AnyStory.

NiceWell

第1話「作家の秘訣」

広大な未来を前に

道を見失う事がある

私は作家という道を選び

書く中で書けない事柄に至った

それは心身の欠陥であり

また私自身の限界でもあった

それを超えるべく今再び、白紙へと向かう。


「おはよう」

「おはようございます先生」

「締め切りはいつだったか」

「安心して下さい、仕事は断ったので」

「な、なんてことを、」

「そう、訝しい顔をしないで下さい先生」

「しかし、生きるために働かねば」

「先生はこんを詰めつすぎです」

「しかしな、白瀬、私には背負うべき責任があるはずだ」

「そうやって、体調を省いて考えるのはおやめください」

「いや、私は決して、酷使している訳では」

「いいえ、ご飯も食べずに、もう三日ですよ」

「そうだったか、心配させた」

「少し、気分転換しませんか?」

「そんな、お金もないのに何ができるっていうんだ」

「散歩をしましょう」

「散歩だと?私は外には出んぞ」

「やはり、まだ治っていませんか」

「ああ、人の目は怖いんだ」

「いいですか、先生。人は、いつか死ぬんです」

「なんだ、突飛な」

「まぁ聴いて下さい」

「あ、ぁぁ。」

「人は死ぬからこそ、生きる時間を放ってはいけないのです」

「決して、私は命を軽んじている訳ではない」

「しかし先生、あなたは目先の恐怖に囚われ、可能性まで失っているんです」

「何を言っている、白瀬。私はそこまで臆病ではない」

「では、外に出ましょう」

「なな、しかし・・・」

「私も付いて行きますから」

「ま、なら、少しは気が持てるな」

「なんです、その赤い表情」

「君ね、表情で何がわかると言うんだ、全く、」

「ふふ、やはり、それでこそ先生です」

「私は作家だぞ、白瀬、分かりきったことを言うほど、凡人目線ではないわ」

「あらら、そのような事を言ってしまうあたり、ちょっと心配です」

「なぜだね?」

「だって、私は先生の助手ですよ?読者目線を心得ているので」

「そうか、つまり、どうだと言うんだ?」

「聞かせてはいけない言葉、と感じまして」

「言葉に優劣はない、あるのは理解尺度の優劣だけだ、」

「つまり?」

「君の言う、読者目線とやらは、やはり読者に既存すると言う事だよ」

「なるほど、では、先生は多種多彩な技法を取り入れる必要がありますね」

「なぜだね?」

「だって、読者とは、最後まで読むとは限りませんから」

「なら、読者の器がそれまでと言う事だよ」

「あらら、やはり先生が心配です」

「君は、言葉に重きを置いているのか?」

「そうですね、言葉とは眼に見えますから」

「そうか、では私の考えとは一致しないな」

「果て?」

「つまりな、本とは言葉で楽しむものではないからさ」

「なるほど、面白いことを言いますね」

「本とは言葉によって建てられるが、実質、狙いは対話なんだ」

「なるほど、やはり読者目線で書いてるじゃないですか」

「本質とは、本よりも相手の心に書き留めねばいけないのさ」

「いい言葉ですね」

「当たり前だ、作家だぞ、作家」

「ふふ、その豪の強さ、私以外の前でも見せれたら良いんですけどね」

「な、余計なことを言うな、締まりが悪いだろ」

「すみません、カッコつけても、やっぱり、先生なんだなって思いまして」

「私は私だ、何を当然のことを言っている、それにカッコつけてはいないよ」

「では、なんだと?」

「ありのままで、これだと言うことだ」

「ふふ、やっぱり先生ですね」

「君は、どうにも、勝ち気だよな」

「先生に似たのでしょうかね」

「私はな、君と違って、比べることはしないのだよ」

「ほほ〜?」

「聞いて屈しろと言うのが、私だ」

「なるほど、作家だから、他の人に物言わせたくないんですね」

「まだ分かっていなようだな、作家たる志を」

「教えて下さい」

「では、前金を払いたまえ」

「なぜですか?」

「そりゃ、本ってのはそういうもんだろ」

「いえいえ、私はあなたの助手ですよ」

「属がらにかこつけて、甘い蜜を吸うだけとは」

「分かりました、では、これ、あげます」

「なんだこれは?」

「知恵の輪です」

「ほお、興味がないな」

「でも、受け取りましたよね?」

「なんだ、触ったら、アウトなのか?」

「はい、税理士が言うには、物的財産は手をつけた時点で利害が生じるとの事です」

「いやお前、末恐ろしいやつだな」

「これでも、先生の助手ですからね、」

「そうか、では、作家の志を対価とし教えよう」

「おお、話がはやい」

「作家とは、話が出来てはいけないのだよ」

「どう言う事ですか」

「話が通じてしまえば、本でなくても良いのだ、」

「ほお?」

「ま、簡単に言えば、わざわざ字面とすると言う事は、隠語に気づけと言う事だ」

「隠語ですか?」

「これは作家になる前提なんだが、言葉というのは、全てが何かの俗称なんだよ」

「ほお?」

「そうだな、例えば、君の言った、今のほおと言う言葉だが、これにもルーツがある」

「え?」

「大概の人は言葉を無意識的に識別して流れに沿って言い得てるが、それはその人を表しているんだ」

「え?全く分かりません」

「当たり前だ、これは作家になる絶対の条件だ、これが分からねば、作家にはなれないんだ」

「説明してくれますか?」

「そうだね、君が培った経験とは言葉によって体現されるんだ」

「ほお、つまり、私が見たものが作家には言葉を見るだけでわかると?」

「そうだね、そうなる」

「でも、ほおって言葉に何が隠されているんですか」

「それを分かれば、君も晴れて作家だ」

「先生はあらゆる言葉からそのルーツを判断できるんですか?」

「そうだね、無論、私の知るルーツすら、まだ多面的であり、永遠の挑戦とも言える」

「なんですか、それって、」

「一言で言えば、言葉もまた数式であり、計算できてしまうのだよ」

「そうですか、では先生、私はどういった人間かあてて見てくださいよ」

「簡単だ、君は今日、朝、アールグレイを飲んだ、それに新聞記事で四コマを読んでいた」

「なんで分かるんですか」

「言ったろ、人が発している言葉には、必ず起因する事象が絡んでいるんだ、全て筒抜けだよ」

「でもどうやって、それが分かりません」

「君のくれた知恵の輪と同じだ、言葉も組み合わさっているんだよ、そして解ける者には解けるんだ」

「なるほど、先生、凄いです」

「そうか、だったら、ジュースでも奢ってくれ」

「ええ、良いですよ」

「ほっと一息したいしな」

「え?それって?」

「ほお、分かったか?」

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