第1話
私の外見は、少しだけ一般の日本人と違うらしい。髪がチョコレートのような茶髪なのだ。けれど、幼い頃から両親は私の髪色をとても褒めてくれた。
『
『きっと紗夜は特別なんだよ』
お母さんは私の茶髪を丁寧に梳かし、お父さんは頭を優しく撫でる。2人から注がれる愛情に、私は嬉しくて微笑んだ。
私の髪は素敵なんだって。私の神は特別なんだって。その言葉が、とても誇らしかった。
けれど、いつもみんなが私の髪を褒めてくれるわけではないと、成長して行くにつれて知ってしまった。
*
それは、いつもより少し早い登校時間だった。まだまばらにしか生徒が登校してきていない中、私はただ単に校舎に向かって歩いている最中、
「おい、そこのお前!髪染めてるだろ!」
そんな声が飛んできて、慌てて振り返る。ズカズカとあからさまな怒りを露わにしている生徒指導の
(またか……)
河内は私の目の前に来るなり、じっと頭髪を見つめた。そして数秒後、奴は私を指さして怒鳴りつける。
「やっぱり染めてるな!校則違反だぞ!」
「これ、地毛ですけど?」
こういう状況に陥った時の決まり文句を口にする。
(なんて言っても、きっと意味はなさないんだろうけど)
「地毛ぇー?」
河内は訝しげに私の髪の毛をじろじろと見つめた。そして、案の定、言葉だけでは信じてくれなかった。
「本当か、それは。証明できるものは!?」
「ありますよ」
スクールバッグに手を突っ込み、取り出しやすい場所にあったファイルの中から一枚の紙を見せつける。
「地毛証明書です。これでいいですか?」
河内はその地毛証明書を疑い深く見つめ、その後ポケットから手帳のようなものを取り出す。
「お前、名前は?」
「2年の山本紗夜です」
堂々と名前を告げると、河内は「山本」を呟きながら手帳をめくった。そして、あるページで手を止め、それから「よし」と言う。
「どうやら事実らしいな。もう行っていい」
「はぁ。そりゃどうも」
許可を得た私は重い足取りで河内の横を通り過ぎた。奴はもう私を見ない。校則違反で無ければそれ以上は追求されないだけマシだと思う。
(それにしても、これで5回目だよ)
このやりとりは、何も初めてではない。やはり私の髪色は目立ちやすいらしく、河内が門の前に立っている日はほぼ必ずと言っていいほどあんな風に呼び止められるのだ。そろそろ名前と顔を覚えてもいい時期だとは思うのだが、生徒が多いので仕方ないのかもしれない。
教室に着いた私は、ぐったりと自分の席に体を預ける。こんなことができるのも、まだ人が来ていない朝だけだ。
「はぁ。疲れた……」
机に突っ伏した視界に、自分の髪の毛が覆い被さる。明るい茶色。光に当たれば黄金色に見えなくもないそれは、正真正銘、私の髪の毛だ。それも、生まれた時からの。
けれど、一般人離れしたこの茶髪のせいで、私はしばしばめんどくさいことに巻き込まれる。
「ただ、他の人より明るいだけなのにな……」
ほんの少し、違うだけ。それなのに、周囲の人間は非難、あるいは嘲笑の目で私を見てくる。時には先生さえも、私の存在が迷惑だと言わんばかりの対応を取る。毎日のように、世の中は理不尽だ、と毛先を弄びながら思うのだ。
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