異世界から仕送りって届けられますか?

仮説宿屋

第1話 何事もない田舎の日常。これがもう少し続くはずだった

 山宿 智幸は普通の高校3年生だった。5年前の事故で両親を同時に亡くし、隣町に住んでいた母方の祖父母の住む家へ引き取ってもらってなんとか暮らしていた。元々の住まいも田んぼと畑に囲まれた田舎だったが祖父母の家も田舎だった。

 徒歩圏内にコンビニが無くてもゲームセンターが無くても不平も不満もない智幸だったが、祖父母の家から歩いていける近所にあった本屋さんが閉店した時はとても悲しんだ。買ったり興味を引くのは漫画やラノベばっかりだったとはいえよく行っては本のタイトルや表紙絵をチェックして面白そうな奴やイラストが好みだったらいずれ買おうとメモしたりしていた。その場で即買えるようなお金はあったとしても智幸はすぐ買わなかった。

 両親の代わりに高校へ入れてくれて育ててくれた祖父母からお小遣いは結構貰ってはいたが、智幸はそれを少しずつ溜めており、家での作業や家事をしてくれている二人へ差し入れを買うのが習慣になっていた。


 家事の方は休みの日などは普段よりも積極的に手伝うことにして、毎日の洗濯やお米をといだり、食後の茶碗の片づけ、台所の掃除は手伝っているが、どうにも祖母は食事の支度とか一緒にやろうと言っても笑って流すだけで、智幸が起きる前から静かに家事を始めて起きた頃には食事ができるよう支度してくれるのだった。ならばと早起きして手伝おうとすると「ちゃんと寝ないと背が伸びんよ」と言い、二度寝するよう部屋へ追いやられてしまうので、結局片づけを毎回やる事にしている。土日も基本家に居て何かやるならば声をかけてと言っているがそれだと何かやってても声をかけられないことが多かったので自発的にうごいて邪魔にならないよう手伝えることは手伝っていた。

 二人とも年金は貰っているが、その他に収入を得られるようまだ働いていた。祖母は植木や道路沿いの草木を伐採や草刈りした後の散らかったものを片付ける作業の補助に。祖父は家の近くで農作業を手伝ったりしていた。元々はもっと山の奥の方に住んでいたらしいが、祖父母共に車の運転免許を持たなかったので碌にバスも通ってないそこに住み続けるのは諦めて今住んでいるところへ来たらしい。


 一応朝昼晩の一日に3回はバスが来る日もあるらしいが。両親が生きていた子供の頃に連れて行ってもらったことがあったが、山だな、という感想しか出ない程には山の奥だった。

 途中の道路は狭い上に曲がりくねっているところもあり、ガードレールの先がかなり高い所から下を流れる川が見える、崖のような場所もあり仮に免許があってそちらに住んでいたとしても雪が降る時期になったらどこかへ行き来するのも嫌になってしまいそうな場所だった。


 もし引き取られたのがその山奥だったら智幸は高校へ通うとしたら寮へ入るかいっそ高校へ行かないと言っていたかもしれない。祖父母が山の麓へ引っ越してきたのは両親が亡くなる事故のほんの2年前であった。まあ仮にどっちで暮らしていたとしても智幸は祖父母が引き取ってくれるなら行っていたであろうが。

 


 なんにせよ育ててくれている二人に日ごろから感謝の印として二人の好物を学校帰りに帰り道にある店に寄って買って行って差し入れたりするのが智幸のお小遣いの使い道となっていた。

 祖父は甘いものが大好きで、祖母は逆に甘いものよりしょっぱいものやカリカリとした食感の物が好きだった。あんまりしょっちゅう買っていくと、もっと自分の事に使えと言われるので少し間を開けて、ではあるが定期的に二人が好きそうなものを差し入れていた。


 智幸としては衣食住、すべて賄って貰っているので何かしらの恩返しをしたかった。バイトをやりたかったがバイト先になりそうな場所は通っている高校からだと家との反対方向にあり、平日は勿論、休日でもやるのは難しそうだった。移動手段が徒歩と自転車。あとは一応祖父母の家から駅は割と近くにあるのだが都会と違って1時間に一本電車が来るか来ないか、くらいであった。ならばバスはと言えばこちらもほぼ同じ。朝と夕方から夜にかけては15分おきに来る時間帯もあったが、渋滞とか無い割にバスの時間はあまり時間通りではなかった。運転手の人数が大分少なくなっているらしい。ともあれバスでなら休日の朝から夜まで何とかバイトに行けそうだと思っていたが、祖父母はバイトするのに反対してくる。

 家から高校までバスで30分、高校の辺りのバイトできそうな場所は大抵近くに住んでいる奴らが既にバイトしている。一緒にやろうにも田舎なので接客業などでもそこまでバイトを雇うことはない。ならばと家から高校をはさんで反対方向へ更に小一時間くらいいった先の町や高校とは逆方向へこれまた小一時間くらい行った方の町はというと割と町らしい町となっているのでバイト先くらいすぐ見つかりそうではあったが祖父母としては飲み屋街などもあるのであまりそちらの方で夕方とか暗くなるまで働いて欲しくないというのだ。


 なので智幸はもっぱら祖父と一緒に近所の農家の収穫作業の手伝いなどをしてお小遣いを増やしていた。それを貯めてある程度溜まったらその中から趣味へといくらかお金を使う。


 あとは自分の外見があまりパッとしないと自覚しているので流行りの服などを欲しいとは思わないが、せめて人前に出て見苦しく思われない程度には身だしなみには気を使っていた。


 衣食住を賄って貰っているとは言ったが、祖父母に衣を任せると天然なのかネタなのか面白Tシャツやらトレーナーを安かったから、と普通に買ってきて渡してきたりするのだ。せっかく買ってもらったので珍妙な言葉や絵がでかでかと付いてるそれらはもっぱら部屋着や近所の農作業手伝いの時に着ている。たまに友人宅へ行く時に着るような外出着は自分で買うしかないのだ。


 そんなこんなで一般家庭の高校生と比べるとあまりオシャレや遊びとは縁がない高校生活であったが、智幸は早く高校を卒業して運転免許を取って就職できるならしたい、それも出来れば家から通える範囲で、と思っていた。


 少しでも早く育ててくれた祖父母へ恩返しがしたいのと最近は農作業帰りに歩くのが辛いとか今の家から徒歩圏内で行ける個人スーパーへの買い物に行くのも少し大変そうな祖父母の役に立ちたかった。

 二人とも3か月に一度くらいの割合で少し離れた都市部(田舎の、ではあるが)の病院へ通っており、何かしらの薬は毎日服用している。そういうのへ行くのも車で送り迎えしてあげたいと思っていた。

 そんな事を考えつつも高3の12月、早い人はもう就職先が決まっており、決まった人は夕方に高校まで来る自動車学校への送迎バスに乗って免許を取るのを認められていた。

 智幸は近場の企業等へ就職したかったが、田舎だからというわけではないだろうが、やはり近場に居るすでに勤めてる人の親戚やら兄弟が優先されて就職を決めておりなかなか入り込めないでいた。何度か入れそうなことも有ったが、転勤予定があったりすると聞くと智幸は候補から外してしまった。

 とはいえ、このままでは高卒バイトか何かで祖父母の家に厄介になり続けることになりそうであるし、いい加減、転勤が有る所でもいいから就職するべきかななどと考えていた。祖父母は良いから入れてもらえるなら俺らの事は置いといて就職した方がいいと言ってくれたが、智幸が第一に考えるのは出来るだけ一緒に祖父母と過ごしたいという思いであった。

 両親の代わりに育ててもらったということも有るし、それ以前の小さい頃から会う度にとても可愛がってもらっていたのだ。当時まだ山奥に住んでいたので会いに行くことはあまりなかったが、向こうがこちらの家(両親と住んでいた父親の実家)の農繁期などに泊りがけで手伝いに来たりしてくれて、その時にはひたすらかわいがられがたものだった。

 祖父はあまりしゃべらない寡黙な人だったがいつもこちらに来る時は自分も好きなプリンを買ってお土産にくれる。身長は智幸と同じであまりデカくないけど長年の山仕事で培われたた体つきをしていた。


 そんな祖父が「プリンは歳とって歯が無くなっても美味しく食べられる凄い奴だ」などと真面目腐った顔で言い一緒に食べようと言ってくれる。見た目とその言葉のギャップがなんだかおもしろくて智幸はそのことをずっと覚えていた。祖父母に最初に差し入れで買ったのもプリンであった。


 そういった小さい頃からの思い出があるためずっと一緒に居て世話をしてもらった分世話をし返したいとずっと思っていたのだ。

 


 それが出来ると思っていたし何が何でもやり遂げるつもりでいた。


 12月になり雪も降りそうなくらい寒くなってきたころ、台所隣の居間にある一年中出しっぱなしのこたつに祖父母と入りながらTVをみたり三人で今日の事を話したりしていた。

 祖父の方は山に住んでいた時にご近所だった集落の人が久しぶりに訪ねてきてお土産にリンゴを一箱おいてってくれたのが玄関に置いてあるから好きなだけ食えと言っていた。玄関先に置くのはそこは冬の間ずっと涼しいからである。祖母の方は母の妹の叔母さんが旦那さんと一緒に訪ねてきて、そっちも色々とお土産を貰ったと言っていた。

 智幸はいつもの学校生活で特別面白かったことはなかった日常だったので二人の話の聞き手に回っていた。ふと気が付くと祖父母の話し声がピタッとやんでいた。TVの音も聞こえなくなっていた。智幸が顔を上げて部屋の様子を見渡すと二人の姿は見えなくなっており先ほどまで座っていた場所に恐らくそこに居るであろうことを示すかのように白い輪郭だけがぼんやり光っていて、部屋の電灯もつけていたはずなのにそれとは違った月光のような薄い光だけで部屋が照らされている状態だった。

「何が起きてるんだ?ふたりとも大丈夫?!どうなってんだ?」


 何が起きてるのか全く分からずさっきまでそこに居たはずの祖父母へと声をかけるが返事はなかった。二人の声はなかったが別の聞いたことのない声が聞こえてきた。

「あー、ったく、俺の方が近くに居るからって他の奴の間違いを俺に修正させんなよなー。っと。人と話すのも久しぶりだな、えーとそこの若い男、お前が山宿智幸か?」

 声のする方へ顔を向けるとそこに浮いていたのは小さな馬のぬいぐるみだった。爺ちゃんは馬が好きで、昔は趣味で馬の絵を描いたりしてたらしい。勿論競馬もやった事があるらしくその馬のぬいぐるみは競馬場で買ったものだったはず。競馬場で買ったからかマスクのようなものを顔に被っている馬のぬいぐるみだ。たしか割とデカい金額が当たったから母やおばさん達、当時子供だった自分の娘らにお土産として買ってきたは良いが、微妙に可愛くないとか言われて気に入られなかったので、祖父が自分の部屋に飾っていたはずだ。

 そのぬいぐるみに声が出るオモチャみたいな機能はついていなかったはずだが。馬がモチーフにしてはやや胴体が丸っこすぎるずんぐりむっくりな体つきから妙に迫力のあるハスキーなボイスが響いてきたので何だろう?とじっくり見つめてしまっている智幸。

「質問に答えるんだ」

 ぬいぐるみから響く声の圧が強まった気がする。


「あ、ああ、確かに僕は山宿 智幸だけど」

「そうか。えーと少し前、お前の家族が死んだ事故が合っただろ?」

「5年前が少しだっていうならあったけど」

 思わず素直に答えてしまう智幸。

「5年!?5年も放置されてたのか」

 ぬいぐるみがどういう意味で言ったのかはわからないが自分は放置されていない、祖父母にちゃんと面倒を見てもらっていた、そう言い返そうとしたが、なぜか言葉が詰まって口から声は漏れ出なかった。


「あー、すまん少し力が漏れたか。放置ってのはあれだ、人間の世界の事ではない、事故の時に起きたもう一つの事柄についての修正がなされていなかったということだ」

 そう言ってこちらの顔の前まで浮かび上がってくるぬいぐるみ。目を合わせる感じの所まで来ると、一度何かを言いよどむように声を漏らしながら少しためらった後、覚悟を決めたような感じでこう言い放った。

「お前さん、5年前に死んでるはずだったんだ」

「じゃあなんで今生きてるんですか?」

「事故の資料は・・・これか。えっと事故の事は覚えているか」


 正直思い返すと怖いという当時の感情が蘇るので、あまり事故の事は考えないようになっていた。両親には悪いと思うが血まみれの二人の姿はその気になれば鮮明に脳裏に蘇る。あまり何度も思い出したい姿ではない。なのであまり事故の事を考えることはなかった。勿論それ以外の生きている間の両親との思い出は何度も思い返してはきた。

「・・・両親が血まみれになって、車がひっくり返って木か何かに引っかかってる所は」

「その木か。えっとお前たちが事故に遭ったのは山の道を走っているときだったな?」

「はい、新しくできた道路だって父親がなんかはしゃいだ感じで。自分も母も通ったことが無い道だったから景色を見ながら走ってる時だったのを覚えています」

 今更だがなんでこうも素直にぬいぐるみの質問に答えてしまっているんだろうか。

そんな疑問を抱きながら向こうの返事を待つ。


「あー、そういやまだ俺の事話てなかったな」

そう言うとぬいぐるみは部屋の周りをぐるっと一周してまた顔の前に来ると

「事故があった山の山神をやってるもんだ、名前はその山と同じだけど知らんだろうから適当に山神とでも呼ぶがいい」

「神様・・・」

 目の前に現れた爺ちゃんの持ってる馬のぬいぐるみを動かしているのは神様らしい。

「なんかあんまり驚いたりしないんだな。こういう状況になったのは初めてじゃないのか?」

「いえ、物語とかでこういうシチュエーションは割とあるのでそれを読んでいたからなんとなくそうじゃないかなと」

「物語?神の存在を感じ取れる奴がいなくなっても昔の話とかが残ってたりするのか」

「いえ、そういうのではなくもっと娯楽としての話で」

「娯楽かー。山の中の事しかわからんからそういうのとはここ最近は無縁だなぁ。隣の山だとキャンプ?とかやる場所あるらしいから人も結構行くらしいが今は小さい板で色んなものが見れるって聞いたな。俺の領域にそういうの持ってきてキャンプとかやる奴いないものかな。たまに色写真がいっぱい乗ってる本をまとめて捨てに来る奴なら昔いたがな」

「色写真・・・」

 もしかしてエロ系の写真集とかそっち系の雑誌だろうか?とは思ったが口に出すのははばかられた。

「まあその話はどうでもいい。どうやら俺の山で車の事故があり、その時お前らは三人とも死ぬはずだった。だが、ひっくり返った車が木に引っかかって止まったことでお前だけが生き残ったというわけらしい。本当は事故が起きるのはもう少し先の橋の上でな、その場合下の河原に車が落ちてお前さんも死んでたらしい」

「そうだったんですか」

 呟いた智幸の顔を見て

「両親と一緒に死んでた方が良かったか?」

 そんなことを言ってくる山神。

「いや、自分だけでも生きてて良かったと思います。事故の直後だったら一緒に~って思ってたかもしれませんが、その後、こんなに大事に爺ちゃん婆ちゃんに育ててもらえたので」

 そう返すとなんだかまた言い辛そうに口ごもる山神。

「んーっと、そう思ってる所わりぃとは思うんだが」

 そう言って言い出しづらそうな感じを続ける。

「僕が死んでるはずだから今生きてるのが問題ある感じですか?」

 大体こういう時は死ぬはずだった奴は死んでなきゃならないみたいになるもんだろうとあたりをつけて切り出してみれば、

「その通りだが、なんだ?両親居ないし現世に未練ない感じか?」

 あっさりとした感じで告げたからか現世に未練が無いと思われたらしい。

「いえ、そんな事は全く。まだお世話になった人達に何の恩返しも出来てませんし」

「なんだよー、それじゃ言い辛いままじゃないかよー」

 ぬいぐるみの前足同士をこすり合わせてる山神さまは横暴ではなくこちらのことを色々気遣ってくれるタイプらしい。

 その後も本来なら別の奴が言うべきことだしやるべきことんだがなどと前置きをしている。

「ええい、もう、はっきり言うぞ。お前が生き残ってから過ごした5年という時間は本来あってはならないものだ。だから色々ずれが起きてしまうことになる。そしてそれはお前がこの世界でこのまま生き続ける限りつづくつまり」

「僕に死ねって事ですか?」

 思い切ってそう言って見た。こちらを気遣ってくれる存在らしいのでこちらも向こうが言い辛そうにしてることを気遣って代わりに言って見た。ところが

「死ねとまではいわない。というか勿体ない。丁度別の案件と絡む事になるらんだが。あぁ、だから俺が話すようってなったのか」

死ねとは言われないことにホッと息を吐く。だがまだなにかあるらしい。


「お前さんにはこれまで生き残った時間と同じ年月を今から別の世界で過ごして欲しい。その間にずれとかを修正して、お前さんがこの世界に戻って来ても大きな問題が起きないようにしておく」

「別の世界・・・異世界か」

「元はと言えば事故が起きる場所が違ったせいでこんな事態になってしまってるんだが、人の生き死にを担当してる別の神がな、俺の山の木のせいで事故の結果が変わってしまったとか難癖付けて後処理全部こっちに押し付けてきやがってな」

 僕のつぶやきは聞こえなかったのか。山神さまは同僚?に対しての愚痴を漏らしている。

「んでだ、こんな事言っといてなんだがお前さんに選択肢をやろう」

「せんたくしですか?」

「そうだ」

そう言ってぬいぐるみが体全体で大きく頷く。

「俺と一緒になあーんもない山の領域で5年自然を眺めて過ごすか、別の世界でちょっと危険な仕事に就くか。危険な仕事ではあるがこちらから頼んで送り出す以上手助けは勿論ある」

「山の領域って、この世界に残っていられるんですか?!」

「まあこの世界と言えばそうだけど、人間の世には関われないぞ。お互い干渉できないようにお前が来たら完全に閉じ込めないと修正できないだろうからな、ただまあ、その間俺の山には人も何も入ってこれないよう封鎖すれば大丈夫なはずだ。今更他の神の領域にちょっかいかけるような力を持った人も他神もいないだろうしな。お前さんが持ってる本でもサービスで持ってってやるよ。今じゃ誰でも持ってるとか言う便利な板切れは使えないだろうから持って行っても何もできないだろうがな。俺と二人で山をうろついて季節の移り変わりを眺めたり川の流れをボーっと見ながら5年、過ごすか?」

 恐らくは善意の申し出であるんだろう。とはいえ、ついさっきであったばかりの存在と意思疎通ができるとはいえ閉じられた場所でそんなに過ごすのはどうなんだろう。いくら娯楽を過剰に求める性質ではないとはいえ、流石に厳しそうである。

 ちなみに5年の間世界と関わらなくなるので食事などは山神さまが自分の領域から集めている霊力的な物を分けてくれるとのこと。それって人間が食べても大丈夫なのか?と、その霊力を分けることも世界との関わりになるんじゃないかと聞いてみたら、自分の分として既に領域に貯め込んでる奴だから山や領域から直接吸い与えたりしなけりゃ関わる事にはならないから大丈夫と言ってくれた。

 ただ、人間が食べるとどうなるかについては言葉が濁された。ちょっと見えてなかった物が見えるようになったりその辺から突然声が聞こえるようになるかもしれないそうだ。勘弁してください。


「別の世界での危険な仕事について聞かせてください」

「あぁそっちはあれだ、そっちの世界の俺と同じ山の神として存在してる奴からの要請でな。その世界の霊力的な物、つまり俺らの食事だな、それを食い荒らす存在がやたらと数を増やして困ってるから駆除する手助けが欲しいって言われててな。神が直接手を出すと近くにある霊力とかも反応したりしてな、食い荒らす奴もいなくなったが飯も一緒に無くなったりってのももありそうで。だから人間とかに駆除はしてもらってるらしいんだがな」


 やはり異世界でそういうことが起きるなら魔物とかのせいだろうか。

「あぁそうだな、魔物と呼ばれている存在だな。ん?考えてることが読めるのか?神様だぞ近くに居る人間の事は多少は読める。えーっと、今お前さんが危惧しているのは5年離れている間の爺ちゃん婆ちゃんのこと、だろ?」

「そうです!仮に異世界の神様と交流があるなら向こうからこっちに何かしらメッセージとか送れたりは」

「それもこの世界への干渉になってしまうだろうから5年ほどは無理だな。だが心配するなそっちで魔物退治をしてくれるならいい方法がある」

 そう言って馬のぬいぐるみは前足で胸か腹のあたりをポンと叩く仕草をした

「言ったろ?そっちの世界の神から手助けの要請があると。それに応えてやると神同士でやり取りしてる人間で言う所の金、通貨みたいなものが俺に来るんだ。それをお前の爺さん婆さんのために使ってやるよ。それに5年離れた後戻って来たらちゃんと辻褄合わせてお前が生きていたこととか、5年離れてたことに疑問を抱いたりはしないようにするさ」


 なぜそこまで良くしてくれるのだろうと思うくらいこちらに配慮してくれてるような気がする。

「ただし、お前さんがよっぽど活躍しないと大した額にはならんからな。応援に若い人手を送っただけだと、精々足腰が丈夫になって病気にかかり辛くなる程度の加護しか融通できんぞ。神の通貨で買って人に渡せるものは限られてるからな。あと今回の場合だと世界の修正も一緒にしないといけないから(死んでたはずの孫からの贈り物扱いとなり手続きやら手間が増えるらしい)普段より割高になる」

 なんかとんでもない事を言っている気がする。そんな物いくらお金を積んでも買えないものじゃないか!そしてそれは最近歩くのが辛そうだった2人にちょうどいいものな気がする!


「お、やる気になったか?なるほど、確かにお前さんがこっちに居ても出来ない恩返しになるではあろうな。んじゃ別世界で5年過ごすって事に決定でいいか?」

「はい!おねがいします!時が来たら戻ってこれるんですよね?」

「勿論こっちに後始末押し付けてきた神にきっちり往復分の代償は支払わせてある。ちゃんと呼び戻せるさ。んじゃこのまま送ることになるが安心しろ何も持たせないで送るわけじゃない。何しろお前さんが向こうで活躍すればするほど俺の懐に入るものも増えるからな手助けはある程度してやるよ。それに向こうで悪さしてる魔物は退治すると金が貰えるようになってるから退治してりゃ食うに困るなんてこともないだろうさ」

 そう言うとぬいぐるみがポンと僕の頭を叩いた。岩とか石とか山に埋まってる物やらに干渉する魔法のような力を貸してもらえるらしい。勿論土にも干渉できる。でも土よりは石とか岩に関する能力が強そうだった。

 そう思いながら山神さまと目を合わせると

「しょうがねえだろ、俺の名前南岩山なんだし」

 と、なんかすねたような感じで言われた。いやまあ、魔法みたいな力使えるだけで全然ありがたいことなんで文句なんて無いっす。質量攻撃最強っすよ。

「ま、いいか。んじゃすぐ送るぞ。この二人に挨拶とかしたいだろうが少しでも干渉が少ない方がお前さんが戻るのも早くなる。お前さん達は仲がいいから一言二言でも別れの挨拶なんてしたら強い思いが起きそうだしな」

「わかりました」

 少しでも早く戻るためなら仕方がない。ここから5年の別れとなると辛いが戻ってこれるという話だし、もし二人がその間に寿命で死ぬとしても俺の頑張り次第で何とかなるらしい。(一応俺が戻ってくるころまでに寿命で死ぬことはないらしいっぽい事を山神さまがこっそり教えてくれた「ほんとはダメなんだがな、向こうで心置きなく仕事してもらうためだ」とのことだ。今回の事に対する資料に僕の家族やら友人周りのこともある程度載っているらしい)

 こっちに戻って来てから恩返しをしたい相手が増えてしまったな。そう考えていると。「そんな事しなくてもお前が向こうで活躍してくれれば俺も美味い想い出来るんだ、だから要らん事気にすんな」とぬいぐるみの前足でおでこをはじかれてしまった。


 こうして僕は薄明かりの中急に強く光る何かに引っ張られて異世界へと送られることになった。なんにせよ向こうで魔物退治してれば向こうで俺もお金が稼げてこっちで山神さまにも得があるとのことだ。そしてある程度山神さまに神の通貨がたまったら何か爺ちゃん婆ちゃんに送りたいものを聞きに来てくれるらしい。仕送りができるなら借りた力で出来る限り頑張ってみよう。





長文な上に会話も少ないのを読んでくださってありがとうございます異世界へ行ってからは智幸の一人称視点な文章に変えると思うのでそこまで読んでくださるとうれしいです。

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