陰キャだけどざまぁの後にモテる生活が待っている。
白金豪
第1話 屋上での出来事
日向悠真は教室の隅で一人、無言の時間を過ごしていた。学園生活が始まって数週間が経過したが、彼の周囲の空気は一向に変わらない。いつも通り、誰とも話さず、誰とも交わらず、ひたすら周囲の視線を避けながら過ごす。それが彼にとっての日常だった。
「おい、陰キャ、邪魔だよ!」
背後から不意に投げかけられた言葉に、悠真はビクッと肩をすくめる。声の主はクラスの人気者、三浦亮太だ。三浦は背が高く、スポーツ万能で、いつも女子の視線を集めている。彼のような存在は、悠真のような陰キャには手の届かない存在だった。
「す、すみません……」
悠真は小声で謝り、急いでその場を立ち去った。逃げるように教室の外へ出ると、廊下に出た瞬間、冷たい風が彼の頬を撫でた。悠真はその場に立ち止まり、しばらく深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「……なんで俺は、こんなにダメなんだろう」
小さな呟きが口をついて出た。彼は何度も自分に問いかけてきた。クラスで誰とも話せず、ひたすら目立たないように生きてきた。何かを変えようと思っても、結局はいつも同じ結果に終わる。自分には何もできない――そう諦めていた。
しかし、その日は少し違っていた。
放課後、悠真はいつも通り教室を出て、屋上へ向かっていた。屋上は彼の隠れ家だった。誰も来ない静かな場所で、一人で過ごす時間は唯一の安らぎだった。
しかし、屋上に続く階段を登り切ると、聞き慣れない声が聞こえてきた。
「ねえ、綾音。俺のこと、どう思ってるんだ?」
悠真は足を止め、その声に耳を澄ませた。それは、三浦亮太の声だった。心臓がドクンと音を立てる。彼のような人気者が、なぜこんな場所に?
恐る恐る扉の向こうを覗くと、そこには三浦と、クラスの人気女子である橘綾音がいた。彼女はスタイル抜群で、顔立ちも整っており、クラスの男子全員が憧れる存在だ。だが、その彼女が今、明らかに困惑した表情を浮かべながら三浦の言葉に答えようとしていた。
「私は……そんな風に考えたことないわ。ごめん三浦くん」
「はっ? なんでだよ。俺、お前に優しくしてやっただろ? 俺のこと好きにならない理由なんかあるのかよ?」
三浦は苛立ちを隠そうともせず、強引に彼女の肩を掴んだ。綾音は驚きの表情を浮かべ、一歩後ずさりしたが、三浦の力に抗えず、その場に立ち尽くしている。
「や、やめて……」
その瞬間、悠真の中で何かが弾けた。衝動的に自然と行動していた。
「……やめろ!」
自分でも信じられないほどの大きな声が口を突いて出た。悠真は扉を勢いよく開け、二人の間に飛び込んだ。綾音の震える顔が目に入る。彼女は怯えたような表情で、悠真を見つめていた。
「なんだよ、陰キャのくせに。お前には関係ないだろ!」
三浦は悠真を見下すような目で睨みつけ、手を振り上げる。その瞬間、悠真は反射的に身をすくめてしまった。自分でも情けないと思ったが、体が勝手に動いてしまったのだ。
「……俺は、彼女が嫌がってるのがわかるから……」
言葉に詰まりながらも、悠真は必死に自分を奮い立たせた。だが、三浦の顔には嘲笑が浮かんでいた。
「はっ、カッコつけんなよ。お前みたいな陰キャが、こんな美人と付き合えるとでも思ってんのか? 馬鹿らしい。いいから消えろよ」
その言葉は、悠真の心に深く突き刺さった。確かに、三浦の言う通りだった。自分はただの陰キャで、綾音のような子と釣り合うわけがない。そう考えると、足が動かなくなった。
結局、悠真は三浦に圧倒され、その場で呆然と立ち尽くしてしまった。
「やっぱり、お前には無理なんだよ」
三浦の冷たい声が、悠真の耳に響く。自分には何もできない。そう感じた瞬間、悠真の目の前が暗くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます