72.危険なものは押し付ける

 発見した魔法道具の絵を描いて、説明書き代わりに同封する。うっかり作動させてしまった報告を、渡り鳥の魔法道具に持たせた。見た目は本物の鳥にしか見えない魔法道具を撫でながら、ご先祖様のセンスについて考え込む。


 役に立っているし、ある意味、すごい発明品ばかりだ。技術が継承されていないため、現在は同じものを作れない。私達が遺跡と呼ぶ、屋敷裏の発掘現場は生活した痕跡がなかった。いわゆる、食器や食べた動物の骨などが発見されない。それどころか、出てくるのは朽ちた書物と魔法道具くらい。


 大量に発掘された本は、開くと粉々になりそうで、そのままの形で保管された。後日、専門家がゆっくり解体して読むことになる。きちんと整頓され並んでいた状況を聞くに……嫌な言葉が浮かんだ。


「もしかして、ここ……ご先祖様の遺跡ではなく、ゴミ捨て場だったりしない? 扱いに困った品を放棄する保管庫みたいな……」


 なるほどと納得したのは、レオとユーグ叔父様。セレーヌ叔母様は「まさか」と一度笑い飛ばしたが、少しして眉根を寄せた。


「可能性があるわね」


「これ以上掘らない方がいいかも……変な魔法道具で世界が滅びる危険もあるんじゃないかしら」


「やだわ、変なこと言わないで」


 叔母様は、本当になったらどうするのと溜め息を吐いた。


「魔法道具が見つかりました!」


 ぞくりと背筋が冷たくなる。四人で目配せし合い、緊張した面持ちで待ち構えた。丸いボール状の物体を受け取り、そっと確認する。スイッチらしき突起はない。転がすことが作動条件だといけないので、ふかふかクッションの上に安置した。


 水晶球のように透明ではない。色は白濁色だった。


「何だと思う?」


「もう一度埋め戻した方がいいわよ」


 心配する叔母様に、ユーグ叔父様も同調する。レオは私の様子を確認し、どちらとも意見を表明しなかった。噴火の魔法道具の前例があるので、またお父様の寝室に片付ける。帰ってきたら、処理方法を考えてもらいましょう。


 この場にいない大公家当主に丸投げする。私はまだ親の庇護下にいる娘なんだもの。任せればいいわ。また魔法道具が発見されたら、それもお父様の部屋に運ぶよう指示をした。


「リュシーのブラッシングをしてあげなくちゃ」


 現実逃避をするように、大きなブラシを持って庭に出る。裏庭にあるリュシーの小屋に向かった。こないだまで複数のドラゴンが飛来し、大騒ぎだった裏庭はひどい有り様だった。芝が焼け焦げた隣に、溶けかけた氷の柱が刺さっている。


 快適に過ごしてくれたようだが、片付けもしてほしかった。竜に望むのは無理でしょうね。リュシーの小屋を覗くも、姿が見えない。


「リュシー」


 呼べばすぐ駆けつけるため、当然のように名を口にした。空を見上げると、噴火が収まりつつある活火山の方向から、灰色の塊が飛んでくる。これが飼い犬なら、飼い主の元へ全力疾走の光景だった。


 火の粉を撒き散らしながら飛ぶリュシーは、ほんのりと汚れている。火山灰で遊んだのかも……そう考えた私は、舞い降りたリュシーを見て悲鳴を上げた。


「ふかふかの毛皮がっ! 焦げてるじゃないの!!」


 表現をチリチリに変更せざるを得ない、ひどい状態だ。本人は気にならないのか、私の叫びに驚いた顔でぱちぱちと瞬きする。そのまつ毛も焦げてカールしていた。

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