第19話

 松江城前市街地で始まった戦いを見守る人間たちがいた。レジスタンス同心の頭脳を担当する組織、老会の面々だ。

 豪華絢爛の限りを尽くしたホテルの一室にてモニターを前に戦況について話していた。

「ふん、ザコどもが出雲に勝てるわけがなかろう」

「そうですな。奴らには穴だらけの作戦を伝えております。考えの足りない馬鹿どもならば素直に実行することでしょう」

「然様。ところで、現場の様子はこのモニターで見れますかな?」

 壁にかけられた巨大なモニターは真っ黒な画面のまま。

「その筈だが……おい、誰かおらぬか! おい!」

「メイド! はよ来ぬか!」

 老会たちの叫び声が辛うじて聞こえる同フロアの別室。

 そこでは、メイド五人と八十神が老会たちがしようとしていた市街地の戦いをモニタリングしていた。

「……うるさいなぁ」

「呼んでいるようですが? 如何しましょうか?」

「無視していいよ。モニターしても、何の役にも立たないからね」

「では、隣に失礼します。ほら、端に詰めてください」

「……はいはい」

 五枚のモニターには、それぞれの戦いが映っている。ひなと友恵が戦いの口火を切ったようだ。

「計画通りになるでしょうか? 友恵様の性格からして、彼を使用する場面は余りないかと思うのですが?」

「ひぃは僕を信じられないのか?」

「はぁ、違います。というか、その試すような言い方はやめてください」

「化けの皮剥がれてきてるよ?」

 八十神の腿をつねり、憎たらしい言葉を封殺してメイドは何事もないように続ける。

「どちらに転んでもいいようにいくつかプランを用意しておいででしょう? 私が危惧しているのは……伊邪那美様が関わっておいでなので」

 青髪メイドの表情が暗く沈む。対照的に八十神の表情は明るい。

「そうだね。失敗したら何かはあるだろう。ま、全力尽くしてダメだったら、笑って死んでやるさ。だから――」

「死んではダメですッ!!」

 メイドたちが声をそろえた。

 全員の表情が八十神の死を想定することを拒み、表情をこわばらせている。怒っているようにも見えた。

「ご主人様の最後は決まっております。まだここではありません」

「わ、分かってる。実際に死ぬわけじゃないって。……ほら、チョコレート。お前ら好きだろ?」

 お詫びのチョコレートで難を逃れた八十神は、モニターに再び目を向ける。

「ほら、今回の主役が来たよ」

 テーブルの上にある二枚の資料。そこに記載されている顔写真の男性二人が、ひなと友恵の戦いに介入した様子がモニターに映っている。

「僕たちは、コイツ……アキがひなに殺されることを願っていようか」

 八十神の思惑通り、ひなに最初の困難が訪れようとしていた。

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