囁き幽霊少女と死にたいあなたが奏でる夜の夢

斉藤しおん

第1話 未練があるんだよ

//位置:3


「ねぇ、ねぇ、おにーさん……アタシの事、見えてるでしょ」


「知ってるから声をかけたの……」


「だってアタシがここに来た最初の日に目が合ったから」


「目が合うと逸らしたり、アタシが着替えするフリとかしたら」


「そそくさと部屋を出てったり、反応かわいーからさ」


「声掛けちゃった」


「んふふ、ねぇねぇ、アタシの話聞いてくれる?」


「未練がね、あるんだよ……夏に置いて居ちゃった未練」


「アタシさ、もうすぐ消えちゃうみたいなんだ……」


「だから誰でもいいとは言わないけど」


「でも……誰かの、おにーさんの記憶に残してもらいたくて」


「アタシの話、聞いてくれる?」


「あ、そのまま、横になったままで良いよ」


「顔見られて喋るのってなんか恥ずかしいじゃん?」


「だからさ、そのまま聞いてて……途中で寝ちゃってもいいよ」


「声も……もうこんな囁くような小さい声しか出せないし……」


「アタシね、恋をしてたの……でもね、言えなかった」


「それがずっと未練なんだよねー……好きだったなぁ」


「笑った顔とか、ピアノ弾いてる時の横顔と長い睫毛の影とか」


「学校帰りに一緒に食べて交換したひとさじのアイスの味も」


「思い出すとドキドキする」


「アタシの好きな人はね、普通の恋がしたかったんだって……」


「アタシは普通の恋ができなかったからさぁ……言えなかったんだぁ」


「だってその子、アタシの一番の親友で女の子だったんだもん」


「アタシも女の子じゃん、ほら……普通の恋じゃない」


「勝算のない告白なんて誰だってしたくないじゃん?」


「アタシはさ、友達で良いからその子の一番近くに居たかった」


「だから告白しなかったの」


「でも死んじゃうんだったらさ」


「好きな子に告白くらいすれば良かったなぁって」


「そう思ったらこうなっちゃったってワケ」


「たはは、笑ってくれていいよ。んー?」


「なぁに、おにーさん。片耳で囁かれるのくすぐったい?」


「ごめーんね、最後の最後で悪あがきしちゃって」


「見えてる人に、聞こえてる人に、アタシの話を聞いて欲しかったんだぁ」


「アタシの事を覚えてて欲しかったの」


「あ、お薬効いてきた? 目がとろーんってしてる」


「じゃ、今日はここまでにするね。明日の夜、また来るね」


「おやすみ、今夜はちょっとだけでも眠れるといーね。おにーさん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る