桜隠しに君想う

色葉みと

桜月に君と逢う

 僕は学校に行ってない。小学4年生の頃から中学1年生の今までずっと。

 校則も制服もあの空気感も、学校の全部が苦手だ。


 母さんたちは行かなくても良いって言ってくれるけど、本当は行かないといけないと思う。そうしないと責められてしまうから。


 平日昼間に外へ出たら不思議なものを見る目で見られる。名前も知らないような人に「学校は? 行ってないの?」って言われる。時々やってくる先生に学校に来るように勧められる。


 外は怖い。人は怖い。学校は怖い。

 だから僕に関わらないでよ。






「——ねぇ冬真とうま、セキセイインコって知ってる?」




 2階にある僕の部屋の前まで来て、母さんは言った。

 セキセイインコってあの黄色と黄緑色の喋る鳥のことだよね?




「……知ってる」


「そっか、それは話が早い。実はね、……この度桜井さくらい家に仲間が増えました!」




 うちに仲間が増えた……? もしかしてセキセイインコが来たの? いや、さすがの母さんでも突然そんなことをする訳は——。




「青と白の羽が綺麗なセキセイインコちゃんだよ」




 ——あった。

 っていうか、セキセイインコって黄色と黄緑色だけじゃないんだ。どんな感じなんだろう。




「ということで、ここで冬真にお願いがあります」


「……何?」


「そのインコちゃんに名前をつけてくれない?」


「どうして僕が……。母さんたちがつければいいのに」


「そうできれば良かったんだけどね。私と父さんが考えた名前はどうにもお気に召さないようで……」




 お気に召さないって、そんなに意思疎通できるものなんだ。

 ……どんな名前をつけようとしたのかが気になる。多分聞かなくても話してくるだろうけど。




「いやー、『あいちゃん』も『しろちゃん』も気に入らないって言われちゃってね。なので冬真、頼んだ……!」




 そう言って母さんは1階のリビングへ戻って行った。


 頼んだって言われても、僕はどうすればいいんだ? とりあえずそのインコを見てから、だよね?


 そっと部屋から出て、リビングへと向かう。そこには、見慣れぬ鳥籠と小さな生き物がいた。

 白い頭に藍色のほっぺ、お腹の上半分が空色、下半分が白の小さなインコ。




「ユキちゃん……」




 ふと口から出たのはそんな名前。真っ白なお腹が雪のようだからという簡単な理由だが、不思議としっくりきた。


 インコは僕を見てきょとんとしている。




「……ユキちゃん?」




 もう一度名前を呟いてみると、ユキちゃんは嬉しそうに鳴いた。

 そして興味津々な様子で柵越しに近づいてくる。そっと藍色のほっぺたに手を近づけてみると、何を言うでもなく触らせてくれた。


『よろしくね、とうま』


 何も語らないし、表情も分からないけどそう言っている気がした。




「とと冬真!? インコちゃんに触らせてもらえたの!?」


「え? うん、普通に。あと、『インコちゃん』じゃなくて『ユキちゃん』ね」


「ユキちゃん……、いい名前ね。もう桜も咲いてる頃けど」


「それでもいいの。ユキちゃんはユキちゃん。ね、ユキちゃん?」




 僕がそう言うと、ユキちゃんは返事をするように鳴く。

 ユキちゃんとは良い友達になれそうだと思った。

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