関わったら終わりの人に関わってめちゃくちゃになりたい

ガラドンドン

第1話

たまたまだったんですよ。私がその人の事を知ったのは。

そう、もう今では全国民が知っている、百々丘トドオカさんの事です。

月が明るい夜の事でしたね。それはもう、おおきくて真ん丸なお月様の日でした。


その日はパワハラ上司に詰められたストレスから、随分飲んでしまっていまして。自然の法則に従ってラーメン屋に行ったんです。

入った事の無いラーメン屋でした。昔ながらの、って言うか。

化学調味料とか一切使って無さそうな、素朴な味が期待出来そうな外観のお店でしたね。

お酒でぐねったお腹と血管を整えてくれそうだなと期待して、引き戸を開けました。


「随分調子乗ってくれたのう。

どんな落とし前つけて欲しい?

いや、別に言わんでええわ。希望なんぞ通らへんからな」


「やめて下さいよ百々丘さん。

また行きつけの店が無くなるじゃないですか」


「それはおどれが、毎度のようにラーメン屋を待ち合わせに使とるからやろがい」


その会話は、店の敷居を跨いだ瞬間に聞こえてきました。明らかにカタギじゃない、野太く圧倒的な存在感を放つ声が。

人生において関わっちゃいけない、関わりたく無い界隈を嫌でも想起させました。


声だけで脚が竦んでしまいそうな私に、店内のその光景が飛び込んで来ました。

その余りにこの世ならざる光景に、私は逃げる事も、身じろぎも瞬きする事も出来なくなってしまいました。


全長約3メートル、体重1000kgはありそうな程の、浅黒い肌の男が。店主らしき人間の頭部を鷲掴んで宙に浮かべているんです。

文字通り宙でした。身体ごと持ち上げて。店主の足はプランプランと子どもみたいに揺れていました。

大人の男性の身体が、あんな風に持ち上がってる所を初めて見ましたよ。きっと、今後も見る事は無いんでしょうね。

持ち上げられた男は、声にならない声を挙げ続けています。


「うっさいのぉ。

さっきから意味分からん事ばっか抜かしおって。人の言葉ゆうの喋られへんのか」


ミシミシと言う音が。店主の頭と、巨漢の腕の筋肉が軋む音だとは最初気づきませんでした。

骨と筋肉って、あんな音がするんだなって。

店主の男の呻く声が大きくなっても、巨漢は気にも留めない様子で。

いえ、不愉快そうではありましたが。普通の人間にあるべき躊躇いとか、情けとか。そう言うものは一切ありはしない様でした。


巨漢を百々丘さんと呼んだ、白髮の男性は肩を竦めて。平常な様子で麺をまた啜り始めていました。


「あ~うっさ。

雑音にくれてやる耳あらへんねん。ほなな」


巨漢は、事も無げにアイアンクローのまま店主の頭を砕き潰しました。

そして無造作に、生ゴミを投げ捨てるように、店主の身体を放り投げました。

ブォン、と言う音と、私の喉からヒュ、と空気が漏れる音は同時でしたね。


その男にとっては本当に、そこら辺に投げ捨てるみたいなつもりだったんでしょう。

ですが、私の腰よりも太いんじゃないか。と言う腕から放たれた店主の身体は。

宙を勢いよく、高く高く舞って。


そのまま、ラーメン屋の天井をぶち抜いて行ってしまいました。


何処かの配線を諸共ぶち破ったのか、店内が暗くなりました。

流石にもしかしたら、老朽化とかで古くなっていたのかもしれません。

そうにしたって在り得ない光景の連続に。そして、尋常ならざるな威圧感と存在感、迸る生命力を放つその人に。

私はすっかり、魅入られてしまっていました。


「あ、やってもた。

まぁ……ええか」


「ちょっと、もうー」


ラーメンを啜る白髪の男が、パラパラと落ちる木片に文句を言いたげな声を上げましたが。

あ、と空いた穴を見上げました。


「今夜は月が綺麗ですねぇ。百々丘さん」


「はっ。

次はおどれを殺してやろか」


その巨漢。百々丘さんも、また。

そう言いながらも、自らが開けた穴、その先の光景を見上げました。


大きな穴を開けた天井から、月が顔を出していました。


丸く、大きな月が。

月光を浴びる、神々しさと禍々しさを感じる百々丘さんを照らして。吹き飛んだラーメン屋の屋根から見えていました。


それは本当に本当に、綺麗な月だったんです。


──


これが、私が百々丘さんの事を初めて知った時の事です。そこからどうやって家に帰ったかの記憶は朧げで。

あぁ勿論、その時は百々丘さんに私の事は認知なんてされていませんでした。

あの日は、興奮してやら恐いやらで。脚をガクつかせながら家に帰りましたから。


百々丘さんを知ってからの日々は、生活が全部一新されたかのような心地でしたよ。

正に人生観が一変する出会いでしたね。


不思議なんです。

あの時見た百々丘さんは、絶対に人生で関わっちゃいけない類の人でした。

一生を台無しにされる。それも無造作に。他愛無く。そうとしか思えない存在。怒鳴られたりしたら小水が絞り出される事でしょう。


実際、あの日直ぐの私は、興奮3割恐怖7割と言った所で。ガタガタ震える身体を抑えるのに必死でしたから。

それなのに、日に日に願望が強まって行くんです。


もっともっと、知りたいって。

あの人の、百々丘さんの事を。月下の姿が目に焼き付いて離れないままに。

恐怖に打ち鳴らされる私の心臓の鼓動が、あの存在に。百々丘さんによってもたらされていると言う事実に。

次第に、心地良さまで覚え始めて。


気づけば私の心はもう、鷲掴まれてしまっていました。


怖い、怖い、怖い。

怖いのに、知りたい。近づきたい。

この気持ちは、一種の防衛本能だったのかもしれませんね。


圧倒的な恐怖と力を前にして。その恐怖心に心が潰されてしまわないよう、別の感情に変換しようとするような。

まぁ、今では本当の所はなんだって良いんですけれど。


百々丘さんの事を知る為に、先ずはネットで百々丘さんの事を調べてみました。

幸い、百々丘さんは目立ちますから。百々丘さんの事を知っている。百々丘さんの事を見たと言う話は多かったです。X等では既に、熱心なファンも随分とついているようでした。

そのファンらしき人物の一人、『二兎にと』と言うアカウントでは、百々丘さんについての情報がまとめられていました。百々丘さんに興味のある人達からは、その情報量の多さから『先生』と呼ばれていたりもしたようです。


先生は特に熱心な、百々丘さんの追っかけの様な存在でして。追っかけを通り越して、ストーカーと呼ぶのが適切だったかもしれません。


先生は、何処から仕入れたのか分からない、百々丘さんの近況状況や、好み、最近食べたゲテモノ料理、読んでいた本なんて情報まで。

どうして知っているんだ?本当なのか?と疑うようなものも含めて発信をしていました。彼はそうしながら、百々丘さんの情報を積極的に拡散しようとしているようでした。

けれど不思議な話なのですが。唯一、百々丘さんを直接写した写真だけは。先生のアカウントからも、インターネットにも何処にも見当たらなかったんです。

けれど私は百々丘さんの姿を知っている。その事に、ちょっとした優越感を覚えたりなんかもしましたね。


私は先生に接触を試みました。彼が知っている百々丘さんの話について、直接聞いてみたかったのです。

怪しまれるかもと思ったのですが、意外とあっさりと、条件付きで先生は私に会う事を了承してくれました。


先生と私は、客の出入りの少ない居酒屋で待ち合わせました。

私より先に店についていたらしい先生は、席に座りながら私に手を挙げて挨拶をしました。


「どうもこんにちは。二兎です」


今日はありがとうございます、と私も返しました。

会ってみた先生は、普通の人。と言う風貌でした。尖りに尖った、アカウントの発信元の人物とは思い難いような。

先生は社交的な笑顔で私に着席を促したので、私も先生の正面に座り、取りあえず生ジョッキを二つ注文しました。

適当な世間話をしながら。ジョッキが来ると、先生と私は本題へと入りました。


「では、僕が知っている事をお話する前に。貴方が出会ったと言う百々丘さんについてお教えください。

百々丘さんは、どんな人でしたか?」


先生が、私が彼に会う為に提示した条件は。私が出会ったと言う百々丘さんについて教えて欲しいと言う事でした。

やや不思議な言い回しにも思えましたが、本当に私が百々丘さんに会った事があるのかを、探ろうとしているのかなと飲み込みました。


私は話しました。あの満月の日に出会った百々丘さんの事を。

その姿。口調。存在感。異様。圧倒的暴力性。恐怖。

何より、後から後から湧いてくる、百々丘さんへの興奮と尽きない興味を語る時。私の口は大変饒舌になっているようでした。


「成程、成程。

貴方が出会ったのは、身体の大きくて関西弁の百々丘さんと。

どうやら本当に出会ってしまっていたみたいですね。

羨ましい。僕もその場に居合わせたかった」


私の話を聞いている間に、先生も楽しくなって来たのか。お酒が進む手が早まっていたようです。


「貴重なお話ありがとうございます。

ではお礼に、僕が知っている百々丘さんについてお話しましょう」


そう前置きすると先生は、嘘か本当か分からない、虚実織り交ざっているかのような百々丘さんの話を沢山聞かせてくれました。


例えば、百々丘さんの正体は女子高生だ、とか。

握力が2.24tある。オ〇ホを一撃で破壊した。実は既婚者だ。人妻子持ちだ。大型タランチュラを食べたことがある。実は神様だ。Vチューバーだ。少年ジャ◯プは後ろから読む。狐耳巫女だ。陰陽師だ。ヤクザの組長だ。妖怪だ。ロボットだ。お姉さんだ。


酔いが回り過ぎてしまっているんだろうな、と思いました。

事実、その男の目は潤んで、夢見心地の最中にいるような熱っぽさがありましたから。

幾ら何でも荒唐無稽過ぎますし、実は~の中でそもそも矛盾していますし。

何より私は見ていますからね。この目で、百々丘さんの本当の姿を。


私は、こんなものか。とちょっとした落胆の気持ちを覚えながらも。百々丘さんについて語る、熱の籠った先生の目から注意を逸らす事が出来ませんでした。

ボルテージの上って行く先生の話は段々と、自分は百々丘さんの事をこんなに思っている、自分は彼が嫌がっている姿が見たい。キショがられたい、等と。先生自身と百々丘さんの事についてになって行きました。


「僕はね。あの人に殺されたいんですよ。殺意を向けられて。嫌悪で見られて。規格外なあの人に、僕だけを見つめて殺しに来て欲しい。


勿論、僕だけを見つめる百々丘さんなんて解釈違いなんですけど。

百々丘さんはね。ちょっとした気紛れで人を殺すし、そこに大きな感情なんて持ってちゃいけないんです。

あの人に想って貰えるような対等な生物なんて、この世にいない筈なんですから。


だからこそ。

どんな生き物でも無造作に殺せるあの人に、唯一の殺意を向けられるって言う解釈違いの中で悶え苦しんでいる時の僕を、殺して欲しいんです。ふふ。


けれど一度殺されちゃったら、もう楽しめなくなっちゃうでしょう?

だから今は、こうやって百々丘さんに嫌がらせをするだけで我慢してるんです」


喜々として語る先生の目は、最早狂気に染まっているように見えました。

狂人が、狂気の中の幸福に溺れているようでした。


それなのに。私は何故か、百々丘さんの事を幸せそうに語るその瞳を見て。

自分の心が、灼熱に燃え滾るような気持ちになっている事に気が付きました。

羨ましい、と思っていたんです。百々丘さんを思う気持ちに。それ程までに百々丘さんを思って、壊れる事が出来ていると言う事に。


先生は、話を聞く私を見て。何かを思い出したかの様に、持参していた鞄を漁り始めました。


「そうだ。勿論貴方も証拠が欲しいですよね。

僕が本当に、本物の百々丘さんの事を知っていて、情報を持っているのか。先程お話したのは、数ある百々丘さんの一側面についてでしかありませんから。

え〜っと、何処だったかな。あ、あったあった」


先生は、1枚の写真を取り出して私へと差し出しました。


「貴方が見たと言う百々丘さんは、この様な方じゃなかったですか?貴重なものなので丁重に。

あぁ、入手方法は企業秘密で。他言も無用です」


その写真に写っているのは、間違いなくあの日見た百々丘さんでした。インターネットの何処を探しても見つからなかった、私の知っている百々丘さんの姿でした。

何者をも映さないような漆黒の巨眼。生命力が溢れた肌。暴威そのものとも言える肥大した筋肉。


先生は狂人でしたが。百々丘さんの事を知っている、本物の狂人でした。


「もしも百々丘さんに会ってみたくなったら、僕に聞いてください。

知っている限りでお教えするので」


先生は、ふふ。と笑って。私にそう言ってくれました。

今ならその笑顔の意味が分かります。彼は、私を使って百々丘さんにまた嫌がらせをしようとしていたんでしょうね。


先生と出会った後の私は、それまで以上に百々丘さんにのめり込んでいました。

先生の熱に当てられてしまった事も関係しているかもしれません。


先生が発信する情報から、百々丘さんが読んでいたらしい本を読んでみたり。ゲテモノ食いに挑戦してみたり。ジャ◯プも後ろから読む習慣付けをしました。

オ◯ホの一撃破壊は出来ませんでしたね。不甲斐なかったです。


W-Rabbitってアカウントから、百々丘さんの陰毛入りだと言うお守りを買ったりもしましたね。

あ、このお守りです。勿論肌身離さずつけてますよ。百々丘さんを常に感じられるように。


親からは心配の連絡が来たりもしましたが、事情等は話しませんでした。

私のせいで、両親まで百々丘さんに人生をめちゃくちゃにされるのは。流石に忍びなかったですから。もう勝手に知っちゃって、勝手に壊れちゃってるかもしれませんけれど。


どんどんどんどん。私は、自分が壊れていっている事に気づいていました。

でももう止められませんでした。だって、百々丘さんを知って壊れて行く事が、嬉しくて気持ち良くって。たまらなくなっていたんです。

まだまだ足りませんでした。まだまだ、自分は百々丘さんに壊して貰える余地があるって。


もっともっと。破滅的で不可逆的な破壊を、百々丘さんから受けたい、って。

いつか聞いた先生の、「殺されちゃったらもう楽しめない」と言う言葉が脳裏に蘇りました。

けれども。完全に壊されてしまう快感は。きっと、この先一生分の楽しみにも勝るって。

先生ですら、結局は一度も体験できていない悦楽を味わいたいって。

その欲望を、我慢できなくなったんです。


だから。


──


「だからそれが、私が貴方の命を狙った理由です。百々丘さん」


「いやいや分からへんわ。

全然理由になっとらへんやろ」


あの日と同じような、月夜の晩に。

真ん丸と欠けの無い月と、百々丘さんに見降ろされながら私は語り終えました。

私の手には、元々護身用のつもりで用意したナイフが、根本からぐにゃりと折れ曲がって握られています。


自分の中の衝動を抑えられなくなった私は、先生に尋ねたのでした。

百々丘さんが、一人になる瞬間は無いかと。先生からの返答は早かったです。ふふ、と、先生の笑い声が聞こえた気がしました。


私は直ぐに準備をして。この廃ビルに来ました。

情報通りに百々丘さんを見つけた時の、私の胸の高鳴りようはとんでもなかったですよ。

あの日あの姿の百々丘さん。見間違える訳も無くて。

近づいちゃいけないのに、近づきたくなる心の。訳の分からなさとその気持ちよさったら。


けれども。走り寄り、興奮した私が身体に突き立てた筈のナイフは、百々丘さんの肌に傷つける事もありませんでしたね。


「自分、心底きっしょく悪いのぉ。

ほんまやったら殺す価値も無いわ」


百々丘さんは呆れた様子でため息を吐きました。

価値も無い。そう言いながらも伸びて来た重厚な手は、私の頭蓋をミシミシと鳴らしてくれています。


「あっ、が、あぁ!

あっははっ、あはぁ!ごろじっ、


ごろじでっ、くだざい!あぁはぁ!」


私の口からは、いつか聞いたのと同じ様な悲鳴が上がっていました。

きっとあの店主も、そしてこれまでに処された者達も。私と同じだったのでしょう。

痛みと、そして歓喜による末期の喜声。


百々丘さんの手でもうすぐ。今、今、今、私の頭蓋と命はめちゃくちゃにされる。して貰える。

脳髄を締め付けられる痛みは悦びになって、今際の際の私を震えさせています。


私に悦びを与える手の、隙間から見えた百々丘さんの表情。

哺乳綱食肉目を思わせる、巨大な黒目は、私を見てるのに私を映す事も無く。

嫌悪感に溢れた、処では無い。関心すら持ちたく無い様な目でした。

 

そんな程度の存在である私をも処して下さる、百々丘さんの剛腕の逞しさ。神々しさ。

それは最早、神様からの慈悲のようでさえあって。


「あ"っ」


最期に私の喉から、断末魔の変わりに空気が漏れて。

私の頭蓋が割れ、脳が弾け飛んだ音と共に。

私は、百々丘さんにめちゃくちゃにして貰えたのでした。


──


「きっっしょ……。

これで何人目やほんまに。いい加減しつこいわ」


百々丘は呆れた声を出して、今しがた潰した頭蓋骨の破片を、脳漿事振り払った。


最近、奇妙な事が起きている。見るからにカタギの人間達が、自分を付け狙い、あまつさえ命を狙って来るからだ。


命を狙われるだけなら日常と大差は無いが、その顔ぶれが妙だ。

ボンボンの息子。ラーメン屋の店主。ニートから寺の住職、果ては只の通行人まで。様々なステータスの人間達が次々と。


理由は分からない。返り討ちにした人間と穏やかにお話をしても、凡そ意味不明な事ばかり。

共通しているのは、全員熱病にでも侵されているかのような、熱を持った瞳をしている事だけだ。


この死体の自分語りも、態々時間を使って最後まで聞いたが同じだった。

結局、先生と言う変態ストーカーがいる事と。きしょくわるぅ。と言う事しか分からなかった。


本来なら殺す事すら億劫だったが。その眼をした者達には、厄介な共通点があった。


増えるのだ。まるで感染病かのように。百々丘の姿を直接見て。また、武勇伝が語られる度に。

百々丘の事が知られて行く度に。同じ様な、火照った瞳へと変わって行くらしいようだった。


この珍事を解決するには、その眼をした者達を一人残らず消し去って行くしかないのかもしれない。


だから。

せやから、一人ずつ。しっかりと。

踏み均すように、余す者無く。


「丁寧に地獄見せたるわ。

おう、出て来ぃ。雁首揃えてゾロゾロと。

なんやねんお前らほんまに」


百々丘は舌打ちをして、暗闇の方へ目を向ける。

声を合図に。月明りの届いていなかった闇から、一人、また一人と。人間達が現れる。


その手には各々に、斧、日本刀、拳銃、包丁、シャベル、コンクリート、花瓶、等と。それぞれ人の命を屠る為の獲物が握られていて。

そしてまた一様に。先程の男や、これまでの者達と同じ。熱っぽい瞳を百々丘へと向けていた。


「何がしたいねん自分ら。ワイはなんもしとらへんのに、勝手にイカレまくりよって。

さっきの奴と言い、なんか妙ちくりんなビョーキでも流行っとるんか」


──百々丘には。自分の尋常ならざる存在感こそが、いっそ熱烈な恋にも似た感情を拡散してしまっているのだと言う事が理解出来ない──


百々丘に狂った者。執着する者。

いわば、トドラーとでも呼ぶべきかもしれない人間達は。


「「僕達」」


「「私達」」


「「「「百々丘さんに、めちゃくちゃにされたいんです!」」」」


皆一斉にこう叫びながら。百々丘へと、思い思いの凶器と狂気を振りかざして殺到する。


百々丘はしゃらくさい、と吐き捨てて。

人の人生を、容易く終わらせる事が出来る腕を振るう。


丸くて大きい、綺麗な月夜の晩に。

歓喜の声と、命がめちゃくちゃになる音が響いていった。

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