酩酊の追憶
酒呑み
第1話 長距離走者? 短距離走者? その1
酒好きな方々に質問したい。
お酒を呑まない方は、酔っ払いの戯言と笑ってくれるだけで構わない。
貴方は長距離走者ですか?
それとも、短距離走者ですか?
何の話かというと。
酒を呑むペースの話である。
短距離走者、これは制限時間有りきの勝負に強い。
飲み放題2時間コースで完走しきれればかなりのもの、たった1時間コースでも十分だという猛者がいるかと思えば、いや自分は空き時間が20分もあれば酒を5、6杯は流し込めるという怪物も存在する。
要するにアルコールのタイムアタック、短い時間でいかに気持ち良く酔っ払うかという状況に燃える
2時間あれば十分じゃないかって?
いやいや、これがなかなか難しい。
大体こういう飲み放題は飲み会で利用されるため、お喋りや料理に夢中になり、誰それの恋愛話やら気に食わない上司の悪口やらで盛り上がり、新しい料理が来る度に歓声あげながら写真を撮ったりで、気がつけば宴たけなわ。
はい、ラストオーダー、なんてことになりかねない。
呑み足りない…
そこへ行くと、短距離のプロは違う。
真っ赤。
もう、1次会の終わりで顔が真っ赤です。
お酒に弱いのにお酒に呑まれてしまって真っ赤、ならば救急車を呼ばなければならないが、彼(彼女)の場合は、事情が違う。
1次会で十分酔っ払う為に、タイムリミットの2時間にジャック・バウアーのように真剣に向き合った結果なのだ。
戦い疲れて満身創痍なその姿は、侍を彷彿とさせる。
戦後イギリスでは電気の節約の為にバーを早めに締めたそうだが、人一倍酒好きなとある軍人はこう言った。
「制限時間内に十分に酔っ払えない奴は、立派なイギリス紳士とは呼べない」
ジョークなので、事実かどうかは不明である。
しかし、立派な心がけであることに変わりはない。
だが。
「十分に酔っ払う」というのは、果たして泥酔と同意なのだろうか。
べろべろになるまで呑むのは、やはり子どもっぽいというか、「青い」。アマチュアの中のプロ、アマプロだ。
まだまだ若造よのう、という印象を与えてしまう。
本当に若造なら可愛げもあるが、中年となると目も当てられない。
では、「青く」ない短距離走者、本当の強者の呑み方とは何か。
キーワードは、「ほろ酔い」だ。
酒を呑んだ先の最終目標は、「気持ち良く酔っ払う」こと。
量は関係ないし、たくさん呑めたからといって偉くも何ともない。
真の強者は、自分の適量を知っている。
2時間という限られた時間を目一杯使って、時に料理を食べ、時に水を呑み、飲み放題終わりの瞬間までに最高の酔い心地に到達できるよう計算している。
想像してみてほしい。
1次会が終わり、店の外へ出る。
泥酔者をタクシーへ放り込み、さて2次会…と、なった時点で、まだまだ呑めそうに見える人物は2次会への不参加を告げる(理想の渋い上司やできる先輩を想像してください)。
当然、2次会組からは不満の声が上がる。
酒好きだが呑んでも呑まれない、人に酒を強要せず、自分のペースを守り、最後まで楽しそうな人物は、当然皆に好かれているからだ。
だが、その人物は皆の期待には応えない。
これ以上は醜態を晒すとわかっているからだ。
そして、薄いチューハイしか出さないスナックへ背を向け、しっかりした足取りで夜の街を後にする。
これから最後の一杯を呑むのかもしれないが、それは気の置けない行きつけの店なのだろう。
もしくは、自宅でとっておきのウィスキーを1杯…。
いや、明日の為にすぐに寝てしまうのか。
どちらにせよ、欲望に負けずに己をコントロールできる、かなりストイックな酒呑みと言える。
格好良い。
格好良すぎる。
これこそが、短距離走のプロである。
自分は短距離走者だ、という方は、酒に強いか強くないかはどうでも良いので、ぜひこの境地を目指してほしい。
もう酔っているせいか、長い文章になった。
長距離走者については、また次回。
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