第9話 素材調達

――翌日。


魔鉱石を削りながら、鼻歌まで歌えるようになった私。

あんなに苦労したのが嘘みたいだ。


「あら、だいぶ慣れてきたわね」

「へへへ、コツがわかったみたいです!」


「ふぅん、じゃあ、まだ早いし、素材の調達をお願いしようかな?」

「えっ⁉ 調達……!」


てことは、外?

まだ王都の中でも行ったことのない場所が多いのに……。


「そう、調達よ、陽泉花ならすぐ近くに自生してるから。この麻袋一杯分、摘んできてもらえる?」

「えっと、場所は……」


「そっか、ナギはこの辺、詳しくないもんね……。私が行ければいいんだけど、ちょっと手が離せないのよねぇ……そうだ、クラモに案内させるわ。護衛にも丁度いいし」

「クラモ……」


ちらっと窓際で佇んでいるクラモを見る。

すると気配を察知したのか、ギロッと鋭い眼を向けてきた。


「ひっ……」

「クラモー? ちょっとナギを森まで案内してあげてくれるー?」


『クアッ!』


バサバサッとクラモがこっちに飛んできた。


「まあ、ナギなら大丈夫。この子、嫌なら絶対に近づかないから」

「そうなんですか?」

「うん、賢い子だからね……。ちゃんとナギが私の弟子だってわかってるし、妹弟子だってこともわかってるわよ?」


カレンさんが悪戯っぽく笑う。


「うっ……あ、兄弟子ですもんね」

「そう、だからクラモ、あなたもちゃんとナギのこと守らないと駄目よ?」

『クアッ!』


私は麻袋に剪定ばさみと手袋を入れる。

カレンさんが失敗したポーションも入れてくれた。


「疲れたら飲んでね」

「はい、ありがとうございます!」


「ふふっ、じゃあ二人とも仲良くね。いってらっしゃい」

「いってきます!」

『クァー』



クラモは空に飛んで先導してくれるのかと思いきや、またも私の頭の上に乗っている。

うーん、どっちに行けば……。


迷っているとクラモが右の羽根を羽ばたかせた。


『クァッ』

「え? 右ってこと?」


『クァー』


何となくそうだと言われている気がする。

でも一応、確かめるために左へ行こうとしてみた。


バサバサッと顔を羽根で叩かれる。


『クアックアッ!』

「わわっ⁉ ご、ごめんって!」


やっぱり、クラモはちゃんと道を教えてくれているのだ。


「ありがとね、クラモ」

『……』


返事はない。

でも、この無愛想な兄弟子は、意外と面倒見がいいのだと思った。



すれ違う人の視線にも、だいぶ慣れてきた。

やはり異世界でも、鳥を頭に乗せているのは珍しいのかな?

私は何となく目が合った人に会釈をしながら、王都の門まで来た。


「珍しいこともあるもんだ……そのヴォルホーク、クラモだよな?」


門番のおじさんが声を掛けて来た。


「クラモをご存知なんですか?」

「ああ、珍しい鳥だし、カレンにしか懐かないって、この辺じゃ皆知ってるよ」


ふふふ、何たって兄弟子だからね。

ちょっとした優越感があるかも……。


「あ、私、カレンさんに弟子入りしたナギといいます。クラモは兄弟子なんですよ」

「兄弟子? そりゃずいぶん偏屈な兄弟子を持ったなぁ! わはは!」


『クァッ!』と、クラモがおじさんを威嚇する。

「おっとっと、すまんすまん、クラモ、そう目くじら立てるなって」


おじさんが、眉をハの字にしてクラモを宥める。

このおじさん顔は強面だけど、意外といい人そうだ。


「俺はエルドラン王国の門を守って30年、万年門番のブロンだ、よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」


ブロンさんと軽く握手を交わす。

グローブみたいに分厚くて、大袈裟じゃなく鋼のような手だった。

さすが王都の門番……めちゃくちゃ強そうな人だなぁ。

てか、いまさらだけどこの国って『エルドラン』っていうんだ……。


「そっか、ナギちゃんも、ゆくゆくは錬金術師様か」

「まだ見習いですけどね」


「カレンのとこにはちょくちょく寄るから、そんときはよろしくな。あと、素材の採取なら森の東側に行くといい、この時期なら、まだそんなに人が入ってないはずだ」

「ありがとうございます!」


「まあ、兄弟子がいるなら心配ないだろうけどな?」


ブロンさんがクラモに言うと、

『クアァーッ!』と鳴いて当然だろと言わんばかりに胸を張った。


「じゃあ、ブロンさん、行ってきますね」

「おう、気を付けるんだぞ~」


私は小さく手を振り、森へ向かって歩き始めた。



 * * *



朝露に輝く草原が、そよ風に揺れている。

ドミノ倒しみたいに、緑の上を風が走っていく。


「うわぁ……映画みたい」


最高のロケーションってやつだわ……。

クラモを頭に乗せ、森に向かって、緩やかに弧を描く道をゆく。


気持ちいいなぁ~……。

こうやって、のんびり好きな時に素材を集めて、月に20~30本のポーションをゆる~く売って、悠々自適な異世界ライフを送りたい……。


はぁ……。最高では?


でも、いくら『洗浄』が使えるからといって、お風呂だけは諦めたくない。

たしか、カレンさんが貴族の家には浴場があるって言ってたよね。


てことは、異世界にも、お風呂を作れる大工さんがいるのか……。

相場ってどのくらいなんだろう……戻ったらカレンさんに聞いてみようかな。


よし、当面の私の目標は、お風呂付の一軒家、うん! これで行こう!


そんなことを考えながら、森の入り口に着いた。

少しひんやりした空気を感じる。


「クラモ、よろしくね」

『……』


返事はないが、もう気まずさはなかった。

美しい木漏れ日の中、私の足取りは軽い。


「はー、避暑地みたい」


しばらく道なりに進んでいると、クラモが飛び立ち、茂みに入って行った。


「あっ、クラモ⁉」


慌てて後を追う。

さっきまで平気だったのに、クラモが居なくなると急に森が怖くなった。


え……どうしよう……。


「クラモぉ……? どこぉ……」


ザワザワ……ザザザ……。

風に揺れる木々。

日差しを遮る広葉樹のせいで、辺りが薄暗く感じる。


何が木漏れ日だ! もっと陽を照らしなよ!

と、心の中で毒づきながらクラモの後を追った。


「クラモぉ? クラモさん……兄弟子ぃ……?」


茂みの奥から『クアックアックアッ』と短くクラモの鳴き声が聞こえてくる。

――クラモだ!


必死で木々をかき分け、茂みを抜けると、そこには円形に広がる陽泉花の群生地があった。


「わぁ……すごい……」


真っ白な可愛らしい花が一面に咲き誇っている。

その中に、仏頂面のクラモが佇んでいた。


「クラモ~、ありがとね!」


兄弟子に手を振り、私は麻袋から剪定ばさみを取り出して、採取の準備をする。


「……」


いざ摘もうとして手が止まった。

こんなに可愛い花だし、ちょっと抵抗がある……。


でも、こればっかりは仕方が無いか。

本当にごめんね、大事に使わせてもらいます――と、私は両手を合わせた。

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