨウ"さんがトイレを勧めてくれる。普段だったら飛び上がりたいほど嬉しい申し出。でも、今は違う。
「ま、待ってください、私、まだ我慢できます…… 」
「あまり我慢しても体に毒です。僕で良ければまた別の機会に見てあげますので。さぁ、早く」
私をなだめながら”ヨウ”さんはユニットバスの扉に手をかけた。
(ダメ…… “ヨウ”さん出てっちゃったら…… 見て、もらえない! )
”ヨウ”さんの体が扉の向こうに消えようとしている。止めなきゃ…… 止めて、我慢してるの見てもらわなきゃ!
「待って、”ヨウ”さん! もうちょっと! もうちょっとでいいから私を見…… 」
ブジョワッ
私の下着がぐっしょり濡れて肌にはりついた。”ヨウ”さんを引き止めるために出した大声が私の腹部に圧をかけ、決壊を加速させる。
「あっ、ダメ! フッ、ん、くぅ…… 」
恥じらいもなく前を押さえる。トントンと足踏みをする。体をよじらせ息を止める。思いつく限りのすべての動作でおもらしの回避を試みる。おかげでおしっこの勢いは弱まった。でも、完全に止めることは出来ない。チョロチョロチョロチョロ閉め忘れた蛇口みたいにおしっこが下着に垂れる。もう、我慢遊びはここまでだ。
(あ、危なかったぁ…… 漏れちゃうとこだった。えっと、ここユニットバスだからトイレすぐそこだよね? ふぅ、この距離ならなんとか…… )
「"アンナ"さん? 大丈夫ですか? 」
トイレに運んだ視線の先。そこには"ヨウ"さんがいて、こっちを見ていた。
(ウソ、”ヨウ”さん、私が、チビッてるの、見て…… )
体が芯から熱くなる。頭がポーッとして体から力が抜ける。我慢しなきゃと思っても、恥ずかしさで体が言うことを聞いてくれない。
(ヤダ、押さえないと、おもらしは、ダメ…… ダメ、なのにぃ…… )
ダメだとわかっていた。でも、もう抑えられない。
ビタタタタタタタタタ
(あ、あぁ、私、おしっこ、漏らして…… )
我慢しきれなかったおしっこが床を叩く。限界まで体を酷使したあとで一気に緩めたからか、快感が背骨をギューンと走り、頭に流れ込んでくる。
(ヤバッ…… これ、めっちゃ気持ちいい…… )
はぁぁと吐息が漏れる。おしっこが出口を擦る感覚も、押さえているところがジワッと温かくなる感覚も、お腹の当たりがシュウウってしぼんでいく感覚も、全部が気持ち良い。今までは我慢を人に見てもらうだけで満足していたけど、おもらしもまた、いい。私は新しい感覚の虜になっていた。
ショー…… シュッ
たまっていたおしっこを全部を出し終え、私はプルルッと身を震わす。足に力が入らなくなり、おしっこの水たまりにペタンと腰を下ろす。
(うぅ、やっちゃった…… いつもは、もうちょっと頑張れてたのに…… )
バスタブの中でポケーとお漏らしの余韻に浸る。頭の中ではこれからの行動が浮かんでは消えた。
(掃除…… シャワーで流せばいっか。服は、飲み物をこぼしたことにしよ。あ、後ろも濡れちゃってるか…… えっと、どうすれば)
「あの、終わりましたか? 」
考えていた私の耳に誰かの声が飛び込む。一体誰だろう? ぼやけた意識であたりを見回す。すると、"ヨウ"さんと目があった。
「"ヨウ"さん! えっ? なんで! ? 」
「すみません、出ていくタイミングを逃してしまいまして…… 」
意識がグンッと現実に引き戻される。最悪だ。初対面の人におもらしを見られてしまった。
「やっ、あっ、えっ? “ヨウ”さん、私の、その、あれを、見て…… 」
「あー、そのー、えぇ、とりあえず、出ましょうか? 」
”ヨウ”さんは話題をはぐらかしつつ、スッと手を差し出した。私もこれ以上事実を知りたくないのでその手を取ろうとした。が、自分の手がおしっこまみれだったことを思い出し、慌てて手を引っ込めた。
「おっとっと…… 」
私が手を引っ込めたせいで”ヨウ”さんはバランスを崩し、よろめいた。そのとき、”ヨウ”さんの胸ポケットからスマホが飛び出し、おしっこの水たまりに落ちた。
「あぁ、ごめんなさい!すぐ拾います! てか洗って返しますから! 」
慌ててスマホを拾い上げ、ブラウスの袖でおしっこを拭き取る。”ヨウ”さんは「気にしなくても大丈夫ですよ」なんて言ってるけど、普通だったら弁償ものだ。少しでもマシな状態にするため一心不乱にスマホを磨く。
カチッ
(あ? )
どうやら拭いているうちにスマホの電源ボタンを押してしまったらしい。画面がパッと明るくなり、待ち受け画面が表示される。
”ヨウ”さんの待ち受けは子どもを抱っこした女性の写真だった。茶髪に丸メガネをかけた青い瞳の女性が明るい笑顔でこっちを見ている。抱っこされてる子どもは女性にそっくりだが目付きが悪い。でも、頭の上にぴょこんと生えたアホ毛が可愛い。なんかこの子…… ちっちゃいときの私にそっくりだ。
(ていうかこの女の人、お母さんだよね? なんで、この人の待ち受けにお母さんと私が…… )
すべての動きを止めてスマホを凝視する。私の様子がおかしいことに気づいた”ヨウ”さんが慌てた様子で言った。
「ああ、それは!えっと…… すみません。実は僕、結婚していまして。子どもも一人、いるんです。でも妻は五年前に他界して、娘ともうまくいかなくて、それで、人恋しくて、マッチングアプリを…… 」
嫌な予感が体中を駆け巡る。まさか、この人は……
「へぇ〜、”ヨウ”さん、奥さんと娘さんいるんですね〜。ちなみに、娘さん、なんて名前なんですか? 」
「えっ、
(わ〜、私と同じ名前。やっぱ、コイツ…… )
「あのどうしました? なぜ娘の名前を? 」
「いえ別に。ただ私の名前と同じだったんでびっくりしただけですよ。ホント、偶然ですよね…… あ、ちなみに私、
”ヨウ”さんは顔をゆがませ、答えた。
「あ、え、えぇ…… 俺は、
「ですよね〜。やっぱり洋さんですよね〜。はぁ〜もうホント、なんて言ったらいいか…… 」
ゆっくりと立ち上がり、自称”ヨウ”を睨みつける。
「とりあえず、一個だけ言っていい? 」
「あ、あぁ、十個でも二十個でも…… 」
「そんなに言うことねぇよ」
”ヨウ”の反応からみるに、私の嫌な予感はあたっていたようだ。
(コイツ…… このバカ…… )
感情のまま、”ヨウ”に怒鳴った。
「てめぇ! こんだけ至近距離で話してんだから、娘って気づけよ! この、ダメ親父! 」
”ヨウ”、いやお父さんは目を逸らしながら答える。
「仕方ないだろ、お前いつもと服装違うし、声聞くのだって久しぶりだし…… あと怒鳴ってないお前の声なんて小学校以来…… 」
「言い訳すんな、キモいんだよ! てか既婚者がマチアプすんなよ! あとなんだ、“ヨウ”って? お前は
「前半部分については完全同意だが、後半部分はブーメランになってるぞ? 」
「うるせぇ! 説教中に指摘すんな! 」
手に持っていたお父さんのスマホを投げつける。ムカつくことにお父さんはスマホをキャッチした。うろたえてんなら当たれよ。
「あぁもうマジありえない…… なんでテメェとマッチングしなきゃなんねぇんだよ…… 」
「俺は嬉しかったぞ。安波、メガネかけると母さんそっくりで、しかも、性癖まで同じで…… 」
「なに泣いてんだよ。殴るぞ? 」
「ホント、なんでそんなに暴力的に育っちゃったんだろうな…… 」
「お前がウザいからじゃね? 」
なぜだか知らないがドッと疲れが押し寄せた。
(あぁ、もう早く帰りたい。でも服が…… ! そうだ! )
「おいバカ」
「なんだ? 昔みたいに『パパぁ』って呼んでくれないのか? 」
「裏声やめろ。それよりお前、家帰って、私の服、取ってこい。この格好じゃ帰れねぇだろ? 」
「それは正論だが…… いいのか、お父さんが部屋に入って? 」
「お前いつも断りなく洗濯物をタンスにしまってるだろ? 」
「フッ、気づいていたか…… 」
「容疑者がテメェしかいねぇんだからバレるに決まってるだろ! いいからさっさと着替えもってこい! 」
怒声と同時にお父さんは外へ出た。私は濡れたスカートのままバスタブに腰掛けた。
(はぁ…… もうヤダ…… 実の父におもらしを見られるって、コレなんて罰ゲーム? )
さっきまでとっても気持ちよかったのに、今では苛立ちがいっぱいだ。でも、気持ちよかった感情にウソはない。
(でも、お父さんに見られるの…… よかった、かも)
イケない感情が、胸の真ん中から湧き上がる。
(…… まぁ、もうちょっと仲良くなったら、あと一回くらい、見てもらってもいいかもね…… )
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お読み頂きありがとうございます!
もしお気に召されましたら、ぜひぜひフォローや☆評価など頂けますとありがたいです<(_ _)>
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