5 マルスとレイヴン

「稽古?」

「うん。実は特訓中の魔法が一つあってね」


 たずねるレイヴンに、マルスは身を乗り出すようにして説明した。


「だけど、訓練のパートナーがいないと上手く練習できなくて……僕、あんまりクラスの人と仲良くできてないから……」

「特訓中の魔法……?」


 レイヴンは首を傾げた後、


「【螺旋魔弾らせんまだん】か……?」

「えっ、どうしてそれを!?」


 マルスは驚いた。


 彼の得意技は魔力弾の一種である【魔弾】だ。


 ただし、これはオーソドックスな魔法で威力はそこまで大きくない。


 その【魔弾】を螺旋回転させ、威力を倍加させたのがマルスのオリジナル魔法【螺旋魔弾】だった。


 ただし、【魔弾】を螺旋回転させるのは技術的に難しく、なかなか成功できないでいた。


 そして、この魔法のことは誰にも言ったことがない。


 なのに、なぜ彼は知っているのだろうか――。


「い、いや、その……さっき君が訓練しているのを見かけたから、なんとなく察したっていうか……」

「なるほど、さすがレイヴンくんだ! 僕の特訓風景をちょっと見ただけで、僕が身に付けようとしている魔法の正体を見抜くなんて!」


 やはりレイヴンはすごい。


 自分とはまるで違う。


 本物の天才とは彼のような人間のことを言うのだ。


 ますます尊敬の気持ちが強まった。


「……ゲームに出てくるから知ってるだけなんだけど」


 レイヴンがぽつりとつぶやく。


 ゲーム……どういう意味だろう?


 マルスには分からなかったが、今はどうでもよかった。


 それよりも、やはり彼に修行を付き合ってもらいたい。


 それによって【螺旋魔弾】の完成は近づくだろう。


「ま、いいか。俺でよければ付き合うよ」

「ありがとう! やっぱり君は友だちだ!」


 マルスは感謝してレイヴンの手を取った。


「よ、よせよ……照れるだろ」


 レイヴンが恥ずかしそうにしている。


 案外、照れ屋らしい。


「友だちか……はは、なんかいいな。そういうの」


 ぽつりとつぶやくレイヴン。


「で、俺は何をやればいい?」

「ああ。僕が【螺旋魔弾】を撃つから、君は通常の【魔弾】を撃ってほしい。君の【魔弾】を撃ち破れたら成功……なんだけど」


 そこでマルスはハッと気づく。


「魔力差がありすぎて、君の【魔弾】を撃ち破るのは無理だね……僕の【螺旋魔弾】が成功したとしても……うーん」

「じゃあ、俺が威力を絞って撃つよ。それでどうだ?」


 と、レイヴン。


「要するに君の【螺旋魔弾】は通常の【魔弾】を破る威力が必要で、それを確認するための修行なんだろ? なら、俺が『強すぎず弱すぎず』くらいの【魔弾】を撃てば、ちょうどいいテストになる」

「可能ならお願いしたい」

「いいぞ。俺にとっても魔力コントロールの訓練になるから、ちょうどいい」

 レイヴンがにっこり笑った。


「お互いに稽古しようぜ」

「うん、そうだね」


 マルスがにっこり笑った。




 それから二時間ほど経った。


「こ、これなら……っ!」


 マルスが放った【螺旋魔弾】――もう何百発撃っただろうか――が、ついにレイヴンの【魔弾】を撃ち破った。


「おお、今のはよかったんじゃないか!」


 レイヴンが歓声を上げた。


「君のおかげだよ、はあ、はあ……」


 さすがに魔力がほとんど底をついていた。


 ただ、今ので感覚はつかんだ。


 あとは魔力が回復したら、また練習を繰り返せばいい。


「努力家なんだな、マルスって」


 レイヴンが感心したような顔をした。


「俺、結構なんでも投げ出しがちだったから……君みたいな奴は尊敬するよ」

「えっ、そんな……」


 マルスが照れる。


「僕も尊敬しているよ……君は、僕の憧れなんだ」




****

〇『魔族のモブ兵士に転生した俺が、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために修行した結果、限界の壁を超えて規格外の最強魔族になっていた。』

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