聖獣使いがいる異世界に転生し私も聖獣使いになりました

@eriyasasaki

第1話 聖獣に異世界へ飛ばされたんだけど!

最初は犬か猫だと思ったんだ。川面から時折出る濡れた毛のようなものが見えた時、間違いなくそれが生き物だという確信はあった。


視力は人よりもかなりいい方だったしね。


だから、持っていた竹刀を使って何とかそいつを助けようとした。


自分でも本当に馬鹿だとは思う。真冬だというのに。


川は決して浅くも狭くもないというのに。


無理に橋の上から身を乗り出した私は、お約束のように川に落ちた。


《しかし、その馬鹿さは嫌いじゃない》


なんとか目標に手を伸ばし、その腕に抱きしめる。


よかった、流れが穏やかだからまだ何とか浮ける。


しかしこの水温じゃ私の体力がもたない。


日は沈みかけ、街灯がないと川の様子なんてわからない。


「うっ…」


しかし、泳ぐには手がふさがっているせいでかなり不自由だ。


右手には竹刀。


そして左手には…


「…?」


そこで私は気付く。


自分が左手に抱えたそれは、犬でも猫でもない…もっと言えば、そいつが今まで見たことのない動物だということに。


「なんなのこれっ・・・わぷっ!?」


一瞬気がそれてしまったのが運の尽きだったらしく、私は見事に足をひねってしまった。


がぽがぽと間抜けな音を立てながら沈んでいく体。


せめてこいつだけはと、私は左手を上にあげ……


そのまま気を失った。


《気に入った。お前は俺のものになれ。》


………頭の中で、誰かが私にそう言った。


「…ここどこだ…?」


気が付いたら私は布団の上に寝ていた。


川に飛び込んだせいもあって、全身ぐしょぐしょだというのに…


「…そうだ!犬!?猫!?あいつどこいった!?」


上半身を起こして周りを見渡せば、そこはどうやら寺の中のようで、もしかしたら通りすがりのお坊さんかなんかが助けてくれたのかもと一瞬考えたが…


「いや、フツー救急車だよね。」


《お前は動物を救急車で運ぶのか。》


「!?」


てっきりひとりだと思ってたから恥ずかしい。


しかし思いっきり独り言に突っ込んできた相手の方を反射的に向いてしまうのは、私の持ち前の好奇心のせいだろう。


それでも、薄暗い部屋の中では声の主らしき姿を捉えることができないのだが。


「…貴方が私を?」


声だけ聞いても男か女か判断できないが、少なくとも若い人なのだということはわかる。


《ああ、そうだ。》


その人がそう答えて間もなく、私の膝に何かが落ちた。


…いや、落ちたのではない。多分乗ったのだ。


「さっきの…?」


きっと、あの動物だと察した。


しかし、あろうことかその動物と同じ角度から、例の声がしたのだ。


『僕は麒麟。五聖獣の中央を守護する者。先程は助けてくれてありがとう。』


「……。」


はい?


その時ちょうど、雲が晴れたのか月明かりが部屋に差し込み、膝の上の動物の正体があらわになる。


七色に輝く美しい毛は、やはり私の記憶を探っても、見たことのない動物のそれだった。


「貴方は一体…?」


『”五神獣の麒麟”…そういえば少しはピンとくるだろうか?』


「きりん…」


改めて口を動かして喋るそいつを見てみたけど、決して首は長くないし、おしゃれな模様もない。


念の為にその体を撫でてみた。


『なるほど。この世界には神獣の類の逸話がないのか。』


「神獣…?貴方、神様なの?」


だとしたらここは神社か。


『まあそれに等しい力は持ってるな。尤も、今は大分弱まっているが。…しかし、お前も思ったより驚かないんだな。』


「夢だと思ってるから。」


『馬鹿か。これは現実だ。』


バシンっ


思いっきり頬を叩いてみたが、普通に痛かった。


『馬鹿か。』


「否定はしない…。」


『しかし、その馬鹿さは嫌いじゃない。…いや、むしろ僕はお前を気に入った。』


「わっ!?」


ストンと、布団に押し倒される。


ぬいぐるみぐらいの大きさのくせになんて力だ…。


『お前僕と取引しないか?』


「取引!?」


『ああ。お前には僕の力を取り戻す手助けをしてほしい。しかし、僕の力が完全に戻ったら、お前の願いをなんでも3つかなえてやろう。』


「力を取り戻す…?何故?どうやって?」


『一辺に質問するな。まあ答えてやるから落ち着け。』


そいつは…麒麟は、私の顔に近づき、額にそっと触れた。


次に、私の頭には様々なヴィジョンが浮かんでくる。


麒麟、青龍、朱雀、玄武、白虎…。


聖獣、仲間。

「……。」


『それらは、お前の住んでいるこの世界とは異なる場所に存在するものだ。…僕たち聖獣は、現在聖獣使いの主と共に共存し、世界の秩序を守ってきた。』


しかし、それぞれの聖獣の主は世界中を探せば必ず見つかるのに対し、麒麟の主になれる器はなかなか生まれなかった。


『もともと僕だけは聖獣の中でも特殊でね。毎回主探しに困るんだよ。…今回はもうかれこれ50年は探し続けた。』


「50年…」


『そうだ。…50年探し続け、ようやく気付いた。僕はなぜか、聖獣使いの人間を主にできないのだと。』


しかし、50年で一人で過ごしてきた麒麟は力の衰えを感じていた。


『一刻も早く、主を探さねばならないと思ったよ。…そこで、僕は残り少ない力を振り絞って、異世界へ主を探しに来たんだ。そして、お前と出会った。』


「……。」


『悪い話じゃないと思うんだ。むしろお前には都合のいい話だと思うんだよ。…どうだろうか。』


なんでも願いが叶う…3つも…。


「…それで、どうやって私はその条件を果たせばいいわけ?」


『僕と一緒に僕の世界に来てもらう。そこで、残りの五聖獣…いや、正確には四聖獣の主を見つけだし、共に戦ってほしい。お前が強くなれば、僕の力も強くなると思うんだ.』


「その仲間はどうやって見つけるの?」


『会えばばわかるさ。…必然的にな。』


「でも異世界に行くってどうやって?私、学校とかあるんだけど。」


『大丈夫だ。僕達五聖獣が揃えば、異世界へ行くだけでなく、時間さえも超えることができる。お前との契約終了時、お前が川に落ちる前の時間・場所に戻すことだって可能だ。』


「なるほど。」


それなら、こんなにおいしい話はないだろう。


「わかった。麒麟さん協力するよ。」


だって、私にはどうしてもかなえたい願いがあったから…。


『”麒麟さん”は気持ちが悪い。とりあえず、”キリ”とでも言ってもらえたら。』


「そうだね。キリ。」


『それでは早速準備に取り掛かるか。…エリカ。』


「私の名前…知ってるの?」


『勿論だ。先程持ち物を見させてもらったからな。』


なるほど。


「で、準備って何?」


『簡単に言ってしまえば着替えと旅の支度だ。一度お前の家にいこう。』


「あ、そうだね。……いかなくちゃだよね。」


『?……あぁ、ではいくぞ。僕にしっかり掴まっていろ。』


私は転がっていた荷物を持つと、キリを抱き締める、すると、間もなくあたりが明るくなり、気づいたらよく見慣れた自分の部屋にいた。


『ずいぶん静かだな…まぁいい。さっさと準備をしよう。』


「…うん。」


まずはこの濡れた制服をなんとかしなきゃならない。


着替えを取り出そうとしたところで、キリに呼び止められる。


『男物の服はあるか?』


「あるけどなんで?」


『これから行く世界ではお前は私をパートナーとする聖獣使いになる。聖獣使いは男が多い中に女がいたらとにかく目立つんだ。仲間になりやすいという意味もあるが、様々な安全面を考慮して、男装することを推奨する。』


「え、そんなに危険な仕事なの?聖獣使いって?」


ヴィジョンで見たときはパートナーの聖獣が主に戦ってくれて、使い手はそれを指示するみたいな感じだったからそこまで危険な感じはなかったけど…。


『ああ、使い手によるが、中には聖獣を操るのがあまりうまくない聖獣使いもいる。そういうやつと出くわしたりしたら、身の危険、最悪の場合命にかかわる危険もある。』


……え、普通に行きたくなくなったんだけど。


でももう行くって言っちゃったしな…。


もう後には引けないか。


私は隣の部屋へ向かった。


たった一人の兄が着ていた、服を掘り返すために。


『できたか。』


「とりあえず…。」


ズボンもパーカーも、私の本来のサイズより2サイズ以上大きい。


そしてキリのアドバイスで首元には喉仏を隠すためにネックウォーマーを巻いた。


『ひとまず、こいつは僕が預かろう。』


「げっ」


そういうなり、キリは口をあーんと開け、私の用意した荷物をリュックごと飲み込んだ。


『必要な時は言え。僕が出してやる。』


「それ、絶対衛生面上よくないとおもう。」


『心配するな。唾とかはつかないし、ロッカーだと思えばいい。』


それでも汚い。


という一言は何とか飲み込んだ。


『忘れ物はないな。家族や友人との別れもいいな?』


「……この時間に戻ってこられるんでしょ?必要ないよ

。」


『そうか。なら早速行くぞ。』


「……」


私は先程と同様に、キリを抱えた。


『よし、それでは出発だ。』


だんだんあたりが明るくなり、私は目を閉じる。


『ああ。そういえば最後にもう一つ言い忘れた。向こうに行ったらどこに落ちるかわからんから覚悟しておけ。』


おいおい、なぜそれを早く言わなかった!


私は必死にキリにしがみつきながら体をこわばらせた。


場所を移動するだけではなく、次元を超えるからだろうか?


移動時間は先程までより幾分か長く感じた。


やがて、下方の景色が変わってくるのがわかった。




そして間もなく、私はそちらに引き込まれた。



※今更ながらこの物語の主人公を簡単にご説明します。


主人公 

エリカ(13歳)制服を着ていたので、中学生です。部活は剣道部。優しく、まじめな性格。彼氏はいません。



初めまして。Eriyaです。ついに始まった主人公エリカの異世界物語(o^―^o)ニコ。このお話はラブストーリーも含まれるいわゆる逆ハーレム作品です(*´Д`)////。この後の話では主人公以外に5人の男性主要キャラが出てきます。4人の聖獣使いと聖獣使いをサポートする研究者1人と主人公で物語が進みます。ちなみに年齢層は11歳~13歳と幼い設定ですが異世界なので、10歳から聖獣使いにはなれる設定です。ポ〇モンのような世界だとおもってください。


さて、麒麟という聖獣を助けたことで願いをかなえてくれるという条件で異世界に飛ばされた主人公。これから会う聖獣使いはどんな人との出会いがあるのか。わくわくドキドキの冒険異世界物語ゆっくりと読んでいただけたら幸いです。

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