第16話 そんな戦い……いいの?


「えっ!」


 私は後ろにいる人物から、ピコピコハンマーで叩かれたのだ。凄い衝撃では無いが、まあまあな力で叩かれて鈍い痛みが広がる。

 じんっとした頭を私は、抑えた。


 その人物は、ソフィーだった。仁王立ちをして、眉間に皺がより鋭い視線が槍のように肌に突き刺さる。


「うるさい」



(うるさいのは、私のせいでは無いと思いますが……)


 

 ひりつく肌を、その視線の槍から解放させたくて口を震えさせた。


 

「すっ、すみま……」



「はい!」



 謝って、この場を収めよう。そう思ったのに、シンがそれを阻止した。大きく手を挙げて、アピールをする。

 ソフィーは、表情を変えずにピコピコハンマーで発言を許すと指す。


 

「エマは、悪くありません! 色々と相談をしてたら、話が盛り上がったんです!」



(おお、意外とそれとなりに言えるのね?)



 そう感心したのも束の間。シンは立ち上がって、余計なことまで言い始める。



「ダイアモンドというのは、地球でも加工ができます!」



 嬉々とした表情で言い終えた。それは、とても重要なことを自分が知っているとでも言いたげだ。



 ソフィーの額には、先ほどよりも深く濃い皺を刻む。そして、片眉を跳ね上げて口角をぐっと上げた。

 その表情は、なんとも恐ろしい。ぞくりと背中を伝う汗を私は、感じる。



「ダイアモンドというのは、酸化鉄で磨きますよね! 酸化鉄を多く含む、火星だとしても! 敵ではありません!」




(いや、なんの話? 敵ではないって、ダイアモンドを磨く技術をかけて戦ってるわけではないんだよ)



 私は、瞳を閉じてやれやれと首を緩く振る。振った勢いでこの気持ちを振り下ろしたいと、少し力を強めた。




 ――ピッッ



 その音が聞こえてきて、私は目を見開く。――叩かれていたのは、イアンだった。


 

「な、なんで! 先輩なんすか!」



 何故かわからないが、叩くなら自分にとシンは自分の頭を指をさしはじめた。イアンはそもそも、このグループの責任者。

 グループで騒いでいるのだから、しょうがない。



「シン。静かにできないなら、外に出すぞ」


 

 ソフィーの冷たい言葉によって、ようやくシンは席に座り大人しくし始めた。

 スアは叩かれてないはずなのに、自分の頭を撫でて痛そうに何故かしている。



「イアン、なんとかできないのか?」



「はい……善処します」



 ソフィーは、イアンの返事を聞いて怒った表情のまま自席に戻って行った。チラリとイアンのことを盗み見た。なんとも可哀想な役回りだ。周りを漂う空気が、暗く重たい。



(あ、うん。すみません。でも今回も私、悪く無いと思うんですよね!)



 静まり返ったこの部屋に、天王星人の声が響き渡った。




「我々からの提案です! こんな小さな身体で、戦うのは不利だとは思いませんか? 思いますよね!」



「いや、まだ何も……」




「叩いて被ってじゃんけんぽん! で、決着を決めましょう!」



(ちょっと待って。この戦いルール決めたの、天王星人なのに? 不利ってどういうこと!)



 私の頭の中は、はてなでいっぱいになった。ぐるぐるとローディング画面が、目の前に表示されているような感覚になった。




 「いいでしょう。それが、本当の闘い方なんですよね?」




 「そうですよ!」



 というわけで、じゃんけんがはじまる。火星人は、人間型なのでじゃんけんだろうが関係ないが。天王星人は、ウミウシのような形でじゃんけんなんてできなさそうだ。



 「それでは……じゃんけん、ぽん!」



 天王星人の掛け声で、始まった。ウミウシに生えているふたつの触覚が、手の代わりらしい。それが、器用にもじゃんけんの手をする。



 天王星人が、パー。火星人が、グー。ピコピコハンマーが、火星人の頭の紙風船を割った。



 ――ピッッ




「じゃあ、次ですね!」



 なぜだか、天王星人がじゃんけんで全勝。後出しをしている様子も見受けられないのに、だ。




「ど、どうなってるんだ?」



(それは、私も知りたい)



 誰とじゃんけんをしても、天王星人は必ず勝つ。さらには、あいこにもならない。


 不思議で仕方がないが、首を私とシンで傾げるだけだ。なんせ、先ほど注意を受けたばかり。静かにしていないとと、頭の中で警報が鳴っている。



 一応、私の警報はシンにも聞こえているらしい。その一言漏らしただけで、静かに黙っている。




「さあ、これで私たちの勝ちですね!」


 

 とても静かな戦いだった。それに、被ってというが被るものがない。


 ――バーンッ


 

 天王星の勝利を現す、紫色の煙が立ち上がる。



 

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