至上の魔法使いゼド

@anemono

第1話

 青年シンは、目の前に広がる惨状を受け入れられなかった。

「あぁ……あぁッ、やめてくれ……もうッやめてくれよッ!!」

 辺り一面が死体の山で埋め尽くされていた。地面は血で隙間なく染め上げられており、所々が黒く変色していた。

 冷たい風に乗り、鉄と強烈な腐敗の臭いが鼻につくが、シンにとっては粗末なこと。

「そんな……そんな……ッ!? 母さん……」

 目の前の死体の山の最下層、僅かに覗く女性の腐乱死体に見覚えがあった。かつての肥満体型は光影もないが、血のつながった母の顔ならば見分けはついた。

「……シン……どうして……なんでお前だけ……」

 すると、骨と皮だけとは思えないほど力強く死体の山を押しのけ、母はシンの背に覆いかぶさる。

「……シン。アンタが、私たちを殺したんだな?」

 耳元で囁かれる母の声。そこには優しさも愛もなく、ただ、生者の足を引っ張ることだけに固執していた。

「……罪の意識があんだろ? なら、私たちと一緒に死ねるよな?」

「シン。一緒に……」

 父であった屍も両足首に手を伸ばしていた。

「あぁぁ……あああぁぁぁぁぁッ!?」

 シンは、恐慌状態に陥り、拘束から逃れようと藻掻く。

 しかし、骨と皮だけとなった屍の執念は凄まじく、振りほどけない

「あぁぁああぁぁぁぁッ!! やめてくれぇぇぇぇぇぇえぇぇ!!!」

 勿論、シンは死者に対する恐怖を感じているが、恐慌状態となった原因は別にあった。

 ”家族がこうなったのは、シンのせい”。

 その事実から目を背けようとするが、母は耳元で囁くのだ。

「ここにいる人、みんなアナタが殺したんだ。そして、まだ殺し続ける、無自覚で。おとぎ話のようにして選ばれたその力――フェニックスの力でね」

「ああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁッ!!!!」

 シンは全身を燃やし、辺り一面に炎を放出する。天が燃え、地面が燃え、死体の山が瞬く間に炭になった。

 しかし、背中にしがみつく母だったモノは、

「シン……アナタには何もできない。だって、アナタは外の世界を知らない。そうやって、癇癪上げて周りを不幸にしかしないんだ。あぁ、いい気味だいい気味だ」

 風に吹かれ、母は消えていった。

 しかし、シンの苦悩は終わらない。

 怨嗟の声が、辺りから聞こえて来る。

『お前は不幸の塊だ』

『お前がいると、オレらだけが被害を受ける。当の本人は、なんてことない気の抜けた顔をして……許せない』

『お前はいいよな、伝説の力があって。なんでもできる。なのに、なんで動かない? なんで不幸を一つでも多く減らそうとしない? “誰かを助けたい”という言葉は嘘なのか?』

『オレのほうが努力している。なのに、なんでお前にフェニックスが宿るのか。自分の責任も取れない男が評価されて、真面目に努力したオレがなんで選ばれない』

『王都のダミアンなら納得した。強くて人格者でリーダーの資質がある。だけど、お前はただのバカで引きこもりの世間知らずのガキだ。……世界が認めても、俺だけは絶対に認めたくない』

 これは、シンに与えられた選択肢の一つ。

『シンが何をするにも、この怨嗟は鳴りやまず、足を引っ張ろうと亡者の群れが群がるでしょう。これは終わることのない不幸。こんな道をアンタは選ぶのですか?』

 世界の命運を分ける選択がもうすぐ始まる。

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