第21話 決断

1.新たな現実


日々が過ぎ、季節が変わるにつれて、城下町はかつての姿を取り戻しつつあった。ミリアとラフティの尽力によって、民衆は再び希望を見出し、生活の安定を取り戻し始めていた。しかし、ミリアの心は重く、日々の業務に追われながらも、彼女は自分の中に宿る新しい命について深く考えていた。


ミリアは王女としての責任を負い、リリアナの代わりに国を守るという大きな使命を担っていた。彼女はその重圧を感じつつも、心の奥底で迷っていた。母となる自覚が次第に芽生える一方で、この事をラフティにどう伝えるべきか悩んでいたのだ。


ラフティもまた、ミリアの変化を感じ取っていた。彼女が以前よりも体調を崩す事が多くなり、疲れが見えるようになっていた事に気づいてはいたが、彼女が何も言わない限り、無理に問い詰める事はしなかった。それでも、彼女の肩を支え、毎日の忙しさから少しでも解放されるよう、できる限りの事をしていた。


ある晩、ラフティはミリアにそっと声をかけた。


「ミリア、無理をしているんじゃないか?何かあったら、いつでも言ってくれ。お前が頼ってくれるなら、俺はどんな事でも力になる」


ミリアは一瞬、ラフティの優しさに触れ、心が揺れた。彼に全てを打ち明けるべきか、葛藤が浮かんだが、彼女は結局微笑みながら首を横に振った。


「大丈夫よ、ラフティ。私は強いわ。この国も少しずつ落ち着きを取り戻しているし、きっとこのまま上手くいくはず」


その言葉には、彼女自身を納得させる為の強がりが混じっていた。しかし、ラフティにはその裏に隠された不安が見え隠れしていた。それでも彼は、無理にその先を追及する事はなく、ただ彼女の言葉を信じ、側にいる事を選んだ。


2.外交の緊迫とミリアの迷い


時が流れ、城の再建が日々進む中で、周辺国からの外交問題が急速に浮上してきた。ミリアが新たな姫として立つ事により、いくつかの王国はこの国との連携を強化しようと政略結婚の話を頻繁に持ちかけてくるようになった。その中心となったのは、隣国アゼルバイアのユリウス王子であり、彼の家系は強大な軍事力を誇っていた。彼の求婚の申し出は、ミリアにとって避けられない課題となりつつあった。


会議の場では、重臣たちがミリアに結婚の必要性を強く訴えた。彼らは、隣国の支援を得る事で国を守り、さらなる繁栄を図ろうとしていたのだ。ミリアはその場で、冷静な態度を保ちながらも、内心では深い葛藤を抱いていた。


「姫様、この結婚は国の未来を守る為の重要な一手です。あなたの決断が、この国を救う事になるのです」重臣達は口々にそう告げた。


ミリアはそれに対し、静かに頷くが、心の中ではラフティの事が頭をよぎっていた。ラフティと共に過ごす時間、そしてリリアナとの戦いの後に宿った命。それらが彼女を結婚という選択から遠ざけていた。


しかし、一国の姫である以上、今の立場で国を守るには、自分がその役割を果たすしかないという現実も重々理解していた。


3.ラフティの支えとミリアの決意


ある夜、ミリアは一人、城の庭園に立っていた。夜風が冷たく頬を撫で、満天の星が空に瞬いている。その静かな夜の中、彼女はひそかに涙を流していた。近い未来に待ち受ける結婚、そして新たな命。その重圧が彼女の心を押しつぶしそうとしていた。


その時、ラフティが庭に現れ、ミリアの側にそっと寄り添った。


「ミリア、何か悩んでいる事があるなら、俺に話してくれ」


彼の優しい声に、ミリアは思わず涙がこぼれた。彼女はこれまで強く振る舞ってきたが、ついにその重さに耐えきれなくなり、ラフティに全てを打ち明けた。


「ラフティ……実は、私……」


彼女は震える声で、自分がリリアナの子を宿している事、そして政略結婚が近い将来避けられない未来である事を告白した。


ラフティはその言葉を聞き、驚きと共に深い悲しみが胸を刺した。だが彼は冷静に、ミリアの肩を優しく抱きしめた。


「ミリア、何があっても俺はお前の側にいる。子供が生まれても、結婚がどうなろうとも、お前がこの国を守りたいなら、俺もその為に協力する。だから、無理はするな。お前は一人じゃない」


ミリアはラフティの言葉に救われた。彼の側にいる事で、彼女は再び自分の中にある強さを感じ始めた。彼女はこの国を守る為、ラフティと共に未来を切り開いていく事を決意した。






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