第15話 許されない
豊島が俺の家に来た。
それもお酒を持っていた。
俺は何をしに来たんだ、と思いながら豊島を見る。
豊島はお酒を取り出しながらついでにな感じでジュースを取り出した。
「乾杯しましょう乾杯」
そう言いながら笑顔になる豊島。
俺はその言葉に?を浮かべながら豊島を見る。
そしてそのまま俺達は乾杯した。
そうしてから豊島はビールを飲む。
その傍で湊がジュースを飲んだ。
「で。何をしに来たんだお前は」
「あ、えっとですね。...先輩は...この先どうなるのか、という感じで様子伺いです」
「俺は今から就職先を見つける」
「じゃあ私も行って良いですか」
「何でや」
意味が分からない事を。
そう思っていると豊島は赤くなった顔で首を傾げる。
「はい。私も先輩の職場に付いて行くって意味です」
「...それは何だ。つまり仕事を辞めるって事かお前も」
「私があの場所に居る意味が無くなりましたので」
「?...もし合っているならそのまま仕事を続けたら良いじゃないか」
「合ってないです。だから辞めます」
そして俺を真っ直ぐに見てくる。
気のせいか湊が鋭い視線になっている気がするがまあそれは置いておく。
どうしてそうなるんだよ。
そう思いながら俺は豊島を見る。
「豊島。そんな簡単に仕事を辞めるな。俺は事情があるから辞めるけどさ」
「私があの場所に居たのは(先輩の姿で学びたかった)からです。それが無いとなるともう意味が無いです。友人が居る訳でも無いですし」
「...豊島...」
「...そもそも私の過去は知っての通りですけど」
「...一家離散か」
「そうですね。絶望だらけでした。...それを修正する為に入った。...だけど先輩は酷い目に遭ってばかりで...しかも彼女さんには浮気された」
「...ああ」
「私は先輩を助けたいんです」
それは有難い事だが。
だけどそれで会社を辞めるって。
そう思いながら俺は豊島の顔を伺う。
すると豊島は答えた。
「私にとってもパワハラとかセクハラとかの事態が起こっていましたし。丁度良かったんです」
「...そうか」
「はい。だから私は会社を辞めます」
「...」
「私の事はお気になさらないで下さいね」
俺はその言葉を受けながら顎を撫でる。
それから見ていると湊が切り出した。
「...私は反対です」
「...それはどの部分で」
「豊島さんが十色お兄ちゃんに付いて行くのは反対です」
「何でだよ」
「それは簡単だよ。...私は貴方が好きだから」
そんな豊島の暴露に俺は愕然とした。
それから豊島に赤くなる。
酔っているのかコイツ!!!!?
そう思いながら豊島を見る。
湊が本当に小さく、そういう事か、と呟いた気がしたが。
「ま、待て。豊島。どういう事だ」
「私はそれも有ってこの場所に来ました。私は...貴方が好きですよ」
「...こんなしがない会社員を好きになってどうすんだ。アイドルでも好きになれば」
「意味が分かりませんよ。先輩。私は格好良い、とかそんなの関係無いです」
「アホかお前は。仕事辞めたんだぞ俺は」
「そんなの幾らでも探せば良いじゃないですか。私だって無職ですよ」
「...」
俺は真っ赤に赤面しながら豊島を見る。
そうしていると豊島は見上げてくる。
「まあそれは置いて良いんです。実はもう一個ありまして」
「あ、ああ」
「...ちょっと話してきたんです」
「誰と」
「佐渡美歩です」
一瞬にして固まる俺。
そして缶ビールを置いた。
それから聞いてみる。
「どういう事だ。何を聞いたんだ」
「佐渡美歩は貴方を捨てたくはないって言いましたけど」
「...嘘ばっかりだな」
「そうですね。私その言葉に激高しましたけど」
「...」
「...話し合いをしたいそうです」
そう言いながら俺を見てくる豊島。
何を話すというのか。
今更だし...アイツは自らの義姉の行方を知らない。
そして家族を分解した。
そんなクソ...というかそれを知らなかった俺も大概だけど。
「...会わない方が良いと思いますけどね。あと先輩。佐渡美歩と付き合っていた理由は何かありますか」
「佐渡美歩は佐渡実奈に会う為の口実だったと思う。だけど俺は途中から佐渡美歩を本気で異性として好きになっていたから」
「...つまり...途中から信念が変わっていったんですね?」
「そうだな...衝撃的な事ばっかりで変わると思っていたんだ」
「あの女はもろゴミ屑ですね。今も変わらず昔も変わらずでした」
そう言いながら眉を顰める豊島。
俺はその言葉に目線を逸らす。
すると話を聞いていた湊が顔を上げた。
「...十色お兄ちゃんは騙されていたのかな」
「...最初からそれも計画だったのかもな。何かを手に入れる為に」
「何でかなぁ。...実奈さんは良い人なのに」
「...人は金を前にすると目がくらむという」
「じゃあやっぱりお金かな」
「だけど言っている事は別だったんだよね。...人の関係が壊れるのが面白いとか」
ゾッとした。
それから俺は豊島に向く。
豊島も缶ビールを置きながら俺に真剣な顔をする。
そして俯いた。
「...あの女はサイコパスだと思う」
「...信じられない本性を現したな...クソ女め」
「気を付けた方が良いです。...またやって来るかもだから」
「一応、断交メールは入れたけどな。...どうなんだろうか」
「話を聞くかどうかです」
俺は考え込む。
それから眉を顰めた。
正直...見込みが甘かったという事だろう。
あの女へ対する。
「...変わると思っていたんだがな」
「甘いって事でしょう。...人は変わらないですよ。そんな簡単には。そもそもあの女は...」
「...何だ」
「自らの親殺しの可能性があるので」
あまりに壮絶な言葉に。
俺達は固まった。
何だって。
待ってくれ。
どこで知ったんだよそれ。
「...オイ。豊島。どういう事だ。何処でそれを知った」
「...私の前職知ってます?一応、使い捨て記者を2年ほどやってました」
「...じゃあ何か。ニュース記事とか...」
「そうですね。その時にチラッと小野寺美歩の件を調べた事があります。...結構、話題になっていましたよ。親とかを社会的にも殺した可能性のあるのに、と。だけど証拠もなかったんです。証拠がないから警察も取り合えない。ニュースに出来なかった」
「...」
「思い出してきたんです。最近」
そして俺を見てくる豊島。
それから眉を顰める。
「先輩。私は...貴方に先に知らせれなかった」
「...それはお前のせいじゃ無いだろ」
「だけど」
「だけど、じゃない。無理だった」
そしてそう言い切ってから俺は豊島の手を握る。
それから豊島の顔をジッと見た。
唇を噛む。
「言ってくれて有難うな。...助かった」
それから俺は目の前の湊を見る。
そして豊島を改めて見てから窓から外を見る。
佐渡美歩...。
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