甘い蜜苦い恋

羽音リネ

第1話 「溺れる蜜」

電車が来てしまった。乗る気にはなれなかった、だって私の行きたい所には連れて行ってくれないから。黙って電車のドアが閉まるのを見ていると、誰かに話しかけられた。

「あれ?どうかしたの?桃果!」

緩くウェーブがかっている黒い長髪に茶色の瞳。明るくて弾むような声。私の同級生の古守蓮花だ、蓮花ちゃんは私の事を親友だと思っているらしい、違うのになぁ。

「あ、蓮花ちゃん!この電車、私の最寄りに停らないんだよね!」

嘘だ。この電車は私の最寄りに着く、だけど、私には行くべき場所があるから。私がそこに行く邪魔をしないで欲しい。早く行きたいのに、待ってるのに。

「ふうん?そうなんだ!じゃあ!また明日!」

そういうと、蓮花ちゃんは私に大きく手を振りながら走り去っていく。やっと居なくなった。

次の電車があと数分後に来る。やっと行ける、

カナタの所へ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

カナタとは、1週間前にカナタ以外もう誰も住んでいないアパートで出逢った。

カナタはそこに1年位住んでいて、管理人も隣人も居らず、寂しい想いをしていたらしい。そういえばカナタは、初めて逢った時、どんな感じだったんだっけ。そんな事を考えながら、私は303号室と書かれているアパートのドアの鍵を開けた。

「おかえり。桃果!」

金色の髪、赤い瞳、優しくて甘い声。カナタだ。私の大好きなカナタだ。

「ただいま!カナタ!疲れたよぉ」

そう言って私はカナタの腕の中に飛び込んだ。

そうすると直ぐにカナタは私の頭を撫でてくれた。空っぽになりかけていた花瓶が満たされていく、私はこのままどんどん優しい蜜に溺れていたい。そう思いながら眠った。

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