第3話



 そうして、人と関わるのを避けていたある日のこと。その日の朝のホームルームは、いつもと少しだけ違った。



「他県から転校してきました。星谷ほしやはやてです。これからよろしくお願いします」



 そう言って、教卓の前に立って軽く頭を下げた少年ーはやての髪の毛は、混じりっけない銀髪だった。ストレートのその髪は、さらりと流れて太陽の光を反射する。



(綺麗……)



 ただ純粋に、そう思った。顔を上げた颯は、切れ長の瞳で教室内を見渡す。その最中、バチっと、目が合った。



「……っ!」



 黒目のはずなのに、不思議と彼の瞳は澄んだ青のように見えてしまった。まるで、私の奥深く、全てを見定めようとしているように。たった数秒のことなのに、何故か長く思えて、気まずさと恐怖から慌てて目を逸らした。



(少しだけ、怖いかも……)



 けれども、あまりにも珍しい銀髪の少年に、クラスメートは言うまでもなく興味を惹かれていた。ホームルームが終わって颯が席に着いた瞬間、彼はあっという間にクラスメートに囲まれる。



「星谷くんってどこから来たの?」


「てか、お前その髪どうしたんだよ!?染めてんのか?」


「でも綺麗だよねー」



 クラスメートは彼の髪色に興味津々だった。それも、良い意味で。私への対応は素っ気ないくせに、颯にはこんなにも嬉々として声をかける彼らに、私は少しだけ、苛立ちを感じた。転校生だから、というのもあるだろうけど。



 次から次へと飛んでくる質問に、しかし颯は無表情で淡々と返していく。



「どうしてこの学校うちに来たの?」



「家から近いから」



「前の学校ってどんなところ」



「別に普通。ここより少し田舎」



 特に、髪の毛への質問が来ると、より一層颯の態度は冷たかった。



「ねぇ、髪の毛綺麗だよね?染めてる」



「まぁ」



「お前、目立ちすぎだろ。怒られるぞー」



「そっか」



「……」



 大勢に囲まれるのが苦手なのだろうか。殆ど表情を変えない颯から、クラスメートのみんなは次第に離れて行った。



「なんか、ちょっとこわいね」



「それな。やっぱ見た目もあんなんだから中身もなってないんじゃない?」



「髪染めてるとかイキッてるわ。俺、無理かも」



 そんな陰口が、あちこちから聞こえてくる。時間にして僅か数分で、颯はみんなの興味の的からあっさり外れた。さっきまで彼を囲んでいたのが嘘のようだ。



(……もったいない)



 

 少しだけ顔を右に向け、颯の様子を眺める。ほぼ表情の変わらない彼は、ただスマホをいじっていた。まるで、他人となんて関わりたくないと言わんばかりの態度だった。



 折角、クラスメートに声を掛けてもらっていたのに。折角、みんなの好奇心をくすぐっていたのに。彼は自ら、クラスに溶け込む機会を葬った。

 


(本当に勿体無いな……)



 ふっと、私は窓の外へ視線を移す。そんなことを思ってしまうのは、颯に羨ましさを抱いてしまったからだろう。多分。



 嫉妬心のせいか、呆れのせいか、私は颯の方を見る気にはならなかった。故に、気づかなかった。ついさっきまで顔をむいていた方向から、視線が刺さっていることに。



    

            




 

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