アイドルモード・アイドル

はつみ

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♪キセキを信じて一歩を踏みだそう

ミラクルなミライはきっと来るから


  きらきら、してる


  これがきっと、あこがれってきもち



__これはとあるアニメに憧れて、アイドルを志す女の子の物語。






あたし、相間あいまみい! 

ミラアイってアニメの主人公、初泡ういあわあすに憧れる中学一年生!

今日はパパとママに、とうとうとある告白をしちゃいます!




「ママ、パパ! みい、アイドルになりたいの!」


「うーん、応援はしたいけどあなたまだ中学生でしょ」

「まずは歌とかダンスの練習をしたらどうだ」

予想はしていたけど手厳しい。

「うるさい! そのくらい言われなくてもしてるし!」

それに、みいはもう……

「もうオーディションにも申し込んだんだよ!」

「おい! それってアイドルのか? だったら今すぐに取り消すんだ!」

パパは声を荒立てた。まあそれもそっか。だってエントリー用紙の本当だったら保護者にサインしてもらわないといけないところ、自分で書いちゃったし。

でもそれだけ本気ってこと。ここで言い負けるわけにはいかない!

「勝手に申し込んだのは悪いと思ってるけど、親は子どもの夢を応援するものでしょ?」

「限度というものがある」

「今回だけだから、ね? 受からなかったら諦めもつくから!」

「……わかった、今回だけだぞ」

やった。パパは案外こういうときはちょろい。

「もう、後先考えないんだから」

ママはなんだか愛おしそうに呟いた。





「アイドルは笑顔が大事!」ってミラアイでも言ってた。

だから毎日、鏡の前で練習してるんだ。

ああ、やっぱりみいはカワイイ。

こんなにミリョク的な女の子を世間が見逃すはずがない。

それと、さっきママが後先考えないとかなんとか言ってたけどそんなこと一切ないもん!

だってみい、中学生高校生のあいだはアイドルの活動に専念するために、わざわざ受験して大学附属の中学校に入学したからね。

これでエスカレーター式に進学できるからそのたびに受験する必要がない。

やっぱりみいって天才!

「だいすきだよっ♡」

そう言いながら手ではハートをつくり、鏡の前のかわいくて頭のいい女の子にファンサをする。

オーディションは二週間後の土曜日。それまでにダンスも歌も仕上げないと!

まずはミラアイをみてモチベをあげよ!



ミラクルアイドル、略してミラアイ。

全百五十三話構成で、女の子たちが”キセキ”をあつめてトップアイドルを目指す物語。

四年前に放送終了しており、現在はDVD・ブルーレイまたは特定のサブスクリプションサービスでのみ視聴できる。

みいは全話コンプリートBOXを持っているからそれで観るよ。

ディスクをセットして、早速再生。

この回はちょうどあすがチームを組んで初めてのライブをする話だ。

これはあすがチームメイトのいと、ゼムと練習方法で対立したときのセリフ。


「トップアイドルになるには手段なんて選んでらんない! やれることなんでもやらなきゃ!」


やっぱりあすは良いこと言う!

さ!やる気も出たしオーディションに備えよ!





とうとう来ちゃった、オーディション当日。

女子中高生限定のオーディションで、合格者数は八名。

その八人でグループを組んでアイドルデビューすることになる。

応募者数は百三十七名。多いけど、周りにいる子はどうもイマイチ。

これはみいの合格が確実かな。

事務所のあるビルに入ると大きな控え室に案内された。

扉を開けた途端、制汗剤と汗が混じった匂いが生ぬるい空気とともに広がってきた。

そこでは各々がヘアメイクをしたり、歌やダンスの最終確認をしていた。

とりあえず、他の参加者の持ち物が散乱する長椅子に腰掛けた。

このオーディションの審査内容は歌とダンスの二つだ。

歌は自分の好きな曲を選んで歌うことができるが、ダンスはあらかじめ向こうが指定している人気アイドルの曲になる。

あんな量産系のアイドルのどこが良いのだろうか。

もちろん歌う方の曲はミラアイの曲を選んだ。

「始まる前にダンスの確認しとこ」

そう呟き、自信に満ち溢れた足で立ち上がった。





「エントリーナンバー三十一番から四十番の方お入りください」

ついに来た!みいの番!

前の結構かわいい参加者の後をついて歩く。

部屋の中に入るとパイプ椅子が十脚置いてあって、それに座るように促された。

みいのエントリーナンバーは三十二番だからこのグループの中では二番目に発表することになる。

早速、みいの一個前の結構かわいい子のパフォーマンスが始まる。

「エントリーナンバー三十一番、湯浅ゆあさゆあです!」

彼女がそう発した途端、他の参加者がその気迫に少し圧されたのを感じた。

……もちろん、みいも含めて。

その子の歌やダンスは、可憐さも力強さも実力も併せ持った素晴らしいものだった。


そうして、わたしの番が来た。

緊張なんて絶対にしてない。やるべきことをやるだけ。

少しだけ震えた足で立ち上がった。

「エントリーナンバー三十二番、相間みいです!!!」

せめてもの悪あがきとして、ゆあの比にならないくらいの大声を出した。





オーディションから二週間がたった。とうとう結果発表の日だ。

選考結果はメールで届く。

あんなすごい子がいるなんて聞いてなかった。正直全然自信がない。

時間になり、届いてしまったメールをママと一緒に開いた。

結果は……


結果は合格だった。

びっくりして言葉を失ったみいをママは抱きしめた。

「おめでとう、よく頑張ったわね」

その優しい声色に、思わず瞳が潤んだ。

向かいのソファに座るパパに伝えると、嬉しそうにパッと目を見開いて、ただ一言。

「良かったな」

もう、素直じゃないんだから。

合格者は明日、事務所でミーティングがあるらしい。




あの日と同じ建物の扉をくぐる。ただの応募者じゃなくてアイドルとして。

会議室に通されると、そこにはゆあがいた。まだ私たち以外は来ていないみたいだ。

話しかけたい気持ちはあるが、向こうはみいのことを覚えてなどいないと思われるので、目も合わせられず気まずい時間が流れる。

と、思ったらゆあの方から話しかけてきた。

「みいちゃん……であってる? オーディションのとき、たしか隣だったよね?」

「覚えててくれたんだ!」

嬉しくてつい食い気味になってしまった。

「ああ、ごめんねゆあちゃん! みいも覚えてるよ!」

「えっ!? ほんとに? めっちゃ嬉しい!」

「だってゆあちゃんすごかったもん!」

「ありがとう! そちらこそ、みいちゃんの物怖じしない感じがかっこよかったし、あとみいちゃんが歌ってた曲、あれってミラアイのだよね!」

「知ってるの!?」

「うん、わたしもあのアニメ好き!」

思わずゆあに抱きつく。

「あっ! またまたごめん! ミラアイ好きな人周りにいないからつい嬉しくて」

「大丈夫、その気持ちわかるよ。百五十三話もあるからおすすめもしにくいし……」

「それな! こんなに話せるのゆあちゃんが初めてだよ!」

「えへへ、嬉しい。それと、”ゆあちゃん”じゃなくて”ゆあ”でいいよ。」

「わかった! これからよろしく、ゆあ!」

「もちろんだよ、みい!」


他の合格者が揃うまでの時間を二人でミラアイの話をしながら過ごした。





「みんな揃ったな。俺はマネージャーの氷室ひむろだ。これからよろしく頼む」

「よろしくお願いします!」

マネージャー、結構イケメンじゃん。ラッキーかも。

「突然だが君たちのグループ名を発表する」

ホワイトボードに向かってペンで何か書き出した。

「グループ名、何になるんだろうね」

そう伝えたいのだろう。ゆあが目配せをする。

それにみいは、相槌で応じた。


「君たちのグループ名は『ミラージュ☆ドリーム』だ!」

おっいい感じ。

「君たちはこれから、半年後のデビューライブに向けて頑張ってもらう。やれるな?」

「はい!!」

「いい返事だ。今日は今後の流れを説明する」





やっとミーティングが終わった。今後のレッスンの予定を聞いて先が思いやられた。

でもアイドルはこんなことで諦めたりしない!

頬をペシペシと両手で軽く叩いて自分に喝を入れた。

そんなところでゆあが話しかけてきた。

「初日で緊張してたけどみいと仲良くなれて本当に良かった!今日はありがとう、バイバイ!」

「うん!またレッスン日にね」





レッスン開始から一ヶ月たったあたりで、だんだんと不満が募ってきた。

なんというか、大人たちがゆあを贔屓しているように感じる。

ゆあが可愛くて才能があるのはわかるけど、あまり良い気はしない。

それでもゆあは優しくて、憧れだった。

こんないい子なんだもん。そりゃあ贔屓もしたくなるわけだ。



三ヶ月もしたらまだデビューもしてないのに、一人でモデルの撮影の仕事まで取ってきた。

流石に気になったので本人にどういうわけか聞いてみることにした。

「あー、そんなの関係者のオジサンに色目使えば簡単だよ」

そこにはかつての気さくで優しいゆあはいなかった。

「ゆあにとって”アイドル”ってその程度のものだったんだ」

その後、ゆあに沢山の酷い言葉を浴びせてしまったわたしは事務所をやめさせられることになった。





こんなときはミラアイを観るに限る。

小さい頃から嫌なことがあったときはいつもそうしていた。


夢を叶えたかっただけなのに、なんか思ってたのとちがった。

いや、わたしの夢ははなから叶うようなものではなかったのかもしれない。

夢を叶えられる世界にいるあすを見ているとなんだかとても妬ましく感じる。

わたしは”アイドル”になりたかったわけじゃなくて”初泡あす”になりたかっただけなのかな。

そこで、わたしは自分を試してみることにした。


次の瞬間、テレビ画面にアップで映るあすに勢いよく頭突きした。

暗くなった目の前に見えたのは紛れもないわたし、相間みいだった。

ああ、やっとわたしは”理想のアイドル”に成れたみたいだ。

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