第37話

 束の間の平和が壊されたのは、翌日のこと。

 異変は、松江城近くの市街地で発生した。

 尊の死、伊邪那美の強襲を知らないレジスタンス同心は、異常の渦中へ急行した。

「ちょっと!? 尊はどこにいるのよ!?」

「知らねぇよ!! こっちは寝起きなんだっての!!」

 山を駆け降り市街地へ。

 出雲との戦いの跡が色濃く残る瓦礫まみれの商店街、寂れたオフィス群。その全てが、

「こりゃ……」

「やばいってもんじゃないでしょ……」

 切断されていた。 

 辺り一面に広がるコンクリート製の建物が、美しい切断面を見せていた。まるで、森林を伐採した後のように、斜めに、手当たり次第にといった様子だ。

「コンクリよ、コンクリ。こんな木じゃないんだから」

 芽衣は辺りを見回す。

「ひなだって、こんなに……」

 芽衣は、ひなの訓練場所を思い出した。

 ひなの居合により、斜めや真一文字に斬られた木が立ち並ぶあの場所と、建物が切り倒されているこの景色が重なって見えたのだ。

「……そんなこと」

 芽衣の脳裏にひなの影がチラついた時、大きな衝撃音が辺りに響く。

「っちぃ!? まだやってるってのか!?」

「――ひなッ」

 全員が瓦礫の山を駆け抜け、そこへ向かう。

 銃撃部隊のライトに照らされる化け物の成れの果てがそこにいた。

「……皆さん、わたし……強くなれました」

 ひながそこに立っていた。

 白い頭髪をなびかせるセーラー服の少女が、鬼灯のように真っ赤な両目から、涙のような血を流し、満面の笑みを浮かべていた。

「これだけの力があれば……私たちだけで、出雲を打倒できるはずです」

 彼女が目指した正義の代償は大きかった。 

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