第13話 仲良くなったわけでは!


 コソコソと話してきたスアは、今まで見たことのないしょぼんとした顔をしている。



「実はだけど、土星人って小惑星を地球に売りたいんだって」




 何が言いたいのか分からず、首を傾げながら話を聞く。スアは、なぜ私が首を傾げているのか分からないようで同じように首を傾げた。


 しかも、私が傾げている方に合わせてくるので同じ首の角度で顔が合っているのだ。




(周りから見たら、仲良しだって思われるんじゃ?)


 


「えっと? スア先輩? どういうことですか?」




「そのままの意味だよ! お金を吸い取ろうとしてるんだよ。絶対負けられないね!」



 力強く言う割に、表情はかなり硬い。強張る顔からは先ほどの、土星人の凄まじい威力を思い出す。このスアですら、恐怖を感じるレベルということだ。




 カタカタと指が震えていて、自分の腕を自分でさすっている。そんなスアの肩を、私は軽く叩いた。スアらしくない、という気持ちを込めて。



 ぽんぽんと置いた手をスアは、払いのけてきた。慰めのつもりだったので、驚きで私は目を見開いた。




 「言っとくけど! ボクは、怖いわけじゃないんだからね!」




 いつもの表情に戻って胸を張って、ふんっとした態度を取る。急に態度が一変して、私は目を白黒とさせるしかなかった。

 スアは、目をキラキラと輝かせ始めた。




(あ、あ〜。どうすればいいんだ? この状況)




 少し困り始めて、宙に視線を遊ばせるしかなくなってしまった。ふうっと息を吐いて、今日の食事について意識を馳せ始めた。




(今日の夜は、何にしようかな。さっきは、カレーを食べたんだよなあ……しゃけのおにぎりとかあったよなぁ)



 ほろほろっと口で解けていくシャケが、少し硬めのお米とマッチして美味しいのを思い出す。塩加減もほどほどで、口一杯に食材の味がするのだ。



「新人ちゃん、話聞いてる?」



 スアは、私の額とくっつきそうなほどの距離に顔を近づけてくる。手を振っているが、顔がドアップなのでスアの手なんて視界の端にしか映らない。




「えっと、聞いてましたよ? 地球のお金をって話でしたよね」



 今度は、大きなため息をスアがつく。しかも、目を閉じてやれやれと首まで振っている。両手を腰に当てて、くるんとまつ毛を上に上げる。

 



「違うんだよ。あんな力で叩かれたら、新人ちゃんは死んじゃうよ? ……だから、ボクに任せておけば安心だよ! 怖くなって、抜け出したんでしょ?」



 自分の胸を軽く叩いて、演劇のようなポーズで自信満々だ。スポットライトが、主役のスアを照らしているようにも見えてくる。私はさりげなく一歩後ろに下がって、その演劇を見る。

 


「ボクが土星人の背中に乗って! 紙風船をバーンっと!」




 スアは、両手を振り上げてエアで紙風船を割る仕草をする。そして、スアの想像の中の紙風船が綺麗に割れたところでこちらを見た。その輝いた瞳に、眉を寄せて言葉を濁す。




 何を言ったらいいのか分からず、いい演技でしたと拍手を無感情で送った。私がされたら、あまり嬉しくない拍手もスアにとっては嬉しいようだ。首を縦に振って、私からの拍手を素直に受け止めている。


 赤の髪の毛がさらっと動き、ゆらめいている。




「スア先輩がいれば、安心ですね! さあ、そろそろ戻りますか?」

 

 

 私は、スアの背中をくるりとむけてきた道を引き返す。足を動かさないスアの背中を、グイグイと推し進めていく。



 まだ、第一ラウンドでどんどんローテーションをしていく。そそくさと部屋に戻らなければ、遅刻になってしまうかもしれない。



(観戦中に寝落ち、さらには騒がしくして……今年の新人のイメージ悪すぎでしょ! しかもシンのせいだし! 本当に、最悪!!)



 そのやるせない気持ちを、スアの背中を押すことで発散をする。力をかけすぎたのか、私の方に体重をかけて少しの抵抗をしてくる。それを私は、さらに力を込めて押し返していく。


 

 近くを通ったソフィーが、私たちの光景を見て目を大きく開いたかと思ったら今度は細めた。大きな声を出して、大笑いをされた。お腹を抱えて、ヒーヒーと苦しそうな声を漏らし始めた。



「そんなに、仲良くなったのか!」



(いや、違いますけど? どこを見て、そう思ったんですか?)




 スアは、その言葉に身体をガバッと起こして私に預けていた体重を一気に解放した。そのせいで私は、前のめりになり転びそうになってしまう。



 講義をしようと口を開いたが、スアの嬉々とした顔を見て口を紡いだ。




「隊長! 仲良くなったんです! それにこの新人は、ボクほどじゃないけど。なかなかやりますよ!」



 ソフィーは、そんな説明を受けなくともその場にいたのだからきっとわかっているだろう。それなのに、優しく微笑み話を頷きながら聞いている。なんだか、親子みたいにも見えてくる図だ。




「スア先輩は、私にもよくしてくれます」



 

 きっとスアが喜ぶであろう言葉を私は、選んで伝える。案の定、スアの顔に花が咲く。大きな大輪の花は、それはもう美しく笑みを漏らした。



 

 

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