第32話
「将軍ってどう戦うのかしら……ってか、本当にいるのかも怪しいし」
会議が終了してもなお、将軍のことを考えている芽衣は天照の社を訪ねていた。
腐りかけている賽銭箱を通り過ぎ階段を上がる。
「天照様~、いますか~」
腐りかけの本殿の扉をトントンと叩く。
すると、
「はいはい〜。今開けますよ~」
鈍く軋む音を立てながら扉が開くと、奥から天照が顔を出した。
「今日は尊いないんですね?」
「はい、ひなさんと一緒に外を見回りに。最近はひなさんの鍛錬にも付き合っているようで仲良しなんですよ」
その言葉を聞いた芽衣は、赤い髪の毛を逆立てると、
「そんなんでいいんですかぁぁぁぁ!!!」
「きゃぁ!?」
出会い頭に一喝。顔面が肥大化したと錯覚するほど芽衣は激昂している。
「本当にいいんですか!」
「な、なにをですか?」
「尊を取られていいんですか!!!」
「なっ、何をいきなり!? 要件はそれなの――」
「正直、ひなと天照様はキャラ被りしています!」
神の言葉を封殺し、
「なっ!?」
雷に打たれたような衝撃を与えた。
「キャラ……それは、薄々感じてはいました。黒髪に敬語……」
「更に若い!」
「なぁっ!? なんですとぉ!?」
天照に衝撃が走る。
「神に年齢は卑怯です……」
幾たびの衝撃により、その場にへたり込んでしまった。
「男と女。苦難を乗り越え、濃密な時間を共に過ごすことで……次のステップに進むんです。あの二人がそうなってもいいんですか!」
「あ、その……」
ワザとらしいほどに視線が泳いでいる。
「そ、そうですね。会える時間が減るのは少しだけ寂しいかもしれませんが……ですが? 当人同士の問題であって外野が口を挟むのは違うのかなと思うのですよ? それにですね、尊とはそれなりに長い時間を共に過ごしており、言うなれば、母親のような役割でもあり? なので、尊がひなさんをお嫁さんにしたとしても……私は一向に……一向に……」
畳の上で固く結ばれた右手。どこからともなく取り出したハンカチ。それを噛むと憤りのままにグイっと引っ張る。
「一向に構わないのですからぁぁぁぁぁぁ!!!」
大号泣だ。
「泣かないでくださいよ。……安心してください」
芽衣は天照に手を差し伸べる。
「尊の嫁になるのはひなじゃありません、私です」
「あ、それは嫌です」
「はぁ!? 何でですか!?」
真顔で否定した。
「尊に依存して束縛して、輪廻転生しても付いていく勢いじゃないですか? というか、来世の人生貰うって契約書作ってましたよね? 純粋に、怖いです」
「うぐっ!?」
痛いところを付かれたと顔をしかめる。
「まぁまぁ、お義理母さ――天照様」
「不穏な言葉が!?」
「――まぁまぁ、気にせず。ここに来たのは天照様にお願いがありましてね?」
芽衣の態度が変わった。
「へっへへへ……」
恋に盲目な自己中女から、下っ端根性が染みついた雑魚へ早変わりだ。
「いやぁ、出会い頭にすみませんねぇ。実は……ちょいとこれを……」
芽衣が懐から取り出した丸く透明な球体。それを前にした天照は、
「あっ……あり得ないです……これ、これっこれぇぇぇ!?」
動揺する天照を見て、芽衣は確信した。
「どこでそれを!?」
「いやぁ、宴会中に拾いました。ここからが本題です」
芽衣の表情に暗い影が差す。戦闘中のような真剣な表情だ。視線は冷たく刃物のように鋭い。
「ご存じだと思いますが、これは十種の神宝(とくさのかんだから)――生玉(いくたま)。これを使えば、死者の蘇生が可能になります」
「それでは!? 尊の次の人生を縛る計画がスタートを!?」
「当初の予定はそれだったんですが、何故か契約出来なかったんですよね。尊が恥ずかしがっているようで」
「いや、そんな訳がないです」
「てな訳で、これ上げます。代わりに欲しいものがあるんですよ」
芽衣の誘いに乗ったら破滅する。天照はそう感じたのだが、即答できなかった。それほどまでに生玉という神宝を必要としていたのだ。
「……話を聞きましょう」
天照にも大切なモノがある。だからこそ、決断した。天照という神であっても、好き勝手に思い通りに物事が進むとは限らない。神もまた人間と同じ地上に暮らしているのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます