最強勇者と最弱魔王

夕玻露

最強勇者と最弱魔王

「勇者よ、今こそ魔王討伐へと旅立つのだ」


この世界では、人類と魔物が存在している。人類は、自分たちの生活範囲を広げるために魔物たちと日々戦い続ける。そんな中、人類には数十年に一度、魔王討伐のための勇者候補が現れる。生き物には、生まれながらステータスが割り振られるのだが、数十年に一度、一般人ではありえないようなステータスが割り振られる、通称『神の子』が生まれてくる。神の子が生まれてくると、人類全体でその子とその子の幼馴染を勇者一行の『勇者』『戦士』『賢者』『魔法使い』としての育成を始める。それから、厳しい訓練を耐え抜いて、その子たちが20歳になったとき、晴れて勇者候補となり、魔王討伐へと向かわされるのだ。勇者が魔王討伐をしている間、人類は勇者が魔物を殲滅した土地を開拓していき、生活範囲を広げていく。そんな感じで、人類は文明を築いていった。だが、魔王城付近の土地だけは、未開拓である。そのため、人類の王は、魔王討伐に行かせて、世界に未開拓の地をなくそうとしている。その夢が叶うとき、人類に真の幸福が訪れる。


「勇者よ、君こそ、真の勇者としてふさわしい」

「ありがたき御言葉」

「君のステータスは、歴代の勇者候補と比べても飛び抜けている。魔王討伐に成功して、首を持ってくるのを楽しみに待っているぞ。だが、油断はしないでほしい。歴代の勇者候補たちは、誰一人として帰ってきていない、どうか無事を願う」

「お任せください、王様。きっと、期待通りの成果を持ち帰るでしょう」


半年後

「なぁ、勇者、道中の魔物たち全員、雑魚かったな。こんなにすんなり魔王の部屋の前に着くとは思わなかったぞ」

「確かに、四天王だけは強かったが、その他の魔物たちは相手にならなかった」

「きっと、以前の勇者一行たちが強い魔物は倒してくれていたのでしょう」

「じゃあ、そんな勇者一行たちでも敵わなかった魔王って一体どんな魔物なのかしら」

「じゃあ、開けるぞ」

ギイイッ

「よくぞ、参ったな。勇者とその仲間たち」

「お前が魔王か」

「そのとおりだ、さぁ最後のパーティーを始めようじゃないか」

「お前、ほんとに魔王か」

「何を疑っている、そうと言っているではないか」

おかしい、何がなんでも弱すぎる。あいつのステータス画面に写されたのは、少し戦闘に才能がある一般人並みのステータスだ。これなら、先程の四天王のほうが100倍強い。流石に影武者だろうか。いや職業名には、魔王としっかり書いてある。スキル表示されてないし、期待外れもいいところだ。

「勇者、どうしたんだ。確かに目の前の魔物は弱すぎるが、魔王であることに変わりない。さっさと倒して、王様に報告しようぜ」

「認めない」

「勇者?」

「絶対に認めない、こんな弱いやつが魔王なんて」

「勇者、どうしたんですか」

「おい、魔王もどき。今からお前を鍛える。そして、強くなってからお前を倒す」

「何を言っているの、目の前に魔王がいるのよ。早く倒したほうがいいわ」

「よせよ、魔法使い。勇者が言ったことだ、従っておこう。それに俺もこんな魔物を倒しても物足りないと思ってたんだ」

「そうですね、勇者を信じましょう」

「戦士、魔法使いまで」

「じゃあ、ついてこい、魔王」

「なぜ我が」

「逆らうのか」

そう圧をかけると、魔王は無言でついてきた。


それから、魔王との特訓の日々が始まった。メニューとしては、以前までやっていた訓練の内容とほぼ変わらないが、休憩の時間を減らして、特訓の時間を増やした。魔王は、ステータスこそ低かったが、熱意は魔物一倍あり、特訓に食らいついてきた。

「魔王、様になってきたじゃないか」

「貴様らのおかげだ」

「そうだろうな」

「そういえば、勇者。なんで人類は、我々と戦っているんだ」

「そんなのお前ら魔物との戦い、陣地を増やすために決まっているだろう。そちらもそうではないのか」

「何を言っている。我々は、世界平和を目指しているんだ。我々が人類の陣地に向かって、進軍したことがあるか、ないだろう。それなのに、人類は我々の陣地に勝手に入り込んできて、無害な仲間たちを殺している。結局、人類は私利私欲のために戦っているのだな」

「そんな事考えもしなかった。僕らは、ただ王様に言われたことを信じてやってきただけだからな」

「そうか、それなら貴様らも同じ被害者というわけだな。そこでだ、いい提案がある」

「なんだ」

「勇者よ、人類と魔物の平和のために王様と不可侵条約を締結してきてもらえないか」

「なぜ、そんなことをしなければならないのだ」

「決まっているだろう、これからの平和のためだ。もし、このタイミングでこの条約が締結されなければ、今後、ずっと被害が増えていくだろう」

「確かに、それもそうだな」

「わかってくれたようで何よりだ。それと暫くの間、仲間たちと一緒に魔王軍に入らないか。貴様らの実力は魔物も軽く凌駕している。魔王軍に入っていても、違和感ないだろう」

「何を言っている、なぜそんなことをしなければならない。今すぐに条約の取引に行けばいい話だろう」

「いや、考えてみてくれ。もし貴様らが城へ帰っている途中で新しい勇者一行が来てしまったらどうする。我は弱い。四天王も貴様らに倒されてしまった。我は、抵抗虚しく、やられてしまうだろう。だから、我が強くなるまでは、この魔王城を防衛していてくれ」

「確かにそうだ」

「じゃあ、契約成立ということでよろしいな」

「ちょっと待て、少し条件がある。僕たちがお前を防衛している間は、人類に手を出さないと約束しろ」

「いいだろう、今までもやってこなかったんだ。これからも手を出すわけないだろう」


それから、我々は魔王城へと帰っていった。

「勇者、遅かったな。もうご飯食べているぞ」

「大事な話がある」

「何でしょうか」

「これから、魔王の防衛をすることとなった」

「何を言ってるの、勇者」

「大丈夫だ、これは何も間違ってなどいない。全てはうまくいく」

「ということだ。さて、配置はもともと四天王が使っていた場所で防衛をしてくれ」

「ちょっと待って、何かがおかしいわよ」

「魔法使い、僕に逆らうの」

「そういうわけじゃないけど、、、」

「じゃあ、全会一致ということで、それぞれ持ち場についてくれ」


これで、あと数十年、魔王城は安泰だ。けれども、前回の勇者一行がやられてしまうとは、人類の進化は早いものだ。だが、人類の寿命は短い、彼らが死ぬまでに新たな四天王候補は訪れないものか。我は、確かに魔王の子どもとして生まれてきたが、ステータスは並の魔物以下だった。そんな僕でも見捨てないでくれた、先代魔王様には感謝しないといけない。今ではこんなに立派な魔王になっています。魔王様直伝のスキルのおかげで。


《シークレットスキル 思考変更》

相手の考えを変えることができる

それに対する考えの違いや信念が強さによって、変更の時間が変わる

(ただし、このスキルは使い手のサポートをするだけなので、実際に得られる効果は使い手による)

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