異次元交換殺人

森本 晃次

第1話 自粛パトロール

この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。今回もかなり湾曲した発想があるかも知れませんので、よろしくです。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。呼称等は、敢えて昔の呼び方にしているので、それもご了承ください。(看護婦、婦警等)当時の世相や作者の憤りをあからさまに書いていますが、共感してもらえることだと思い、敢えて書きました。ちなみに世界情勢は、令和5年10月時点のものです。とにかく、このお話は、すべてがフィクションです。疑わしいことも含んでいますが、それをウソか本当かというのを考えるのは、読者の自由となります。


 今年になってから、街の様子が落ち着いてきたように見えたのは、今から思えば、

「大きな勘違い」

 であった。

「賑やかなことが好きな人」

 であったり、

「人込みが嫌いだ」

 という人は別だが、ここ数年、

「世界的なパンデミック」

 なるもののせい、というか、そのおかげで、街は、実に静かだった。

 特に、最初に政府が、

「水際対策を失敗した」

 ということも原因であるが、外国から入ってきたウイルスが蔓延してしまったことで、慌てた政府が、

「緊急事態宣言」

 というものを発令した。

 諸外国のような、

「ロックダウン」

 であったり、

「大日本帝国時代に存在した戒厳令」

 と呼ばれるものほどひどくはなかった。

 というのは、日本には、

「日本国憲法:

 というものがあり、

「基本的人権の尊重」

「平和主義」

 ということで、

「自由を縛ることはできない」

 ということ、そして、平和憲法ということで、

「有事というものは存在しない」

 ということで、政府は、

「戒厳令」

 のようなものを発令し、国民を罰則で縛ることはできなかったのだ。

 それによって、日本は、国民に対しては、要請という形でしか、何もできない、それこそ、中途半端ともいえる、

「緊急事態宣言」

 しか発令できなかったのだ。

 それでも、さすがに、身近には死んだ人がいなくとも、俳優などの、

「国民的スターが亡くなった」

 などという報道を聞けば、さすがに怖くなるというものである。

 今までに、いろいろな天災としての被害は、特に、

「地震国」

 と言われる日本は、かつては、悲惨なこともあった。

 台風などもたくさんくるということもあり、天災は多かったが、今回のような、

「伝染病」

 というものは、今の時代では、あまりなかった。

 実際にひどかったということであれば、

「江戸時代から、何度か続いていた」

 といわれる、

「コレラ、チフス」

 などがまず考えられる。

 こちらは、鎖国というものをしていても、長崎で貿易をやっているのだから、そこから蔓延してしまえば、同じことであったといえる。

 さらには、今から100年くらい前であろうか、今度は、

「スペイン風邪」

 というものも流行った。

 それまでは、

「結核が不治の病」

 などと言われていたが、その後の医学の進歩によって、

「ストレプトマイシンなどのような特効薬」

 が発明され、そのおかげで、結核は今では、

「手術なしでも治る」

 と言われるような病気になってきたのだった。

 ただ、これはあくまでも、

「日本における」

 という意味であり、今までに、他の国で、特に欧米などで、猛威を振るった、

「サーズ」

「マーズ」

 などといわれる、某国発症のウイルスが蔓延していたが、なぜか、日本では、そこまで流行はしなかった。

 そういう意味で、今回の流行は、今までの、

「蚊帳の外」

 ということで、まるで、

「対岸の火事」

 というようなこともなくなったので、

「これは、日本でも危ないぞ」

 といっていると、さっそく患者が出てから、慌て始めたということであった。

 免疫もなければ、ワクチンもない。

 しかも、

「マスクが、全国的に不足がひどく、どこの薬局に行っても手に入らないどころか、病院にもない」

 という悲惨な状態であった。

 そんな時代になると、街は、ほぼほぼ、ゴーストタウン。

 元々、社会的には、

「事務所出勤を控えて、個人で行動できるように」

 というような発想がある大会社も結構あった。

「3年後には、営業所を2割カット」

 というところもあり、いわゆる、

「リモートワーク」

 を目指している会社もあったのだ。

 考えてみれば、

「緊急事態宣言」

 というものが発令され、

「人流を、3割くらいにする」

 などといっていたのは、このリモートワークを見越してということであったのだろう。何といっても、

「学校は、小学校と中学校は、基本的に休校にする」

 と、政府がいきなり決めたくらいだった。

 というか、これは、ソーリが勝手に、側近に相談もせずに、勝手に決めたということで、かなり、批判もあった、

「子供が学校に行っている間に、親は、仕事に出る」

 というのが当たり前だったのに、それができなかったからだ。

 先に、

「学校休校」

 ということになったので、主婦の人は、

「預ける人がいないから、働きに出られない」

 というと、会社から、皮肉を言われたりして、しかも、その間、

「収入がないわけだから、生活という意味でも、どうしようもなかった」

 といっても過言ではないだろう。

 そんな状態で、学校が休校になったということで、果たして、

「伝染病がなくなったのだろうか?」

 ということであるが、そもそもの順番が間違っているわけで、何が悪いといって、

「そこまで来ているのに、入国制限を一切やっていない」

 ということであり、

 まるで、

「ザルで水をすくっているようなものだ」

 といえるのではないだろうか?

 しかも、これは後から分かったことだが、

「若い人ほど、感染しない」

 と言われているではないか。まずは、子供というよりも、

「病気弱者」

 である、

「高齢者」

 と、

「基礎疾患のある人」

 という人に対して、どうするか?

 ということが問題である。

 マスク不足もそうであるし、人流を抑えるには、基本的にはサラリーマンしかないのだ。リモートワークを促進し、実際に、

「あの政府がやることにしては、なぜかスムーズにいった」

 というリモートワークは、パンデミック前から、

「いろいろな会社で、考えてはいた」

 ということである。

 何といっても、リモートワークの目的は、

「事務所への経費節減」

 ということで、

「どんどん事務所を廃止していこう」

 という発想からきているのだった。

 その殺人があったのは、2年前のことだった。その殺人は、ちょうど、何度目かの、

「緊急事態宣言中」

 に起こったことであり、それも、

「閉店している飲食店の店内」

 でのことであった。

 最初の時は、ほとんどの雑居ビルのスナックなどで、普通に閉店して、数日に一度くらい。店長が、店の空気を入れ替えたりする程度で、ほとんど店にいないということが多かったのだ。

 しかし、そんな状態で、最初は、まだよかったのかも知れない。

 もちろん、

「今後どうなるか分からない」

 ということで、経営者は不安であり、従業員も、

「いつ首になるか?」

 ということで、皆がそれぞれの立場で内心、ドキドキしていたに違いない。

 それを考えると、次第に、収支計算をしていると、いたたまれなくなってくる店長も多かったことだろう。

 最初の頃は、まったく店を開けないというような状態だった。

 だが、一か月ちょっともすれば、感染者の数も減ってきて、政府が、

「宣言の解除をいつするか?」

 というのを言い出した頃であった。

 その頃から、

「空き巣」

 というのが流行り出したのだった。

 これは、

「留守宅の個人の家に押し入る」

 というわけではなく、

「緊急事態宣言発令」

 によって、店の閉店を余儀なくされているところに、

「空き巣が入る」

 ということであった。

 緊急事態宣言というと、

「店に、在庫が残っていて、一部の売上金も残しているところもあったかも知れない」

 というところもあるだろう。

 金庫くらいは、家に持って帰れるだろうが、酒やつまみなどのものは、持って帰るわけにもいかない、そこを空き巣に入るという人も多かっただろう。

 ただ、そういう飲食店関係の雑居ビルに、皆、防犯カメラが設置してあるとは限らないだろう。

 それを思うと、残っている在庫を、盗みにくる輩もいることだろう。

「ただ、それを売るところがあるか?」

 ということなのだろうが、本当に空き巣が流行っているということなので、それだけ、空き巣の数も多く、思ったよりも、セキュリティがいい加減なのかも知れない。

 それ以上に問題なのは、

「この時代において、マスクに帽子などと言った。普通なら、一発、警官から職質を受ける」

 というのが当たり前なんだろうが、実際に、怪しまれることもなく、ビルに忍び込めるというのは、時代としては、

「泥棒に有利な時代になってきた」

 といってもいいのかも知れない。

 そんな犯人は、

「もし、防犯カメラに写っていたとしても、皆がマスクを着けている姿を見るのに慣れていて、マスクを外した顔を、想像できるわけもない」

 ということになるだろう、

 それを思うと、

「今度の、空き巣事件が、しかも、複数で一気に起こってしまうと、警察では、まったく手に負えない」

 ということになるのではないだろうか?

 だから、

「空き巣というものに備えて、警察もあてにならないようなので、自分たちだけで、独自の警察組織を作りあげよう」

 というところも、増えてきたようだった。

 それが、結局、

「国は何もしてくれないから、自分たちの身は自分たちで守る」

 ということになってしまうのだ。

 店の開店ができない状態で、そもそも、仕入れておいた商品もダメにしてしまう。さらには、仕入先への仕入金額を払わないといけない。

 さらに、従業員の給料や、回転資金など、収入がないのに、出費ばかりがある、

 忘れてはいけないのが、

「家賃」

 の問題である、

 そのうちに、

「国が、補助金を出す」

 ということになったのだが、そのための条件であったり、手続きが厄介だったりする。

 ちなみに、補助金が出るのは、

「飲食店だけ」

 ということで、仕入先などの費用は、まったく関係がない。

 もっといえば、それ以外の無数にある業界、そして店舗、

「一つに払えば、こっちにも」

 ということで、大変なことになっていた。

 しかも、国が出すといった保証金も、

「半年経ってもまだ支給されない」

 ということで、中には、

「補助金をもらう前に、やりくりができずに、店を畳むしかない」

 という人もたくさんいた。

 まるで、医療崩壊を起こして、

「救急車は来たが、受け入れ病院がなくて、救急車の中で、死んでしまう」

 などということが、その後に起こるのだが、考えてみれば、

「じゃあ、なんで、あんな宣言を出したんだ」

 と言いたくもなるだろう。

「後だしじゃんけん」

 になってしまうが、まさにその通りで、結局は、やったとしても、一時期は患者も減るが、そのうち、ウイルスなのだから、変異を繰り返して、

「また、波が起こる」

 ということになる。

「ここ数年間で、波が、そろそろ10に近いというではないか」

 という状態になり、やることなすことがすべて、

「後手後手」

 である。

「未知のウイルスなのだから、政府が後手にまわるのも仕方がないんじゃないか?」

 という人もいるが、

「それなら、少しくらいの手落ちは仕方がない」

 という程度であろう。

 しかし、今回の政府は、

「まったくすべてが後手で、少しだけでも、いい政策があっただろうか?」

 と考えるが、実際に、

「一つでもあれば、ほめてやるわ」

 という人がいるくらいで、どんなに探しても、なかったといってもいいだろう。

 もし、一つくらいあったとしても、

「最初の水際対策の失敗が、すべてだった」

 といってもいいだろう。

 それが、今の政府であり、

「危機管理が、まったくできていない」

 ということの証明であろう。

 もっとも、野党もひどいもので、かつての大地震の時、何と、

「被災者の人たちと喧嘩する」

 という前代未聞のことをやらかしたではないか。

 しかも、それが

「時のソーリ」

 ということで、今までに、

「こいつが最悪」

 と言われたソーリはいたが、この時のこいつほどひどいやつはいなかったことだろう。

 もちろん、ひどいソーリはいた。

「都合が悪くなると、病院に逃げ込むソーリ」

 ちなみに。こいつは、2回やったが。

 そして、女性問題で辞任に追い込まれ、最短寿命だった内閣もあったが、政治家というだけではく、人間としてという意味での最悪は、どうみても、こいつだったに他ならないだろう。

 そんなことを考えていると、

「結局は、ド底辺での争いということで、誰が最悪なのか、分からなくなってきた」

 それを思うと、

「今の世の中、どうなっているんだ?」

 ということになり、

「ひょっとすると、今の時代に起こっていることは、かつての政治家の、すべての負の遺産ということではないだろうか?」

 ただ、突き詰めると、

「そんな政治家を選んだのは、国民だ」

 ということになる。

 何しろ、あの連中は、国民が選挙で選んだのだから、あいつらが何をしても、結局は、

「国民への巨大ブーメラン」

 ということになる。

 もっとも、それを差し引いたとすても、

「政治家の暴挙」

 であることに変わりはないのだが、国民をはじめとした、マスゴミの責任は、重大ということであろう。

 そんな時代をどうにかしないといけないということであるのだろうが、何かをしようとしても、その都度、悪いことが起こってしまって、どうしようもない。それが、自然災害であったり、今回の、

「世界的なパンデミック」

 であったりする。

 それでも、キチンと対応できる政府であればいいのだが、結局ここに戻ってくるわけで、後手後手にまわるという、

「危機管理能力が最低」

 という政府に何ができるというのか、結局、補助金というものを出したとしても、伝染病を抑えることもできなければ、経済を救うこともできない。

 そもそも、この補助金といっても、これは、国民の税金ではないか。

 考えてみれば、この国は、累積赤字が募っていて、

「返せる見込みがまったくない」

 という借金を背負った国ではないか。

 少々の経済政策で、どうにもなるものでもない。しかも、増税増税を繰り返し、

「増税するなら、社会福祉を充実させなければいけない」

 というはずで、それを公約にして、増税をしてきたくせに、老後の保障などまったくなく。しかも、

「老人は、働かなければ、死んでしまえ」

 とでも、いうような仕打ちに、よく国民は黙っているというものだ。

「若者の負担が増える」

 ということばかり、言われているが、若者は、老人たちを支えるために仕事をしたとして、

「じゃあ、彼らが老人になった時」

 というのは、さらに悲惨で、マジで、仕事をしないと生きていけないという時代が、すぐそこまで来ているのではないかと思えるのだ。

 そうなってしまうと、国民は、どうすることもできず、このまま、

「政府の迷走」

 に付き合わされるということであろう。

 何といっても、補助金などといって、政府が使うお金というのは、そのすべては、

「国民の血税である」

 ということを、忘れてはいけないであろう。

 そういう意味で、

「世界的なパンデミック」

 と言われたこの時代で、国民は、そんなことを忘れてしまうかのごとく、誰もかれもが、何をしていいのか、ずっと迷走していることであろう。

 今回の、

「空き巣問題」

 にしても、雇用側が、人件費の節減をしないと、どうしようもなくなったことで、

「社員の首切り」

 を行ったり、

 そんなことをするまでもなく、あっという間に、会社として成り立たなくなり、社員もろとも、破産ということになってしまったということもあるだろう。

 ただ、前者の方がましである。

 なぜなら、退職金が、まだ、まともにもらえたかも知れないからだ。

 しかし、後者のように、会社が潰れれば、そうもいかないだろう。どちらがいいのか難しいところが、会社によっては、ギリギリまで頑張って、どこかに吸収されるなどして、

「企業としては、生き残れる」

 というケースもあっただろう。

 ただ、それは、奇跡に近い稀なことであり、期待することは、絶対にしてはいけないことであった。

 とにかく、どういう理由であれ、首を切られた社員が、政府がもたもたしている間に膨れ上がってきた。

「明日の生活もままならない人が街にあふれる」

 などということは、最初から分かっていた。そして、それが現実になってくると、彼らは、

「生きていく」

 という目的のために、泥棒にいそしむということも、最初から考えられたことであった。

 同情はあるだろうが、だからといって、

「はい、そうですか」

 と受け入れることもできない。

 街にあふれるような彼らを、警察だけでは、どうすることもできない。

 今、警察もかなりの人員整理が、

「世界的なパンデミック」

 発生前から起こっていた。

 昔であれば、極端にいえば、

「コンビニの数くらいに、交番があった」

 といってもいいくらいに、一つの町内くらいにはあってしかるべきだったにも関わらず、今では、半径数キロ範囲を管轄するというような交番になってしまっていた。

 しかも、常駐しているのは、4、5人というところか? 交替制だと考えると、常時常駐しているのは、2,3人ということであろう。だから、

「街のパトロール」

 に出かけるとすると、交番の中はもぬけの殻になっていて、表の扉の所に、

「警ら中」

 などの札を掛けて、交番を留守にするというのは、日常茶飯事であろう。

 それを考えると、昔のように、

「交番の前に、お巡りさんが立っていて、庶民を見ている」

 というようなことはありえない。

 だから、テレビドラマなどであったような、

「田舎から出てきたおばあさんが、交番の巡査さんに、道を聞く」

 などというーシーンは、

「過去のこと」

 ということにしかならないのだった。

「世界的なパンデミック」

 の時代によく言われた言葉として、

「自粛」

 という言葉がどこからでも聞かれるようになっていた。

 それは、まるで、

「緊急事態宣言」

 というものに対しての、

「枕詞」

 といってもいいだろう。

「要請にこたえて、店を閉める」

 というのも、自粛であり、

「市民が、外出しない」

 というのも、そのことであり、彼らのような、

「自分たちのことは自分たちで守る」

 という

「自粛警備隊」

 というものが、血清されることになるのである。

 ちなみに、

「自粛警察」

 という言葉は、別に存在した。

 これは、実際に、警察に関係のあることでもなんでもなく。

「自粛期間中に、政府の要請に対していうことを聞かずに、営業を行っていたりするところを、きっと、自分たちが我慢しているのに、許せないという気持ちの表れからか、ルール違反の連中を、社会的に糾弾する」

 という連中のことをいうのであった。

 一見、正しいことをしているように見えるが、果たしてそうなのだろうか?

 そもそも、政府のやることなのだから、そこに正義などを求めるのが、おかしいというもので、そういう意味で、

「自粛警察というものには、賛否両論あった」

 といってもいいだろう。

 そんな自粛警備隊が、

「警察ではあてにならない」

 という空き巣問題に、自分たちが、決起して、

「警備隊」

 というものを組織して、結局は、

「自分たちの身は自分たちで守る」

 という体制を取るしかないということであった。

 そこで彼らは、自分たちで、まるで昔の

「隣組」

 というような組織を設け、警備にあたっていた。

「隣組」

 というと、昔の戦前戦中において、

「お互いに助け合う」

 という制度であったのだろうが、実際には、昔の隣組というのは、

「治安維持法」

 に対しての考え方として、

「国家の体制や、戦争継続というものに対して、反対分子がいないかどうか」

 ということを、見張る意味で設けられたということである。

 さすがに、今の時代にはそんなことはなく、しかも、これは、理由が、

「警察があてにならない」

 ということであるが、結果として、

「自分たちで動くしかない」

 ということになるのであり、それが、大切なこととして、どこの地域でも、空き巣に対しての体制として、

「自粛警備隊」

 というものが、独自に組織されていったのであろう。

 それを思うと、いくら自分たちを守るためとはいえ、

「どうして、一銭にもならないことをしなければいけないというのか?」

 という、まるで、

「この世の地獄」

 というものを感じさせるという精神状態ではなかっただろうか?

「皆同じなんだ」

 と思わなければ、どうすることもできない。

 それが、今の世の中ということで、

「今日も皆と一緒に警備隊」

 と、鼻歌を口ずさみながらでもないと、やっていられないと思っていることだろう。

 そんな中において、ある街の警備隊が、いつものように、

「空き巣は大丈夫か?」

 と見回っていると、一人の隊員が、

「ギャッ」

 と悲鳴を上げた。

 その様子は、

「本当はもっと大きな声が出てしかるべきなのだが、あまりの驚きと、この薄暗い中で、懐中電灯で照らしているという状態」

 ということで、ちょっとしたものでも、恐怖を感じるということになるのだろうと考えると、その悲鳴が、最終的に、声を飲み込むかのようになってしまったというのも、無理もないことであろう。

 その声に驚いて、あとの人たちがその場所までくると、今度は、やってきた人が、一瞬にして身体が固まってしまい、

「何が起こったんだ?」

 ということで、パニックになるべき事態であるはずなのに、結局、声も出せない状態になってしまい、しばし、その場は凍り付いてしまった。

 そもそも、誰もいないはずの場所だったので、凍り付いている状態に、

「自粛警備隊」

 というものが、

「生気を送った」

 といってもよかった。

 その警備隊が、今度は、一瞬にして、元に戻されたというその状態は、

「もう、どうしようもない」

 という、またしても、これまでに何度となく見せられた、

「この世の地獄」

 というものを思わせた。

「すでに慣れているはずなのに」

 と思うが、

「地獄というものは、何度見せられても、慣れるものではない」

 ということなのか、

「驚きも、結局、地獄の数と同じなんだ」

 ということになるのであった。

 今目の前に転がっているのは、うつ伏せに、一人の男が倒れていて。その背中には、光るものが突き刺さっていた。それがナイフであることは、一目瞭然で、倒れている男は、口を開けたまま、かすかに口から血が出ているのが感じられ、目は瞬きどころか、まったく閉じる気配は感じられない。

「これが、断末魔というものか?」

 ということで。皆、その場で固まったものだ。


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