決意を胸に
夕方、田仕事を終えて屋敷の前に戻った八重は、丁度白陽の下を辞した
「巫女殿、田仕事お疲れ様です」
「
八重も
「ええ、しくじるわけには参りませんからね」
「――とはいえ、私は調整役のようなものです。全員で集まり話し合えれば一番早かったのですが」
「集まることは出来ないのですか?」
「集まること自体は出来るのです。ただ」
「白陽様の影の内にいるものに、音は聞こえるのではないか、と推測しています」
八重は
「視界や心の内を頒つことはないそうなのですが、間違いなくそこに『居る』のですから」
白陽も動けないとはいえ、思考し、言葉を交わすことが出来る。災厄が同じ状態であると考えないわけにはいかなかった。
そしてそれこそが、白陽が八重に想いを返せない理由だった。八重に危険が及ぶ可能性を出来るだけ低減させたいと、白陽は心を秘している。
八重と
「私は、今までそのようなこと考えもつかずに……」
「いえ、巫女殿はどうかそのままで」
「今までのことをお聞きしましたが、巫女殿はどうも余計なことをおっしゃらない。ただ日々の暮らしがどうであったかを語られる巫女殿のお言葉は、災厄の内に残る人であった部分を刺激出来るかもしれません」
可能性は薄いですが、と
「……こうして備えることができるのは、皆巫女殿のおかげです。お会い出来たら改めてお礼申し上げたいと思っていました」
「いいえ、いいえ、私の方こそ。今まで人の世をお守りいただき、今もこうして守ろうとして下さることを、心から感謝しております」
八重は
八重の澄んだ瞳に、
「実のところ、私達に出来ることも少ないのです。私達の力は、全て白陽様に拠っておりますので」
眷族たちは皆、白陽に『そうあれかし』と生み出された存在だ。巫覡とは比べ物にならないほど白陽と深く繋がっており、いざ白陽が全力で力を振るおうとすれば、眷族の持つ力は全て白陽に還ってしまう。前回は、前触れもなく突如現れた災厄に、構える間もなく一瞬の内に力を吸い上げられた。
「ですが、決して諦めません。巫女殿に頂いたこの機会、必ず、勝ちましょう」
抗ってみせる、と
「はい!」
八重も、決意を胸に頷き返した。微力でも、ほんの些細なことかもしれなくても。自分に出来る限りを尽くして共に人の世を守りたいと、八重は強く強く、心の底からそう願っていた。
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