失意のさなか、大学時代の先輩と偶然再会をして心を救われる話
中野七実
第1話:大学時代の先輩と三年ぶりの再会
●あなたは公園を歩いていた。砂の上を歩き、ベンチに座り、缶チューハイを開けて飲みはじめる。
●弓佳が前方から走って近づいてくる。あなたの目の前に立つと数秒息を切らせて話し始める。
「……よっ、ようやく追いついた。何度も名前を呼んだのに聞こえなかったか?」
「誰、って……。顔を上げてみろ」
「そうだ、西折弓佳だ。お前が突然大学からいなくなって以来だから、三年ぶりの再会だな」
「怒っているに決まっているだろう。突然大学をやめて姿を消したんだ。あれからずっとお前は何をしているんだろうって心配していたのに、いざ当の本人を見つけたと思ったら真っ昼間から公園で酒を飲んでいるときた」(●呆れ混じりのニュアンスで)
「だけど、今のお前はとても傷ついてしまっているように見えるよ。大学をやめたのだってどうしようもない事情があったんだろう。怒ってはいるけど、私はお前を責めないよ」(●前のセリフからだんだん言葉とは裏腹に優しげな態度に変化する)
「ど、どうした。急に泣くなんて体調でも悪くなったか?」
●弓佳はあなたを軽く抱きしめる。
「ほら、痛くない。痛くない。大丈夫だ。これで少しは楽になるだろう?」
「違う? 体が痛いわけじゃない?」
●弓佳はあなたから手を離す。
「じゃあどうして泣いているんだよ」
「ダメだ、拒否権はないぞ。お前が突然大学をやめた理由も、そんなに暗い顔をした理由も全部、ぜんぶ聞かせてもらう。私は怒っているんだから」
「仕事は、……確かに途中だったよ。少し待っていてくれ」
●弓佳はあなたから距離を取り、電話をかける。
「お疲れ様です、西折です。打ち合わせは問題なく終了しましたが、今日はこのまま直帰して問題ありませんか」
「ありがとうございます。詳しい報告は明日、……は休みでしたね。来週で問題ありませんか。はい、お疲れ様です」
●通話を終え、弓佳はあなたの正面に立つ。
「お待たせ。それじゃあここにいるのも何だ、場所を移そう。お前の家はここから近いのか?」
「人を上げられないほど散らかっている、……って。それはそれで気にはなるが」
「かといってあまり人前でできる話でもないだろうし……。わかった、私の部屋にしよう」
「男と二人きりになる心配をしたほうがいい? バカなのか。私を襲う元気があるように見えたならそもそもこんなことを言い出したりはしないよ」
「わかったみたいだな。それじゃあ行くとしよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます