第40話
市街地全体を照らす太陽が出現したのだ。
天照が生み出す重さに襲われ、その場に膝を付く八十神は、
「ふぅ……ちょっとこれはね……」
体勢を変え座り込み、新たに生まれようとしている太陽を見上げていた。
「……どうしたの? ぶっ壊れた?」
友恵も八十神同様に、座り込む。この重さに反抗するのが馬鹿らしくなったようだ。
「……あぁ。正直、ぶっ壊れたよ。あり得ないだろ、この圧は……」
「……そうね。……アンタと同じ意見だわ」
「尊が死んでブチ切れたのか? はぁ、僕でどうにかなるのか? 自信無くすよ……」
「それじゃ、諦めるの? アンタが?」
「っは、馬鹿言うな。それじゃ、僕は僕でなくなる。強者がいたら喰い殺す。僕はそうして生きてきた」
八十神は右手から黒い輝きを生み出すと、何度も空に放り投げる。黒い輝きが放たれ、弾ける。それを暫く繰り返していると、輝きが弾けた一瞬だけ自分に掛かる重さを消すことに成功した。
「成程ね。これが重さの正体なら、正反対の力を作って――っよ」
八十神は、またもや指先から黒い輝きを放つ。すると、それが弾けたと同時に、天照が発していた重さが消えた。
「やっぱりここに来てよかった。ほら、帰るよ」
八十神は立ち上がる。
表情は今まで以上に晴れやかだった。
「友恵、お前も来るか?」
「……どうして欲しいの?」
「多分、僕だけじゃどうにもできない。同心は強い。僕でも勝てるか分からない。だからさ、一緒に戦おう。昔みたいにさ?」
八十神は、日差しを背負い手を差し伸べた。
友恵は、その光景に目を丸くして薄く笑った。
(……初めて勝てない相手が出たんだものね、期待しちゃうわよね。……本当、図体ばかり大きくなって)
友恵は、八十神が出雲に来た時から姉のように接してきた。反抗期を迎えてからは、嫌味な性格に変わったが芯は変わっていない。
「いいわよ。なら、他の大名にも声かければ? どうせ、尊のことは警戒するんでしょう?」
「あぁ。奇跡の可能性は潰したけど……こんな力を見ちゃ何でもあり得る」
八十神は携帯を取り出すと、
「伊邪那美かい? あぁ、出雲幹部で出られる奴は全員集めて欲しい。アンタが言った通りだった。天照は凄まじいね。だから――総力戦をしよう」
出雲たちは、この先に待ち受ける戦いへ向け準備を開始した。
夜に差し込む黄金色の日差し。偽りの天の下から降り注ぐ。
輝く黄金のカーテンのように煌めき、揺らめき、この場にいる全員を魅了する。天に坐す神から人間へ手を差し伸べているかのようだ。
「皆さん。矛を収めて下さい」
凛とした女性の声を聞いた。
日本国主。かつて出雲に打倒された太陽神。最も有名なレガリアを持つ神。
「――私の名は、天照大御神」
空に現れた金色の輝きを纏う黒髪の美女が現れた。
「……天照様……そのお姿は……」
天照は、出雲の策略により変貌したひなへ視線を落とす。
ゆったりと、彼女の隣に降り立った。
「私が脆弱なばかりに、ひなさんにも背負わせてしまいました」
ひなを抱きしめ、謝罪の言葉を口にした。彼女の温かさを受け取ったひなは、
「天照様……私は、尊さんを……」
「理解しています。大丈夫、大丈夫ですよ」
ひなの心を落ち着かせるように、耳元で何度も何度も、優しく言葉を掛けていく。
すると、周囲には同心のメンバーが集まっていた。
天照は、ひなの頭をなでると周囲を見渡し、
「……どうでしょうか? 皆さんで、お話をしませんか?」
「お、お話ですか?」
腕の中で驚くひなに、
「はい!」
相変わらずの無邪気な笑顔で答えた。
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