22.邪魔されないうちに結婚式を

 夕食の時間にギリギリ……間に合わなかったレオは、今、私の前で食事をしている。ルフォルの貴族との『狐狩り』は成功したそうだ。楽しかったと報告する彼に、私もサプライズを告げた。


「セレスティーヌ叔母様が、明日結婚なさるそうよ」


「……あす?」


「ええ、明日の午前中に神前で愛を誓い、午後からお披露目なの」


 騒がしい屋敷の様子に得心がいった様子のレオだが、渋い顔になった。段取りを考えているのね、きっと。


「貴族はお披露目から参加でいいと思うわ」


 狩りに協力した翌日、獲物のお母様の結婚式は予想外でしょう。私も同じよ。でも叔母様が幸せそうに微笑むから、お父様やお母様も準備に余念がない。不謹慎と考える者は、この屋敷に存在しなかった。


「服を用意させよう。それから」


「贈り物は後日にしてもらったの。まずはお祝いだけ。レオの服は用意させたわ」


 すでに手配済みで、私と色を合わせて準備完了よ。やや色合いは異なるものの銀髪同士なので、レオは紺色で上下を揃えた。私は紺色のドレスに金刺繍、宝飾品を紫の宝石で揃える。もちろんレオのカフスも紫水晶にしてもらった。


 ほっとした様子で礼を口にしたレオは、食べ終えた皿を避ける。片付ける侍女が出ていくのを待って、私の頬に触れた。


「ようやくセレスティーヌ様も幸せになれる」


「ええ、叔母様の幸せは私も嬉しいわ」


 頬にキスをして挨拶を交わし、今夜は早く休むことにした。明日は一日忙しい。夜を徹して準備をする使用人には、多額の褒美を用意させなくては。あれこれ考えながら、花嫁でもないのに念入りに磨かれた。


「忙しいから、私の世話は適当でいいのよ」


 侍女達に告げたら、なぜか叱られた。任せて整えてもらい、ベッドに横になる。昼間に体を動かしたからか、眠りはすぐに訪れた。






 結婚式の朝は早い。当事者でなくとも忙しいのだ。着飾ったり準備をしたりする人数が多く、出迎える客人の相手もある。侍女に急かされ、大急ぎで着替えた。


 ヴァレス聖王国ではなく、我がルフォルの正装を纏う。ドレスの形が全く違う上、男性も上着の襟や袖が違った。華美でフリルやレースを多用するヴァレス聖王国と違い、ルフォルは流れる柔らかなドレスが主流だった。


 体をキツく絞り上げることなく、神話で伝えられる神々の衣服を真似る。隙間が多く寒いのが欠点だが、夏は涼しく過ごしやすかった。全体に淡い色が多いのだが、祝い事は濃い色の絹を着用するのが慣わしだ。


 鮮やかな花束を抱えた参列者が集まった。結婚式は神に愛を誓う儀式なので、家族や使用人など親しい者だけが並ぶ。侍女や騎士も、それぞれに制服姿で花を手に笑顔を交わす。


 神と伴侶に愛を誓う叔母様は、見違えるほど美しかった。綺麗な方だと思っていたが、ここまで違うなんて。愛は最高の化粧品なのかも。隣のレオは私に釘付けで、顔を無理やりに正面へ向けさせる。


「レオ、きちんとしないと捨てるわよ」


「ごめん、シャルが綺麗すぎて……ちゃんと祝っているから許してくれないか」


 お仕置きを期待する顔で何を言ってるのかしらね、この男は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る