第33話 軽いスキンシップの応酬

 映画が中盤に差し掛かり、スクリーンには激しい戦闘シーンが展開されていた。銃声や爆発音が劇場全体に響き渡り、観客たちは緊張感に包まれていた。そんな中、悠真は両隣にいる綾音と美咲の存在を強く意識していた。


 綾音は映画の展開に引き込まれ、時折スクリーンに釘付けになりながらも、ふとした瞬間に悠真に寄り添うように体を動かした。彼女は少し緊張した様子を見せながらも、優しい微笑みを浮かべて彼に話しかけた。


「日向君、これ……本当にすごい迫力だね」


 彼女の声はいつも通りの明るさを持ちながらも、どこか柔らかく、親しげな雰囲気が漂っていた。彼女の手が自然な流れで悠真の腕に軽く触れ、そのまま指先が彼の肌に当たる。まるで映画の緊張感を共有したいかのように、綾音は悠真に少しだけ寄り添っていた。


「そうだな、すごい……」


 悠真は不意に心臓が高鳴るのを感じつつ、何とか落ち着いて答えた。だが、その瞬間、彼の視線は隣の美咲の方に移った。綾音との距離が近づくのを感じた美咲の表情には、明らかな不満が浮かんでいた。


 美咲は、さりげなくため息をつきながら、スクリーンから目をそらすことなく悠真に話しかける。


「……ねえ、日向君。やっぱり映画館の音、大きすぎてちょっと苦手かも」


 彼女の言葉には、普段のツンとした態度とは違う柔らかさがあり、悠真に何かを訴えかけるような響きが込められていた。そしてその瞬間、彼女は悠真の袖を軽く引っ張った。彼女の手が自然と悠真の腕に触れ、その触感が彼の意識を一瞬集中させた。


「大丈夫か?」


 悠真は心配そうに声をかけたが、美咲の行動が単なる「音が苦手」という理由ではないことにすぐ気づいた。彼女は明らかに、隣で親しくする綾音に対抗する形で自分の存在をアピールしようとしていた。


「少しだけ……ね、ちょっと寄りかかってもいい?」


 美咲はそのまま少し顔を赤らめながら、悠真にさらに近づいた。彼女の声は小さく、かすかな震えが感じられた。普段の強気な態度とは異なる、美咲の素直さが見え隠れしていた。


 悠真は戸惑いながらも、彼女の様子に優しく答えた。


「うん、いいよ。ゆっくりしてて」


 その瞬間、美咲の顔に少し安堵の表情が浮かんだが、彼女は悠真の袖を離すことなく、そのままそっと彼の腕に寄り添った。彼女の体温が伝わり、悠真は再び心臓が高鳴るのを感じた。


 しかし、その様子を見ていた綾音の視線が鋭くなったのを、悠真は感じずにはいられなかった。綾音は、美咲が悠真に寄り添う姿に焦りを感じつつ、しかしそれを隠すように微笑みを保ち続けた。


「美咲ちゃん、映画が怖いのかな? 私も最初はちょっとびっくりしたけど、日向君がいるから大丈夫だったよ」


 綾音は一見親しげに話しかけるが、その言葉の裏には軽い挑発のようなものが感じられた。彼女もまた、悠真に寄り添う美咲に対して負けたくない気持ちを抱いていたのだ。


「……」


 美咲は言い返さず、悠真に寄り添う状態をキープする。


「へぇ~~。やるね」


 悠真は、二人の間に漂う火花のような緊張感に気づきながらも、どうすればいいのか分からず困惑するばかりだった。両隣から感じる二人の思いに挟まれ、彼の心は大きく揺れていた。

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