7 主人公である理由を
俺はマルスの試合を見守っていた。
「大した魔力もないし、一年生だし……まあ、私の楽勝かな?」
対戦相手の三年生女子――ライアが笑う。
一方のマルスは明らかに委縮している様子だ。
「魔力値はライア先輩が『531』で、マルスくんは『309』です。かなり差がありますね」
と、キサラが言った。
試合中、対戦している生徒たちの各種データ……『魔力値』や現在の『ライフポイント』などがモニター状の石板に表示されている。
かなりゲームじみた作りだ……っていうか、もともとがゲーム世界だから当たり前か。
確かに、マルスは生徒たちの中では魔力が低く、手持ちの呪文も弱いものが多い。
まあ、ゲームではシナリオが進むにつれて魔力は上がっていくし、使える呪文も増えていくんだけど、少なくとも今の時点ではマルスのスペックはかなり低いといっていいだろう。
とても、学内ランキング上位の生徒に勝てる力はない。
だけど――、
「大丈夫、マルスには俺との訓練で身に付けた『アレ』がある」
「えっ」
「訓練なんてしてたの?」
驚くキサラとマチルダに俺はニヤリとした。
「友だちだからな」
「レイヴン様にお友だちが……キサラ、嬉しいです」
なぜかキサラは感動気味だった。
「ほら、始まるわよ」
と、マチルダが試合場を指さす。
いよいよ試合が始まったようだ。
「もしかして――負けるのか、あいつ」
俺はマルスの戦いぶりを見ながら、我がことのように焦りを感じていた。
マルスはゲーム内の主人公なんだから、なんだかんだ勝つんだろう。
そう考えていたんだけど、現実は甘くない。
マルスは一方的に追い詰められ、ライフを削られていく。
対するライアはほぼノーダメージ。
実力の違いは明らかだった。
「だめだ、勝てない……!」
試合場からマルスがうめくのが聞こえた。
顔面蒼白だ。
訓練ではあんなにがんばってたのに。
上手く行ったとき、あんなに嬉しそうだったのに。
それを発揮できずに、一方的に負けてしまうなんて――。
嫌だ。
勝ってほしい。
「がんばれ、マルス!」
俺は思わず立ち上がって、彼を応援していた。
他人のために、こんなに一生懸命に応援するのは初めてかもしれない。
そもそも、そんなふうに入れ込むほど他人と深くかかわってこなかったからな、前世では……。
いや、今だって『深くかかわった』と言えるほど、長く一緒に過ごしたわけじゃない。
それでも――やっぱり俺はあいつのことを、大事な友だちだと思い始めてるみたいだ。
だから――、
「練習しただろ! 大丈夫だ、お前は勝てる!」
必死で声援を送る。
「レイヴンくん……」
「やれよ、マルス!」
「――ああ」
マルスの顔つきが変わった。
「ありがとう、レイヴンくん。おかげで気合いが入った」
身にまとう雰囲気が、明らかに変わっていた。
そう、それでこそ――『主人公』だ。
「勝つのは僕だ」
「へえ、急に強気になったじゃない」
対戦相手のライアがニヤリとする。
「だけど、声援一つで実力が変わるわけじゃない。それで勝てるほど甘くないわよ。現実って奴は」
「はい、実力は変わりません。ただ――今まで出しきれなかった実力を、気持ちの切り替えで出せるようになるというだけです」
ごうっ!
マルスの全身から青いオーラが湧き立つ。
魔力の輝きが増していた。
魔力自体が上がったわけじゃない。
マルスの言う通り、出し切れていなかった力が、完全に発揮されようとしている――。
「ここからは――僕の全力です」
「はっ! だからって、私に勝てるつもり?」
ライアが魔力弾を放つ。
「はああああああああああああっ!」
二発、三発、四発――。
合計で十七発の【魔弾】が様々な方向からマルスに向かってくる。
「力押しよ。あんたの魔力であたしの魔力を跳ね返すことはできない」
「跳ね返すんじゃない」
マルスが右手を突き出した。
そこから魔力弾が放たれる。
螺旋状に回転する魔力弾――。
「この【螺旋魔弾】は、相手の【魔弾】を弾き、ルートをこじ開ける」
「えっ……!?」
ばしゅうううんっ!
マルスの言うとおりだった。
放たれた【螺旋魔弾】は、ライアの【魔弾】の群れを弾き、隙間を開き、そこから彼女に向かって突き進む。
「きゃぁぁぁぁっ!?」
直撃――。
そして、ライアのライフポイントは一気にゼロになった。
「勝者、マルス・ボードウィン!」
見事な一発逆転だった。
****
〇『魔族のモブ兵士に転生した俺が、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために修行した結果、限界の壁を超えて規格外の最強魔族になっていた。』
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