第6話 堕ちる世界に差す希望


豊島が仲間に加わった。

それから俺達は博物館を巡ってみる事にした。

そして博物館に入る。

すると豊島が目を輝かせた。


「子供の時以来です。この場所に来るのは」

「ああ。そんなに久々なのか?」

「ですね。私自身があまり...来たいって思わなかったので。先輩。有難う御座います」

「アホ。俺は何もしてない」


それから館内を巡っていると湊が俺に向いてきてから笑顔になる。

そして手を引いた。


「十色お兄ちゃん。あっち観てみませんか」

「あ、ああ。分かった分かった。だから...その。胸を押し付けるのは止めてくれるか」

「これはワザと押し付けています♡」

「ふざけんな!?」


俺は唖然としながら赤面する。

こ、この野郎。

そう考えながら助けを求める感じでチラッと豊島を見てみた。

そんな豊島は何故か自らの胸を触っていた。


「...先輩はおっぱいが大きい人が好みなんですか?」

「なんだよそれ。お、俺は別に。っていうか女性がおっぱい言うなよ」

「先輩。今は真面目な話をしています」


あのですね。ここは博物館っすよ。

そう考えながら俺は引き攣った笑みを浮かべながら2人を見る。

2人は俺をジッと見た。


「あのな。俺はそんなの決めれないから。質問されても答えないぞ」

「そうですか」

「うーん。十色お兄ちゃんはダメダメだね」


何で俺がボロカスに言われているのか分からないが。

仕方がないだろう。

美人に2人、囲まれているから。

そう考えながら俺は赤面で顔を逸らした。



豊島真紀。

私の名前だけど私はこの名前が気に入っている感じだ。

それは何故かといえば。

先輩が褒めてくれたのもある。

私が...好きと思っている先輩に、だ。


「ちょっ。2人共。良い加減にしろよ」

「これでも加減はしてますよ?」

「そうですね」


右側に居るこの子は湊ちゃんというらしい。

18歳の女の子。

私はその湊ちゃんと先輩それから私と板挟みになってから歩く。

先輩の事情は齧るぐらいには知っている。

それは彼女さんに浮気された、という事を。


何故なのだろう。

一体何故、先輩は傷付かなければならなかったのだろう。

それを考えながら私はイラッとしつつ先輩に付いて行く。

先輩を捨てるなんてあってならない事態だと思えるのだが。


そんな事をしたあの女。

絶対に絶対に許さないと思う。

私達は博物館の中を見て回ってからそのままランチをする為に博物館内を歩いて小洒落たカフェに来た。

この場所は私が子供の頃には無かった場所だ。


「先輩」

「ああ。どうした」

「会社、辛かったですか」


私が聞くと先輩は少しだけ考えた。

それから私に向いてくる。

俯いてから顔を上げた。


「...そうだな」

「...私、その。すいません。先輩が身体を壊しているとは分からず色々と」

「違うよ。お前のせいじゃない。全ては会社の方針。上司との...接点の問題だから」

「...」


涙が浮かんできた。

先輩はきっと。

激務だったのだろう。

だからこそ身体を崩してしまった。


私もハードワークであくまで自分しか見てない部分があった。

だから大切な人が苦しんでいる姿に全く気が付かなかった。

苦しんでいるのに無理に頼み込んだ部分もあった気がする。

私は最低だな。


「お、おい。豊島?」

「...あ、ご、ごめんなさい」

「い、いや。良いけどさ。ど、どうした?」

「...何でもないです。自分が間抜けだなって。そう思っただけです。すいません」


その言葉を言う時。

私は涙が堪えられず涙を流していた。

涙が止まらない。


「私、先輩に無理をさせたかもです」

「無理って何の無理だよ?俺はお前からストレスを感じた事は無いぞ」

「そうですが...いや。私は愚か者な部分があります。先輩に...」


歯を食いしばる私。

それから涙を浮かばせた。

すると先輩と彼女。

湊さんが私に声を掛けてくる。


「十色お兄ちゃんを大切にして下さっているんですね」

「大切にしてますよ。だって。私を、新入社員だった私を助けてくれたんです。彼が」

「...そうだったな。確か」

「はい。あの時の事はしっかり覚えています。先輩が助けてくれた。だから私がこうしてお仕事がしっかりできています。だから私は...貴方には感謝しか無いんです」


そう言いながら私は彼を見る。

彼は私を見ながら微笑みを浮かべる。

それから私に向く。


「俺は何もしてない。俺は何も出来ない頼りない先輩だった。だから俺はお前に何が残してあげたかったんだがな。最悪な結末になっちまったな。本当に辛かったから」

「大丈夫です。先輩。先輩の感情は全て分かります。有難う御座います」

「...」

「先輩。先輩が何処に行こうとも私は先輩の味方です。頑張って下さい」


私も仕事を辞めたい。

だって先輩が居ないなんてあり得ない話だ。

先輩が居たから今の私が居る。

だからあり得ない。

考えたく無い。


「...俺もお前を応援してるよ。頑張ってな。仕事が辛かったらいつでも俺の場所に来い」

「そうさせて下さい。先輩。有難う御座います」


そして私は溢れる涙を拭いながらそのまま先輩を見据えた。

すると先輩は私達を見てから微笑みを浮かべカフェを見る。


「行こうか」


先輩はそう言った。

私は湊さんを見てから頷く。

それから歩き出した。

その力は。

限りなく軽やかになった。

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