第15話 それは、反則なのでは?笑


 木星人の宇宙微生物が、ふわふわと漂う。ピコピコハンマーもその動きに合わせて、のんびりとしている。



 一方の金星人は、ぎこちない機械的な動きで、ピコピコハンマーを振り回しながらフィールド内を走り回っていた。

 足についた小さな車輪が、クルクルと速度を上げていく。腕の動きや首の動きは、ぎこちないのに車輪の動きは滑らかだ。



 一気に金星人が、距離を詰めて群れになっている木星人に突っ込んでいく。


 真っ白なボディの金星人は、薄紅色の木星人に綺麗にかわされた。本当にイワシの群れのように、ぽっかり穴が開いているような避け方だ。



「おおぉ! これは、どっちが勝つか分かりませんね!」


「金星人に賭ける!」


「木星人に賭ける!」



 なぜだか、盛り上がり賭け事に発展してしまった。



(いやそもそも、これ戦争なんだからさ。賭け事になるのおかしく無い?)



「んんん! 静粛に! これは、戦争だぞ!」


 その一言によって、がやがやとした雰囲気が一変した。もちろんこの声の持ち主は、ソフィーだった。



 そして、滑らかな動きで薄紅色の木星人が白の金星人のバルーンアートをどんどん割っていく。


 ――パンッ


 ――パンッ



(あぁ〜、それは反則な気がする……)


 そう。3センチの小さな宇宙微生物は、ピコピコハンマーを振り下ろして誤魔化しているが……。画鋲でバルーンアートを割っている。

 しかし、ここにいる皆はピコピコハンマーで叩き割っているように見えるようだ。



(そもそも、バルーンアートってピコピコハンマーじゃ割れないよね)



 ――パーンッ



 桃色の煙が上がった。木星人の勝利だ。


 


「なぁ。俺の目には、画鋲で……」



「シン、私もそう見えた。でも、それを言うのは野暮だとは思わない?」


 少しキョトンとした表情を見せて、周りを見渡し始めた。ひとしきりキョロキョロして、私に耳打ちをしてくる。


「もしかして、違反なのか?」



「……まあ、そう見えるよね」


 判断するのは、私たちじゃ無い。それにどちらにしろ、煙が上がった以上は決定事項なのだ。



「エマもシンも、そう見えたよね? 僕もそう思うよ。でも……まあ、どっちもどっちだよね」


 イアンの言う通り。紙風船よりも割れないであろう、バルーンアートを使ってる。ならば、こちらもと考えるのが妥当だ。


 なんといっても、こんなおふざけルールだけどそれぞれの惑星をかけた戦争なのだから。


 

「そうですね」


 スクリーンには、喜びで舞い踊る木星人が映し出させている。


 木星人と金星人と入れ替わるように、天王星人と火星人とが入れ替わる。



 天王星人……このルールを作った人物だ。ふわふわとヒレを動かして宙を飛ぶ。地球のウミウシのような形をしている。


 2本の触覚に、華やかなカラーに縞模様。可愛らしいイメージを持つ人も多いようだが、皮膚には毒があり危険なのだ。


「この戦い、とても楽しくて良いですねぇ」


 天王星は、たくさんの惑星でできている。そのせいか、なんとも独特な世界観を持っている。かなり冷たい空気に包まれているので、ここ地球はかなり熱いようだ。


 汗なのか、ヒラヒラしたヒレから水が滴っている。


「何が楽しいんだ! 火星人こそが、宇宙のトップ! ダイアモンドを磨く技術は、他の惑星にはできやしない!」



(あっ。あ〜、地球でもできますが)


 楽しそうな柔らかい声の天王星人に対して、強めな口調の火星人。


 火星人は、地球人と同じような人間の姿をしている。パッと見た感じはとても似ている。

 しかし火星人は、地球人のように肺呼吸をしていない。えら呼吸をしているので、水をたっぷり注がれた宇宙服を着用している。


 怒りに任せて、バタバタと動かす腕に合わせて水の揺れる音が聞こえてくる。


 水分はかなりの重さになるだろうが、なんと言うこともなさそうに動かしている。



「ダイアモンドは、地球でも……」


「はぁ、また? うるさいなぁ。心の中で言うだけにしようよ」


(そうだよ、地球でもできるよ)



 かなり冷たい自分の声が聞こえてきて、言った内容に違和感を覚えた。 「あれ? また言う言葉を間違えた?」 と私は、首を傾げる。


「エマ……きっとまた、心の声と反対なんじゃないかな……」


 目を自分の手で覆ってイアンは、ため息を吐きながら言葉を放つ。イアンの隣のスアは、笑いが抑えられないようで手を叩いて笑い出した。



「新人ちゃんは、意外と抜けてるんだねっ!」


(シンのせいで、変なイメージが……! というか、そもそも! 抜けてるのはあなたたち2人なんだけど!)



 巻き込まれてしまい、少し苛立ちが滲み出てしまう。スアとイアンに向けていたので、背後から肩をシンに叩かれた。



「ど、どんまい!」



「お前のせいだよっ!」



 言ってからハッとなって、自分の口を押さえた。左右をキョロキョロとして、周りの反応を伺う。

 シンは、口を開けてショックが隠せないでいる。左のイアンは頭を押さえ、スアは先ほど以上に声を上げて笑い始めた。



(ま、まずい……この状況は……)




 ――ピッッ

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