2 マチルダの試合


「すごいわね、レイヴン……」


 マチルダが俺を見つめる。


「次はマチルダの番だな」


 言いつつ、俺は対戦相手の方に視線を向けた。


 次の彼女の相手は四天王の一人、『魔剣士』ファービィ・エッジ。


 強敵だ。


「勝つわよ。あたし」


 マチルダの目が燃えていた。


「勝って、次はあんたと戦う」

「ああ、待ってる」


 俺は力強くうなずいた。


 なんだかスポーツ漫画のキャラクターになった気分だった。


 前世の俺は別にスポーツが得意だったわけじゃなく、そもそも帰宅部だったから、こういうシチュエーションを味わったことがない。


 競技っていいもんだな、と思う。


 気持ちが熱く湧き立っている。


 自分の試合はもちろんだけど、仲間の試合もそうだ。


 マチルダに勝ってほしい。


 勝って、彼女と戦ってみたい。


 学内トーナメントが始まるまで、こんな気持ちになるなんて思ってもいなかった。


「ちょっと……青春してる感じだ」


 俺は自然と微笑んでいた。


 そして、マチルダとファービィの戦いが始まった。




「うぐっ、ぐすっ、ううう……」


 俺は、涙にくれるマチルダの側にいた。


 試合は大熱戦だった。


 正直、マチルダが勝ってもおかしくなかった。


 あと一歩まで追い詰める展開だったけど、最後はファービィの地力が勝って押し切られた感じだ。


「相手のライフポイントも残り100を切ってた……惜しかったな」

「ううう……」


 マチルダが俺に抱き着いてくる。


 俺は優しく抱き留めた。


 俺は、こんなふうに悔しくて泣いた経験がない。


 だからマチルダの気持ちが分かる、なんて間違っても言えない。


 きっと彼女は、この負けで涙を流せるくらいに努力してきた人なんだ。


 何年も、何年も。


 俺もこの一年は努力してきたけど、マチルダとは比べるべくもないだろう。


 だから俺には何も言えない。


 ただ彼女の側にいて、彼女に寄り添うだけだ。


「……ふう、ちょっと落ち着いたわ……」


 そうやって、しばらく泣いた後、マチルダが顔を上げた。


「……あんまり見ないで。ひどい顔になってるでしょ、あたし」

「大丈夫だよ」

「あー、もう。また悔しくなってきた……」


 マチルダが頬を膨らませる。


「秋のトーナメントで今度こそ勝ちあがって、あんたと戦うからね」


 と、俺をチラリと見つめるマチルダ。


「そうだな。約束だ」



 俺はうなずいた。


「ん」


 ちゅっと頬にキスされてしまった。

「勝ってよ。次の試合。あたしの代わりに」

「……ああ」


 俺は照れながら頬を押さえた。


 すごく熱い。


 生まれて初めて『ほっぺにチュー』なんてされたな……。


 うん、なんか青春してる感じで心がときめいてしまった。


「マチルダのために勝つよ」

「っ……!」


 なぜかマチルダが顔を赤くした。


 ん?




****

〇『魔族のモブ兵士に転生した俺は、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために限界を超えて努力する。やがて下級魔族でありながら魔王級すら超える最強魔族へと成長する。』

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