夢旅人ラフティの冒険

たまご納豆

プロローグ

夕暮れのアークレイン城の城下町は活気に満ちていた。商人達の威勢のいい声が飛び交い、広場では街の住民達が楽しそうに笑い、酒場からは陽気な音楽が流れてくる。しかし、その喧騒の中に、ひとりだけ静かに動き回る影があった。


「よし、今日も楽勝だな…」


ラフティは満足げに笑い、袖の中にすばやく金貨を滑り込ませた。彼の動きは猫のように俊敏で、目の前を行き交う人々は誰一人として彼に気づいていない。盗賊としての日々は彼にとって、ごく当たり前の生活だった。笑顔を浮かべながらも、彼の目は常に標的を追っている。


「次は…あの大商人か。おいしそうな金貨袋を持ってるじゃないか」


彼は軽く伸びをし、商人の後を追いかけ始めた。身を隠しながら、人混みを縫うようにして追うその姿は、まるで風のように滑らかだ。だが、その瞬間、背後から鋭い声が響いた。


「待て!盗賊だ!」


振り向くと、数人の兵士達がこちらに向かって走ってくる。ラフティは目を丸くし、舌打ちした。


「やべぇ、バレたか」


すぐさま駆け出し、細い路地に逃げ込む。複数の足音が追いかけてくるが、ラフティは慣れたもので、壁を蹴って屋根に飛び乗ると、次々と建物を飛び越え、まるで遊んでいるかのように笑いながら逃げた。


しかし、追いかけてくる兵士達の数は思ったよりも多く、次第に彼を追い詰め始めた。焦るラフティは、やがて城下町を越え、町外れの森の奥深くへと足を踏み入れる。


「こんな所まで追ってくるとは思わなかったな…」


木々の間を駆け抜け、森の静寂の中に飛び込んだ彼だったが、不運なことに足を滑らせてしまい、勢い余って滝壺へと落ちてしまう。


「うわあああ!」


冷たい水が全身を包み、意識が一瞬で遠のいていく。深く、暗い水底へと沈みながら、ラフティは意識を失っていった。


1.夢の中


ラフティが目を覚ました場所は、まるで現実とは異なる、不思議な光景だった。星空の下、柔らかな光が降り注ぐ草原に立っている。


「ここは…どこだ?」


声をかけようとしたその時、突然目の前に小さな光が舞い降りた。光の中から、可憐な妖精が姿を現す。


「ラフティ。貴方に使命を託します」


その声は優しく、しかしどこか厳粛だった。


「は?俺が何をしたっていうんだよ?」


戸惑うラフティに、妖精は言葉を続けた。


「世界は今、魔王の脅威に晒されようとしています。貴方の持つ力が、その運命を変える事ができます。貴方は選ばれし者です」


ラフティは不満げに眉をひそめた。選ばれた?そんな大それたことに関わるつもりはない。だが、妖精の眼差しには揺るぎない確信があった。


「嫌だと言ったら?」


「それでも、貴方は運命から逃れることはできないでしょう」


妖精は小さな短剣をラフティに差し出した。その刃は、まるで光その物のように輝いている。


「この短剣と共に、貴方には特別な力を与えます。人々の夢の中へ入り、悪夢と戦う力です。」


ラフティは短剣を見つめ、溜め息をついた。


「本当に俺でいいのかよ…」


しかし、次の瞬間、草原がかき消えるように消え去り、彼は再び滝壺の底で冷たい水の感覚とともに目を覚ました。

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