3 学園に、俺に並ぶ者はいない


「お、俺、ちょっと用事を思い出したから! それじゃ!」


 ブライさんは逃げるように去っていった。


「ふうっ……」


 逃げ去る彼の後ろ姿をチラッと見てから、俺は魔力を収めた。


「す、すごい……」


 マチルダが俺を呆然と見つめていた。


「あんた、すごすぎよ……」


「レイヴン様、あまりにも……あまりにも強すぎます……」


 キサラも呆然とした様子だ。


「これであいつも威圧的な態度をやめてくれたらいいけど」


 俺は苦笑交じりに言った。




 昼休みの後、午後の授業を受け、やがて放課後になった。


「聞いたよ、レイヴンくん。あのブライ先輩を撃退したんだって?」


 マルスが話しかけてきた。


「ああ、ちょっと威圧的で嫌な奴だったから、軽くお灸をすえたっていうか……」

「相手は学園最強だよ? それを圧倒したって――やっぱりレイヴンくんはすごいよ」


 マルスは目をキラキラさせて俺を見つめている。


「はは、まあそれほどでも」


 俺は照れた。


「僕も……レイヴンくんみたいになりたいよ」


 ぽつりとつぶやくマルス。


「ん?」

「僕はこのA組の授業についていくのもキツくて……自分の才能のなさを思い知る毎日さ。だから君がまぶしく見えるんだ」


 マルスが暗い顔でうつむいた。


「あんまり考えすぎない方がいいぞ」

「僕は貧しい家に生まれてね……魔術師になるのは人生一発逆転みたいな理由だったんだ」


 マルスが語り出す。


 うん、それは知ってる。


 ゲームの主人公のキャラ設定は、やっぱりそのままらしい。


「だけど、実際に魔法を学んだり、魔術師の仕事のことを調べて、だんだんと考えが変わっていった。この力は多くの弱者を守ることができる力だ、って思ったんだ」


 マルスが熱を込めて語る。


「モンスターや魔族の襲来……この世界には助けを必要としている人がたくさんいる。それを守るための力になるのが、今の僕の目標なんだ」


 まさに正義の味方である。


「だから、力がいる。強くならなきゃいけない。なのに、僕には魔術師としての才能が足りない――」

「マルス……」

「だから、僕は君に憧れているんだ、レイヴンくん」


 マルスは熱のこもった視線を俺に向けた。


「僕は君みたいになりたいんだよ」

「そりゃ、どうも……」


 考えてみれば――初めてかもしれないな。


 人生において、他人から『君みたいになりたい』なんて目標として告げられるなんて。


 恥ずかしくて、照れくさくて、くすぐったくて……でも、悪くない気分だった。




 それから、しばらくの時間が流れた。


 俺は毎日学園に通い、キサラやマチルダと交流を深め、あるいはマルスと友情を深め、ときにはトラブルもあったけど、圧倒的な魔力ですべてをねじ伏せていった。


 そして――。


 ついに学内トーナメントが始まる。




 学内トーナメントは魔法学園の一年生から三年生までの全員が参加するトーナメントだ。


 全校生徒611人による学内最強を目指した戦い――。


 場所は校舎に隣接する魔法練習場の闘技場にて行われる。


 安全装置として防御結界が何重にも張られたフィールドで、相手に魔法攻撃を当てるとその威力などが計測され、ダメージ数値が計算される。


 選手にはそれぞれ一定値の『ライフポイント』が与えられ、受けたダメージに応じて減っていく。


 そのライフが0になると負けである。


 まるでゲームみたいなシステムだった。


 で、さっそく一回戦、俺は三年生の女子生徒と対戦した。


「あなたが噂のレイヴン・ドラクセル――」


 相手は緊張しているようだ。


「始め!」


 審判を務める教官が合図をする。


「【魔弾】」

「ひああああっ!?」


 俺は魔力弾一発で相手のライフを0にした。


 開始1秒での勝利――。


「よし、一回戦突破だ」


 この調子でサクサクいこう。





****

〇『魔族のモブ兵士に転生した俺が、ゲーム序盤の部隊全滅ルートを阻止するために修行した結果、限界の壁を超えて規格外の最強魔族になっていた。』

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