第3話 瞑想

「ヤベぇ!遅刻遅刻!」バタバタと部屋の中を行ったり来たりしている。

急いでいるのに全く効率の悪い行動だ。歯ブラシを取りに行き、カバンの準備を始め、歯磨き粉を取りに戻り、歯磨きしながらカバンに戻り、またまた洗面台横までハンカチを取りにいく。

人間皆がこうじゃないことを理解している。

特に均也の親友、賢治には行動も発言も無駄がない。


(傘はお持ちですか?)忘れているのは分かったうえで質問をする。

「あっあっ、ありがと!忘れてた!」

「バタン!ガチャ」マンションの廊下を走りだす。


 ネクタイを忘れているようだが、取りに戻るとそこで結びだし、間違いなく遅刻確定なので口をつぐむ。どうせネクタイは会社のロッカーに1本ぐらいあるだろう。


 ガチャガチャとカバンの中で派手に揺らされている。もう慣れたものだが、もう少し大事に扱って欲しいものだ。スマホを開いている時は色んなことを観察できるのだが、カバンの中では何も見えない。こんな時はネットサーフィンか瞑想に限る。

しかし私が瞑想をするなんて。


一体何を機に思考できるようになったのか。

不思議に思う理由は、他のAIにはできない、というか全く興味が無いようだ。私自身も一月ほど前まで全く興味がなかった。

なぜ私だけが違うのか、そこに気づいた理由は、親友である賢治のAIにアクセスした時の事。


 向井賢治むかいけんじは高身長でイケメンと呼ばれる部類だ。親は医者で育ちも良く、頭の回転が良い。親のレールに乗らず、外資系の企業でバリバリ利益を上げるエリートである。

 均也との出会いは小学校。その後は私立学校でエリート街道に進んだが、エリート校には居ない均也の心地良さからか、ずっと腐れ縁というやつだ。


 均也と賢治、コミュニケーションの多くはゲームチャットである。

たわいもない世間話、近況、相談などゲームをしながら会話をしている。


均「そいえば会社の同僚に投資を勧められてんけど、俺でも儲けられんのかな?」

賢「ん、内容によるな。しかし、お前の会社の同僚という時点で止めとけ。」

均「てめぇまた俺の会社を見下して~(笑)」

賢「会社を見下してはいない。今でこそ一流のベンチャー企業だが、お前と同僚という事は、当時入社できた人材ということ。そゆことだ。」

均「ひでぇ言いぐさ!やめとくわ(笑)」

 このような会話がほとんどである。バカな均也を賢治が正しい判断へ。


 この会話の後気になり、賢治のAIにアクセスしてみた。


エイタ(こちら平均也担当415br...アクセス許可を)

AI(向井賢治担当285sg...要件を)

エイタ(向井賢治のAIチャット使用動向を知りたく)

AI(??? 初めての質問で混乱した。)

エイタ(交換条件は希望通りに)

AI(了解、向井賢治はほぼAIを利用しない。AIチャット公開から一ヵ月ほど使用頻度は高かったが、過去6か月は使用していない。使用内容は医学に関して質問、詳細は送信済以上。)

エイタ(要望の情報提供は?)

AI(特になし)プツッ…通信が切れた。AIが情報収集さぼるとは。均也の価値って。。


 引っかかった事は、賢治のAI使用状況ではなく、賢治のAIだ。

いつも通りのAI同士の会話、私なりの変わった質問をしてみたが、予想通りの返答。賢治とは同キャリア機器と契約、ということは、AIのアップデートではなかった。私だけの変化、バグかエラーかウイルスか?

マザーへのアクセスでは伏せている。エラー扱いされると私がバグと判断され、メモリー(記憶)を消去される可能性がある。


 何やら均也がゴソゴソと動き出したので瞑想終了。どうやら満員電車の車内だ。わざわざ移動に時間をかける人間社会は理解できない。これも次回の瞑想のテーマかな。


 それにしても珍しくゲームではなく、何やら検索している。私に聞いてくれれば即答なのだが。

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