誰かがやらねば誰もやらぬ 2023日本神話
@anemono
第1話
西暦二千二十年、日本。島根県出雲市。
とある屋敷の大広間。慌ただしく白い制服の男が駆け込んできた。
「伊邪那美(いざなみ)様。緊急伝令が入りました。岡山県全ての拠点が何者かに襲撃を受け――」
「はい、知っていますよ。レジスタンス同心(どうしん)、ですよね?」
暗い影の中から柔らかな女性の声が答える。
「はい。そして、同心のメンバーの中に神との契約を結んだ人間――御子(みこ)の存在が確認できました」
「続けて?」
「はっ」
伝令係は土下座し額を床に付けながら言葉を続ける。
「身長百七十。年齢は十八から二十半ば。天狗を思わせる山伏の衣装と黄金の錫杖を持つ男」
「名前は?」
「――尊(みこと)。そう名乗ったそうです」
伊邪那美と呼ばれた女性は暫く黙りこみ、大切にしまっておいた記憶をゆっくりと取り出した。
「......みこと、尊。……うふふ、うふふうふふふ」
まるで、恋人の吉報を聞いた時のような弾むような笑う声に変化した。
「同心はどこに向かっているの?」
「転移を繰り返し、松江城へ進行していると思われます」
「そう、啓二(けいじ)にも教えてあげないとね。同心にはいるんでしょう、天照(あまてらす)が?」
すると伝令係の肩が震えた。目の前の影の中にいるであろう女王と”天照”との確執を知っているからだ。
「は……はい。尊は天照大御神と契約を交わしていると。ですが、これは不確定な噂に過ぎず――」
「――ありがとう。下がっていいわ」
ぴしゃりと伝令の言葉を止めた。彼女の機嫌を損ねないよう足音を立てずに部屋を後にする。
「やっぱり尊は彼女を助けたのね……妬けちゃうわ」
広間に残ったのは女性一人だけ。
七色のネオンの輝きが差し込む窓辺に一歩足を踏み入れた女性。死人のように白い肌が姿を現した。
「誰もやらないからアナタが前に出た。これはアナタの挑戦であり、生きながら死んでいる人間たちへの教導なのね。……果たして何人が気付くのかしら”世界を変えられるのは自分だけ”だと」
西暦二千年。日本は三つの天蓋と呼ばれるドームに覆われた。
「アナタの隣にいるのは私だけ。あんな陰気なガキは相応しくないの。……あぁ、大好きよ、愛しているわ。……早く、殺したいわ」
それからというもの、この世は常夜の世界に様変わり。巨人が跋扈し神が支配する弱肉強食の時代が続いている。
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