8 全力を尽くすということ


「――やっぱりな」


 虹色の魔力オーラをまとったマルスを見て、俺はニヤリとした。


 ゲームの展開と同じだ。


 土壇場まで追いつめられたマルスは、そこで自分の根源にある力に気が付く。


 そして本来のマルスの魔力である【虹の魔力】を発動する。


 その力は圧倒的で、魔力量が自慢のレイヴンがマルスにその魔力量で圧倒され、敗北する。


「そう、今のお前は俺よりも魔力が高い」


 まともな力押しでは勝てない。


 実際、ゲームではレイヴンが意地になり、あくまでも正面からの力押しにこだわって敗北する。


「だから――俺はその戦法を選ばない」




「いくぞ、レイヴンくん!」


 マルスは【魔弾】を連発してきた。


 その一発一発が一撃必殺の威力を備えている。


 いくら俺でも、今のマルスの攻撃は簡単には防げない。


 何重にも張った【シールド】を展開するけど、それらを易々とぶち抜いてくる【魔弾】群。


「【フライト】!」


 俺は飛行魔法で飛び回り、なんとか避け続けた。


 相手の攻撃力が高すぎて防ぐのは無理だ。


 逃げ続けるしかない――。


 しばらくの間、俺はマルスから距離を取り、一撃離脱戦法ヒット&アウェイに徹した。


 真っ向勝負はしない。


「くっ……攻めてこい!」


 マルスが焦ったような顔になる。


 けど、俺はスルーした。


 今できる最善をやり通す。


 それこそが『全力を尽くす』ということ。


 そして、それこそがマルスと真剣勝負をするってことなんだ。


「真剣に――俺はお前に勝つことを目指す!」


 だから、この戦法をやり通す。


「くっ……」


 やがて、変化が起きた。


 マルスがまとっている虹色のオーラが徐々に減ってきたのだ。


「どうして――!?」

「お前の『覚醒魔力』はすごいよ、マルス。けれど、だからこそ……長くは持たないのさ」


 俺はマルスに告げた。


「お前は短期決戦で俺を一気に仕留めるべきだった。そうすれば、俺は対抗しきれずに負けていただろう」


 さらにマルスのオーラが減っていく。


「こ、このっ……!」


 焦ったように魔弾を連発するマルス。


 俺はなおも避けた。


 そして時折、反撃の【光弾】を放つ。


 とはいえ、それはあくまでも牽制だ。


 俺の目的は時間稼ぎ。


 そして、それに伴うマルスの魔力の目減りだ――。




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